連載「社会のじかん」で、いつも世の中のことを教えてくれる、ジャーナリストの堀潤さん。今回、これまで取材で出会った数多くの人から、特に、若くして今の社会の問題に気づいた人物に再取材。“愛を仕事にする”ことについて迫ります!

誰かの犠牲で成り立つファッションはいらない。

鎌田安里紗

鎌田安里紗さん、26歳。高校進学と同時に16歳で徳島県から単身上京。高校に通いながら渋谷109のショップで働き、ファッション誌のモデルとしても活躍してきました。現在の肩書はエシカル・ファッションプランナー。慶應義塾大学の博士課程に在籍し、同大学総合政策学部の非常勤講師も務めています。

エシカル・ファッションとは、自然環境や生産者に配慮して作られた洋服などのこと。かつて、バングラデシュでは、安い洋服を作るために女性たちが劣悪な環境で働かされていた工場が倒壊し、多くの犠牲者を出したことがありました。アパレルメーカーが、経済的に貧しい国の人々を安い賃金で使い倒していたことが、大きな問題となったのです。

鎌田さんがこの問題に関心を持ち、学び始めたのは17歳のころ。洋服のデザインに関わるようになったのが、きっかけでした。

「企画の仕事を自分でするようになって、お洋服のデザインをする部署に交ぜてもらって服を作るんですが、イメージを決め、パターンに合わせて生地のサンプルを選んで発注すると、ポーンと服になって返ってくるんです。まさに魔法みたいなんですけど、その背景は全くわからない。でも調べてみると実態が少しずつわかってきました。搾取されているとか、貧困に陥るとか、そういった問題が“字ヅラ”ではなくて、本当に起きていることなんだって実感がわきました」

当時の心境は正義感よりも好奇心だったそう。もっと知りたい、自分の目で確かめたいと情報を辿っていき、『ピープルツリー』というファッションブランドに出合います。’90年代から環境保護や途上国の支援を掲げ、世界的に注目を集めていた草分け的な存在です。この出合いがきっかけで鎌田さんは生産現場を訪ねることもできました。正当な賃金が支給され、一日三食がきちんと食べられる環境。子どもに教育を受けさせる仕組みをブランドが一緒になって整備していく姿勢。見てみたかった現実がそこにありました。

「最初は、仕事を提供する・されるという構図があるのだと思っていましたが、実際に行くとそれは全然違いました。彼らがもともと持っている手織りの技術や刺繍の技術をどうデザインするかなど、日本で売れるものを一緒に考えながら洋服が生まれるプロセスはまさに、共同作業。パートナーという関係でした」

鎌田安里紗

その後、鎌田さんは、自分が企画するブランドにエシカル・ファッションを取り入れたいと社内で相談しますが、ファストファッションとの価格競争にさらされ、実現できる状況にはありませんでした。数年後、鎌田さんは独立を決意します。共感を寄せてくれたブランドと共に服の開発をしたり、一般の人たちと現地の縫製工場などを訪ねるスタディツアーを大手旅行会社と企画するなどして、啓発に力を入れるようになります。これまでに、カンボジア、インド、スリランカ、ベトナム、ニュージーランド、岡山など各地でツアーを開催。今年1月からは「Little Life Lab」という会員制のラボを立ち上げ、コミュニティづくりもスタートさせています。

そんな鎌田さんに、「変化の実感はありますか?」と尋ねてみました。

「昔は友達にエシカル・ファッションの話をすると、『すごいね』みたいな言葉が多かったんです。『いいことしてるね』って。でもすごいねって、他人事ですよね。それが最近変わったんです。『実際に環境負荷を抑えるためにはどういう素材を使えばいいか』など、質問をしてくれるようになったんです。それって自分の話になってるじゃないですか。本当に取り入れたいと思ってくれているんだって思うと、とても嬉しい」

鎌田さんの気づきは周りの意識を変え始めています。

かまだ・ありさ 1992年生まれ。慶應義塾大学大学院生。同大学総合政策学部非常勤講師。モデル。高校進学と同時に単身上京。渋谷109でアルバイトをする傍ら、雑誌『Ranzuki』のモデルとしてもデビュー。同時にエシカル・ファッションプランナーとして、フェアトレード製品の製作やスタディツアーの企画ほか、国内外問わず幅広く活動。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー。会員制オンラインラボ「Little Life Lab」主宰。https://littlelifelab.co/

(2枚目写真)タイの山岳民族カレン族の村で「腰織り」を体験。商品企画を行う際や、取材で生産地を訪問。他にも、ネパールやバングラデシュを訪れた。

堀潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。「GARDEN」CEO。NPO法人「8bitNews」代表理事。様々な社会問題や、国、地域、そして人を精力的に取材、発信している。

※『anan』2019年3月13日号より。写真(人物)、取材、文・堀 潤

(by anan編集部)

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