奥山さんは、深作欣二監督の『いつかギラギラする日』や北野武監督の『ソナチネ』などを手掛けた日本映画界のレジェンド。虹郎さんは、キャストとスタッフが誰ひとり決まっていない段階で、出演を快諾したそう。
「奥山さんはお金のためだけに映画を作りません。自分が観たいと思った映画を、奥山さんの心意気に共感したキャストとスタッフで作るというスタイル。僕も奥山さんに共感し、憧れを抱いていたので、出演することに迷いはありませんでした」
武正晴監督は、そんな虹郎さんの演技に魅了されたそう。“表情から立ち振る舞い、雰囲気、何から何まで本当に驚いた”と手放しで大絶賛。
「武監督から、細かい演技指導はありませんでした。撮影現場では、僕自身がトオルとして存在していて。役を作るというよりも、自分の中に湧き出る感情を表現しました」
トオルの危うさを男の色気全開で表現した虹郎さん。とりわけ、銃を構えるシーンは官能的。
「色気を出す演技をしようと思ったことはありませんが、俳優に色気は必要だとは思っています。色気のない俳優にはなりたくないです」
『銃』には観客の度肝を抜く、とっておきのサプライズも。トオルと対峙する「オッサン」を熱演したのは、虹郎さんの父親で俳優の村上淳さん。虹郎さんのデビュー作『2つ目の窓』以来の親子共演を果たした。
「お互いをよく知っている者同士でお芝居をするのは難しかったです。相手が親父だからこそ、僕にとって意味のあるハードルでした。『オッサン』がトオルを執拗に挑発するセリフは、親父のアドリブ。本編を観て、俳優・村上淳を改めて尊敬しましたし、僕の演技を良いほうへ引っ張ってくれたと思っています。親父は僕の演技を褒めてくれ、ふたりで“良い作品に出合えてよかった”という話をしました。実は撮影当初、トオルとして『オッサン』と向き合ったとき、“一瞬、息子の顔をした”と親父に突っ込まれて(笑)。そのカットは本編には使われていませんが、無意識のうちに息子としての感情が顔に出たのかもしれません」
17歳で俳優としてデビューした虹郎さんは、現在21歳。役者として急成長を続け、天才と評されることも少なくない。
「天才とは自分の才能に気付き、伸ばしていく人だと思います。すべての人が才能を持っていて、それを伸ばしていけば、天才になれる。僕は今の環境に生まれたことで、才能を伸ばす機会に恵まれました。そこはラッキーだったと思います」
20歳の夏に撮り終えた『銃』が、早くも20代最初の代表作となりそうな虹郎さん。今後の目標は、役に深みを出し、役の幅を広げていくこと。
「僕の俳優人生において、『銃』は序章の終わりを告げるものだと思っています。これからは年齢的にも違和感なく学生以外の役を演じることができる。仕事を詰め込みすぎず、深みのある役作りをして、役の幅を広げながら、人としての余白を大切にしていきたい。どんどんまわり道をしていきたいですね」
『銃』銃を拾った男の理性が崩壊していくさまを描いたサスペンス映画。企画・製作/奥山和由 監督・脚本/武正晴 出演/村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキーほか 11月17日よりテアトル新宿ほか全国公開。©吉本興業
むらかみ・にじろう 1997年3月17日生まれ、東京都出身。カンヌ国際映画祭出品の主演作『2つ目の窓』で俳優デビュー。出演映画『チワワちゃん』が来年1月18日公開、5月には舞台『ハムレット』に出演予定。
カットソー¥30,000(YOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト プレスルームTEL:03・5463・1500) シューズ(beruf Harajuku TEL:03・6427・6563) その他はスタイリスト私物
※『anan』2018年11月21日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・Ryohei Matsuda ヘア&メイク・TAKAI インタビュー、文・田嶋真理
(by anan編集部)
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