さあ、日記を書いてみよう。小沼理さんに聞く、「正解のない日記」のはじめ方

日記をつけてみたい。でも、何を書けばいいのかわからない。始めたはいいけど、続かない。興味はあっても、意外とハードルが高いと感じてしまうのが日記かもしれません。15歳の頃から日記を書き続け、自身の日記をZINEや書籍として発表してきた小沼理さんに、日記の始め方から、続けるコツ、日記をZINEや本にする面白さをインタビュー。また、書くことに構えてしまう人に向けた「日記の入り口になる5冊」も教えてもらいました。

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    Profile

    小沼理

    おぬま・おさむ ライター・編集者。1992年、富山県出身、東京都在住。著書に『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』(タバブックス)、『共感と距離感の練習』(柏書房)。編著に『みんなどうやって書いてるの?——10代からの文章レッスン』(河出書房新社)。2026年4月、エッセイ集『悲しい話は今はおしまい』(柏書房)を刊行。Xアカウント@onumaosamu

    日記は「後で考える場所」を作ること

    Q. 日記の始めどきがわかりません。

    僕が日記を始めたのは、高校入学の前日でした。「これから新しい生活が始まるし、いろんなことが起こりそうだから、記録しておこう」くらいの、本当に軽い気持ちだったと思います。ちょうど文房具屋で素敵なノートを見つけて、「これに書いてみたいな」と思ったこともきっかけでした。

    今はデジタルツールもたくさんありますが、「このノートを使いたい」「このアプリが気になる」みたいに、書きたくなるアイテムから入るのもいいと思います。

    あとは、誕生日のようなメモリアルな日を起点にするのもおすすめです。普段より少し特別な出来事が起こりやすい日だからこそ、自然と書き残したくなることが見つかる気がします。

    Q. 日記が続きません。

    続かなくてもいいんじゃないですか? って個人的には思います(笑)。書かない期間ができたとしても、またいつだって始めたらいい。毎日書かなきゃと思うと、しんどくなってしまうので、書けない日は「今日は書きたくない日だった」と一行だけ書くのもいいと思います。

    「日記は始めたら、一生書き続けるの?」と思うと果てしないですよね。だったら、まずは一週間だけとか、一ヶ月だけとか、自分が頑張れそうな期間を決めてその間は絶対に書き続けるようにするのはどうでしょう。ゲーム感覚で始めるくらいの方が、案外続く気がします。

    東京・高円寺駅すぐの書店「蟹ブックス」で撮影。店主の花田菜々子さんがセレクトした多彩な本が揃う。日記本も多数。小沼さんも不定期で店番をしている。

    Q. 何を書けばいいかわかりません。

    朝から夜に向かって、順番に思い出して書いてみるといいかもしれません。「何もなかった」と思っていても、実際は意外と何かあるもの。お昼に食べたバインミーがおいしかったとか、帰り道にきれいな虹が出ていたとか。同じことの繰り返しだと思っていた日々も、実は同じじゃなかったんだと感じられるようになると、日記を書くことが楽しくなっていくと思います。

    Q.日記を続けていてよかったなと思うことはありますか?

    僕自身、日記を始めた当初は、「こんなことがあった」とか、単純に出来事を書いていたんです。でも、続けているうちに、だんだん日記の意味が変わってきました。

    たとえば、日常の中で、言いたいことを飲み込んだり、うまく言葉にできないことってありますよね。そういう時に、どう感じた? なぜ嫌だった? といったことを書いていると、「あの時のモヤモヤってこういうことだったのか」と、感情を整理できるようになりました。

    忙しく日々を過ごしていると、心に引っかかったことを後でゆっくり考えようと思っても、結局考えられずに、そのまま日々が流れていってしまうことって多いと思うんです。だけど、日記を書く習慣があると、その「後で考えるよう」の時間がちゃんと用意される感じがあります。

    あとは、日記を書き続けることで、自分の思考のクセが見えやすくなりました。気持ちが落ち込んだ時も、「なぜこんな気持ちになっているんだろう」と、自分を少し客観的に見ながら書いていくと、出来事そのものよりも、それを自分がどう受け取り、そこからどんなふうに考えを広げていたのか、思考のパターンに気づけるようになったんです。そうすると、以前ほど深く気分が沈まなくなりました。

    Q. 日記を書くだけでなく、SNSやブログサービスなどで公開したり、ZINEなどの形で発表することには、どんな面白さがあるのでしょうか?

    僕はコロナ禍がきっかけで、ブログ形式の日記を公開するようになりました。緊急事態下の日記を、自分の手元に置いておくより、記録として公に残しておくのって面白いかもと思ったからです。それがある程度溜まったタイミングでまとめてZINEにしました。

    でも、最初から「売り物みたいなZINEを作ろう」と思わなくてもいいと思います。手書きの日記をネットプリントで公開するのもいいし、一枚の紙を折って小さな冊子を作る「ワンシートZINE」みたいなものもあります。

    僕自身は、日記を本にして売ることよりも、自分の日常が形になることが面白いと思っていて。表紙をどうしようとか、紙をどうしようとか考える時間も含めて、ものづくりの楽しさがある。自分の日常を素材にして何かを作るって、ワクワクすることなんだと思います。

    Q.日記を書くことに苦手意識がある場合は、どんなふうに入り口を見つけるといいのでしょうか?

