
集中力が切れがちになったり、ぼーっとしてしまう時間が増えたり…。「頭が疲れている」と感じることはありませんか? 自律神経の乱れがちな残暑に、“脳疲労”の状態になっているのかも。最新の脳科学に基づく“脳活”で、脳疲労を回復しよう!
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教えていただいた方
Profile
毛内 拡
もうない・ひろむ 脳神経科学者。お茶の水女子大学助教。脳の情報処理機構やグリア細胞の研究に従事し、よりよく生きるための脳科学の生かし方を幅広いメディアで発信。『健康脳活脳疲労が回復する習慣』(池田書店)など、著書多数。
集中力低下や物忘れは、脳の使いすぎが一因
集中できない、イライラする、ネガティブになる…。こうした症状は「自分の能力や性格のせいでなく、脳のコンディションが低下した、いわゆる“脳疲労”の状態が影響している可能性がある」と、脳神経科学者の毛内拡さん。
「脳疲労」は医学的な診断名ではないが、集中しにくい、考えがまとまりにくいなど、脳の働きが落ちたように感じられる状態を表す言葉。脳も臓器の一つであり、暴飲暴食で胃腸が不調になるのと同様に、負担が続けばコンディションが低下することがあるという。
「脳疲労の背景の一つとして、脳内環境の変化や炎症反応に注目しています。休息不足や慢性的なストレスは、脳内環境の変化や炎症反応と関連する可能性が指摘されており、また、体の別の部位で生じた炎症性物質が血流にのって脳に影響することも。こうした変化が、脳のコンディション低下を招くことがあるのです」
現代人の生活は、SNSや動画の刺激、仕事や人間関係のストレスなど、脳が絶え間なく働き続け、脳に負荷がかかりやすい環境にある。さらに夏は、暑さや室内との寒暖差で自律神経が普段より乱れやすく、相互関係にある脳の負荷は一段と高まる。脳疲労のリセットには、スマホを見る時間を減らすなどして脳の負荷を下げ、規則正しい生活で自律神経を整える習慣をつけることが重要。
「十分な休息は、自律神経のバランスを整えるうえでも大切です。睡眠はもちろん、軽い運動や自然とのふれあい、自分の力で物事を進めているという『自己効力感』を得ることも、脳のストレスをやわらげるポイントです」
そして、もうひとつ、毛内さんが注目しているのが、脳内環境の維持やメンテナンスを支える「グリア細胞」。
「私は、新鮮でワクワクする体験が、神経系を介してグリア細胞の働きにも影響し、脳のコンディションを整える一つのきっかけになるのではないかと考えています。イメチェンする、一人旅をする、複数のコミュニティに参加するなど、主体的に行動しましょう。グリア細胞が働きやすい脳内環境を整えることも、脳のコンディションを考えるうえで大切です」
CHECK!
夏バテは脳疲労とも密接に関わっている!
夏は体温調節のために自律神経がフル稼働し、バランスが崩れやすい。暑さや睡眠不足などは、自律神経や炎症反応を介して脳のコンディションに影響する可能性がある。こうした負担が重なると、食欲低下や胃腸の不調、寝つきの悪さなど夏バテの症状とともに、疲労感や集中しにくさがあらわれることも。
現代人が陥る、脳疲労とは?
脳疲労が続くと、集中しにくい、物忘れが増えたように感じるなど、日常のパフォーマンスに影響することも。なぜ脳疲労が起こるのか。脳を動かす「ニューロン」の働きも踏まえて解説します。

さまざまなストレス源が、脳の健やかさを脅かす
見る、聞く、考える、感情が動く、記憶するといった脳の働きは、神経細胞であるニューロンが担っている。ニューロンが本来の力を発揮するためには、脳内環境を整えるグリア細胞の働きが欠かせない。一方、人間関係の緊張、長時間労働やマルチタスク、デジタルデバイスによる情報過多、慢性的な睡眠不足などは、脳のコンディションに影響する。
「私は、こうした負荷が自律神経や脳内環境に影響し、グリア細胞が働きにくくなることが、集中力や記憶力の低下、メンタル不調の一因になるのではないかと考えています」
グリア細胞

脳疲労の回復に不可欠な脳の“お世話係”
脳には、情報を伝えるニューロンと、それを支えるグリア細胞が存在している。グリア細胞はおもに3種類あり、ニューロンの信号伝達を速めたり、脳の免疫機能を担ったりと、重要な役割を果たしている。なかでも「アストロサイト」は、毛細血管とニューロンをつなぎ、栄養の供給や老廃物の除去、炎症のコントロールなど多様な働きを持つ。グリア細胞は、ニューロンが安定して働くための脳内環境を支えている。
脳を最適化する“脳活”でパフォーマンスを底上げ
脳は何歳になっても変化し続け、脳のコンディションは、日々の過ごし方で整えられるそう。日常に無理なく取り入れられるワークや習慣で、集中力と記憶力を養おう。
脳活1|集中力UP
五感を丁寧に使って“今、ここ”への意識を高めること、自分なら物事を進められるという感覚「自己効力感」をつかむことが、集中力アップのカギ!

