どうしても観たくなる、夢と現実を行き来する存在。
メディアへの露出がほとんどないなど、姿を目にする機会が圧倒的に少ないアーティストに、熱狂的なファンが生まれる。
「“この人、実際に存在するのかな”と聴衆に思わせる存在、虚構と現実を行き来するような存在っていますよね。たとえば米津玄師さんは、今でこそ最強にマスな存在になりましたが、元々は知る人ぞ知る、ネット発のボカロPであり歌い手で、テレビでの生歌披露も昨年の紅白が初めてでした。まふまふさんも同様で、ネットの歌い手から、気付けば東京ドームでのワンマンコンサートを実現するところまできています。動画配信ユニットのすとぷり(すとろべりーぷりんす)も、YouTubeの総再生回数がもうすぐ2億回に届きそうなほど人気が伸びています。彼らの面白さの一つにも、やはり、“夢かうつつか”という点がある。ネットでは二次元のキャラクターでいながらも、リアルでは実際にその姿を見せて、パフォーマンスを繰り広げる。そうして、今まで虚構だと思っていたキャラクターが本当に存在すると確認できることで熱が育ち、その熱が熱狂に至るまで燃え盛っていく。ライブでしか見られない姿があるとわかると、その希少価値は上がり、自然とリアルに足が向かう。少し高くても、ほかの予定を動かしてでもチケットを買う人が増える。深さが求められる時代においては、“有休を取ってでも見たい”と思わせるコンテンツを作らねばならないし、それこそがファンの定義。真に“熱狂している”という状態だと思います」(SHOWROOM代表・前田裕二さん)
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さとみ、ころん、莉犬、るぅと、ジェル、ななもり。の6人からなる動画配信エンタメユニットの「すとぷり」。各メンバーがそれぞれ“歌ってみた”動画の投稿など、動画共有サイトを中心とした活動を展開。来年1/15にフルアルバム『すとろべりーねくすとっ!』を発売。©STPR Inc.
定額制の安心感がウケている、モノのサブスク。
もともとは「定期購読」という意味を持ち、定額料金で利用できるサービスを意味する「サブスク(=サブスクリプション)」。音楽や動画配信の定額サービスとして耳にする機会が多い言葉だけど、最近はモノのサブスクも広がりを見せているという。
「昨今の若い人は、昔にくらべて堅実なタイプが増えています。それは、不況の時代に生きていることが大きな理由の一つです。また、インターネットで徹底的に調べられるため、事前に買うものを決めてからお店に行く人が多い。『宵越しの金は持たない』とか『大人買い』という概念や言葉は、もはや過去のものになりつつあります。そんな層に支持されているのが、モノのサブスクです。定額だから毎月の支出が見えやすくて安心。お金の管理がしやすいとウケています」(マーケティングアナリスト・原田曜平さん)
アイテムとして人気なのは、お花やお香など、生活を豊かにしてくれるもの。消えものゆえ、買いに出ずとも家に届く便利さも、ウケている理由の一つに。
「OKOLIFE」は、お線香10本、リーフレット、原料の現物が月に1回届く。天然原料にこだわり、香りは『麻布 香雅堂』が監修。月¥2,500(税込み) https://oko-crossing.net/okolife/
すぐになくなるものが私たちを駆り立てる。
『sonna banana』のバナナジュースは、賞味期限が20分。また、鎌倉にある『モンブランスタンド』のモンブランは、賞味期限が2時間! これまでは賞味期限が短いことは弱点であったはずなのに、そこに“ホンモノ感”や魅力を見出す人が増え、大ヒットしているという。
「いつでも、どこでも、好きなものを手に入れられる時代だからこそ、“早く食べなきゃダメになる”という切迫感や制限のあるアイテムを珍しく感じ、そこに価値を見出して、心惹かれる人が多いのだと思います。ほかの例でいうと、『ユニバーサル・スタジオ・ジャパン』が挙げられます。新しいアトラクションを導入したかと思えば、短い期間で終了させ、また新しいものを導入する…、ということを繰り返し、それも、“早く行って体験しないと、すぐになくなっちゃうかも…!”と、多くの人々を駆り立て、実際に集客を増やすことに成功しています。上手いマーケティング法の一つだと思いますよ」(原田さん)
『sonna banana』のバナナジュースは砂糖やハチミツを使わないことが特徴。ほかでは味わえない、ピュアで濃厚な甘みが口に広がる。¥450 八丁堀本店 東京都中央区八丁堀2‐15‐5
注文を受けてから目の前で作る『Mont Blanc Stand』のモンブラン。栗本来の風味とメレンゲの食感が特徴的。¥600 神奈川県鎌倉市大町1‐1‐12 WALK大町II‐A
傷や心に寄り添えるアーティストが熱い共感を呼ぶ。
完ぺきな人や万能感のある人、ヒーローよりも、暗い部分や人間らしさを隠さず表現するアーティストに支持が集まっている。
「YouTubeでとんでもない再生回数を叩き出すアーティストの共通点は、高い芸術性やクオリティがあることが大前提ですが、“この人(キャラ)になら自分を委ねてもいい”と思わせる、視聴者の心に寄り添える人です。たとえば、シンガーソングライターのまふまふさんは、引きこもりであることや、生きづらかった過去を公言。“受け止めてくれそう”と思わせる、現代のアンパンマンのような弱いものの味方です。また、引きこもりだった自分を応援してくれるファンへの感謝の気持ち、愛情がベースにあり、『オーディエンスを含めてまふまふです』と発言するなど、ファンをカウンターの中に入れてしまうのがすごい。また、同じくシンガーソングライターのそらるさんも、きれいごとだけではない、人間味のある歌詞に共感する人が多く、熱い支持者を生んでいます」(前田さん)
そらる。作詞・作曲を手がける。動画の総再生回数は2億回を突破。ドラマ『ゆうべはお楽しみでしたね』、映画『賭ケグルイ』のテーマ曲を担当したことでも話題となった。
まふまふ。作詞・作曲、編曲、歌、演奏すべてを自分で行う。動画の再生回数が、1000万回を超える曲も。来年3/25には、東京ドームでのワンマンライブが決定している。
前田裕二さん SHOWROOM代表。著書に『メモの魔力』(幻冬舎)など。『スッキリ』(日本テレビ系)の火曜レギュラー。ラジオ『SHOWROOM主義』(TOKYO FM)ではMCを担当。
原田曜平さん マーケティングアナリスト。若者やメディア文化を中心に次世代の研究を行う。著書に『平成トレンド史』(角川新書)など。「マイルドヤンキー」の名付け親。
※『anan』2019年12月18日号より。取材、文・重信 綾
(by anan編集部)