    日記って、「一日のことを全部書かなきゃ」って思うと急にハードルが上がりますよね。どれぐらいの文量を書いたらいいのかわからないですし、どこまで細かく書いたらいいんだろうと思ったりもする。毎日、ドラマティックな出来事があるわけでもないし、そもそも細かく覚えていなかったりする。

    なので、まずは、いろんな人が描いた日記本を読んでみるのはどうでしょうか。「こんな書き方もあるんだ」と発見がありますし、読み物として純粋に面白いものがたくさんあります。日記の内容だけでなく、ものごととの向き合い方や、言葉の拾い方など、「こういう書き方は真似してみたいな」と思える部分もきっと見つかると思います。

    まずはこの5冊を。小沼さんに聞く、入り口になる日記本

    古賀及子『5秒日記』

    『5秒日記』(集英社)著・古賀及子

    『日記は1日のことをまるまる書こうとせずに5秒のことを200字かけて書くといい』。そんな発想から生まれた一冊。日常のほんの数秒、たとえば靴を履く瞬間や、食卓で交わされる短い会話など、何気ない場面を約200字で丁寧に掬い上げていく。

    「暮らしの中に埋もれた小さな出来事をじっと見つめること。何もないと思っていた日常に、実はたくさんの出来事や感情が潜んでいることに気づかせてくれます。一日のことを全部書こうと思うと急にハードルが高くなりますが、まずは5秒だけ切り取ってみる。そのくらいの小ささで日記をつけてみると始めやすいと思います」(小沼さん)

    日記屋 月日・編『誕生日の日記』

    『誕生日の日記』(日記屋 月日)編・日記屋 月日

    「どんな今日も、誰かの生まれた日」をテーマに、15人がそれぞれの誕生日にまつわる一日を綴った日記アンソロジー。自分自身の誕生日だけでなく、家族や友人、身近な人の誕生日を起点に、LINEのやり取りやささやかな会話など、何気ない出来事が記される。

    「日記の始め時が難しいと思う人におすすめしたいのが、誕生日。自分だけでなく、誰かの記念日なら、いつもと違うことが起きやすく、書きやすい。また、この本はいろんな書き手の日記が収録されていて、それぞれの視点や文章が大きく異なるので、日記ってこんなに自由なんだと感じられると思います」(小沼さん)

    柴沼千晴『生活の観客』

    『生活の観客』自主制作。著・柴沼千晴

    2022年から毎日日記をつけ続け、自主制作の日記本を多数発表する著者。身近な人の暮らしを見つめ、遠くで生きる誰かを想像しながら、時間の流れに沿って記録された断片からは、生活を観察するまなざしと、少しずつ変化していく自身の思考がゆっくりと立ち上がる。

    「朝起きてから夜眠るまで、生活を淡々と見つめていくような日記。一定の距離感を保ちながら、自分の毎日を観察しているような印象があります。定点カメラみたいに自分の日常を一定の距離を置いて見ている感じ。一人の人が生きて、色々なことを感じながら生きていることの静かな凄まじさを感じます」(小沼さん)

    メイ・サートン『独り居の日記』

    『独り居の日記』(みすず書房)著:メイ・サートン

    アメリカの詩人・小説家が、愛する人との別れや父の死、同性愛を公にしたことによる困難を経験した後、ニューイングランドの片田舎で過ごした一年間を綴った日記。

    「怒りや孤独、不安や迷い。整理されていない感情がそのまま言葉になっている。けれど、著者の豊かな感性と表現力で、ぐいぐい引き込まれて読んでしまう。生きた時代や国は違っても、自分と不思議と重なる部分もある。また、ニューイングランドの自然の描写が挟み込まれ、美しい景色と激しい感情が同時に流れていく感覚もおもしろいです」(小沼さん)

    佐久間裕美子『乳がんになってたくさんの天使と出会いながら自分は自分としてしか生きられないと改めて確認した旅の記録』

    『乳がんになってたくさんの天使と出会いながら自分は自分としてしか生きられないと改めて確認した旅の記録』(wAiwAi)著・佐久間裕美子

    NYと東京を行き来しながら活動するライターが、乳がんと診断され、手術までの日々を綴った記録。

    「ショックなことが起きたり、慣れない環境に身を置いたりすると、人はどうしても感情が揺れ動き、混乱してしまう。そんな時に日記を書くことは、自分自身を観察し、整理するセルフケアにもなりうると思います。また、ラフで親しみのある本のつくりも魅力のひとつ。ZINEを作ってみたい人にも、ヒントになる一冊だと思います」(小沼さん)

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    写真・阿部ケンヤ、小沼理(『5秒日記』) 取材、文・浦本真梨子 構成・奥村桜子

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