① 食レポする
食事の際、料理の見た目や匂い、食感、味わいなどを心の中で実況しながら食べると、脳の注意が一点に集まりやすくなる。「これは『食べる瞑想』と呼ばれるマインドフルイーティングの方法。簡単にいえば食レポです。食事中にスマホを操作する“ながら食べ”は、脳の注意を散漫にさせるので避けてください。お腹のすき具合や口の中の感覚にも意識を向け、食べることに集中しましょう。過食や早食いを防ぐ足がかりにもなります」
② 目を閉じて周りの音を聞く
目を閉じて心を落ち着け、鳥の声や車のエンジン音など、周囲に耳を傾けてみよう。聞くことに意識を向ける時間は、集中力を高めるトレーニングとしてとても効果的。「視覚から入る情報を減らすことで、目の前の音に集中しやすくなります。耳を澄ませて、どんな音が聞こえるか、音の大きさやリズム、方向、距離感などを一つずつ意識してみてください。仕事の休憩中や移動中などの隙間時間にも手軽にできるワークです」
③ スマホの通知を切る
集中したい場面では、スマホの通知を切ることがとても重要。通知のような新しい刺激は注意を引きやすく、通知が入るたびに意識がそちらへ向かって集中力が削がれてしまう。「自分の意思でスマホを見るのと違い、通知によって受動的に注意を奪われると、脳は急な情報処理を強いられ、負担が大きくなります。一度集中が途切れると、元の作業に注意を戻すまで時間がかかります。通知だけでも注意は乱れるのです」
④ 目標を細かく分解する
忙しいときや物事が思うように進まないときは、やるべきことや目標を細かく分解して書き出そう。できることからこなしていけば、集中力を保ちやすくなる。「未完了のタスクが漠然としているほど、脳はそちらが気がかりになり、集中力が途切れます。タスクをなるべく細かく分解し、作業のハードルを下げるのがポイント。小さな目標を一つずつ達成していくことで、自己効力感を高めることにもつながります」
⑤ 読書をする
読書は、文字を読んで内容を理解し、情景を思い浮かべることで、脳の複数の領域を活性化できるうえ、読み続ける行為そのものが、集中を持続させる訓練に。「物語の場合は、内容にひきこまれて注意を向けやすくなります。紙の本なら、紙の質感やページの位置など、デジタルとは異なる手がかりも得られ、自分のペースで読み進めることができるため、自己効力感を覚えやすいともいえます。就寝前の読書もおすすめです」
脳活2|記憶力UP
記憶には、一時的な保存ですぐに忘れる「短期記憶」と長く残る「長期記憶」があり、覚えたいものに関連する“引き出し”を増やすほど、定着して思い出しやすくなる。

① 写真に残らない“詳細な日記”をつける
出来事や行動だけでなく、「そのときの感情や音、匂いなどの周辺情報も一緒に記録する“詳細な日記”は、記憶の手がかりを増やす方法の一つ。「写真には残らないような細部まで書き留めておくことが大切です。こうした記録が習慣化すると、日頃から自然と物事の細部まで意識が向かうようになります。脳は、感情や感覚、状況など複数の要素と関連付けて覚えるほど定着しやすく、後から思い出すときも取り出しやすいのです」
② 写真を撮る前に観察。見返す前に思い出して答え合わせする
写真を撮る前に、自分の目でじっくり対象を見ること。たとえば、お店の料理を撮るときは、色や形、具材、器、盛り付け方などをよく観察してから撮ってみよう。「撮ったことで満足して、対象をちゃんと見ていないことが意外と多いはず。そうなると、対象への注意が浅くなり、その後の記憶が低下することも。写真を見返すときは、『あのお店のあのメニューはこうだったな』などと先に思い出してから答え合わせできると理想的です」
③ ながら作業をしない
勉強しながら音楽を聴く、動画を流しながら作業するなどの“ながら”状態では、注意が分散されて記憶が定着しにくい。とくに何かを覚えたいときは、一つのことに集中するべき。「記憶の定着には、集中と意味付けが必要。しっかり注意を向けて内容を理解し、自分の知識や経験などと関連付けることで、記憶のネットワークがつくられます。ながら作業では、音や映像などの外部刺激によって、記憶の定着を妨げることがあります」
④ スマホはOFF、学習後はしっかり休息をとる
記憶は、学習した後の休息中や睡眠中にも定着が進むため、覚えたい内容をインプットしたら意識的に休む時間をつくること。「休憩中にスマホで動画やネット記事を見る人も多いですが、これでは脳が情報処理を続けてしまい、新しい情報による干渉を受けやすくなります。学習後はしばらくぼーっとするか、目を閉じて休み、夜はしっかり眠ること。睡眠中、とくに深い睡眠は、学習した情報を長期記憶として定着させる過程に関わります」
⑤ 定期的に思い出す
脳は覚えたことをどんどん忘れていくため、記憶力を高めるには地道な反復も重要。覚えたい内容は、翌日、2日後、1週間後などに意識して思い出し、復習しよう。音読などで変化をつけて反復するのも有効。「『エビングハウスの忘却曲線』では、一度学習した内容も時間とともに思い出しにくくなることが示されています。だからこそ、定期的に思い出すことが大切です。忘れかけた頃に繰り返し思い出すことで、記憶の定着につながります」
anan 2510号(2026年9月2日発売)より
































