
「好き」と感じる時、脳はどのような働きをしているの? 脳そして認知の視点から恋愛現象を読み解くことで、科学の側面から胸の高鳴りが起きるワケを学んでいこう。自分の「好き」の源泉がどこにあるのかを知ることで日常がもっと楽しくなること間違いなし!
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あなたの「好き」はどこから?
最初に好きを察知する時、どの感覚情報が優位になるの?
「実生活では初対面の人と密着状態にあるという状況はほぼないことを考慮すると、嗅覚や聴覚などの情報よりも視覚、つまり見た目の影響が大きいでしょう。オンラインデートサービスが普及しつつある中、今後はさらに、視覚情報のみに基づいて意思決定される世の中になるかもしれません」(上田竜平さん)
脳が相手を「好き」と認識するまでの過程は、ほんの一瞬だという。
「視覚情報は網膜から脳の後ろにある“後頭葉”に送られ、色や形、動きなどの感覚情報が処理されます。そうした情報は感情と結びつけられ、最終的な“好き”の意思決定は、さまざまな認知的処理に関わる“前頭葉”の“眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)”で行われます。各領域の関与についてはわかっているものの、実際には領域間で複雑なネットワークを構成しているので、この詳細な処理過程について検証するのはすごく難しいというのが現状です」
「好き」は理屈じゃない!
恋愛のドキドキは「報酬系」と「ドーパミン」がカギ!?
恋愛の形を理論づけるため、多くの研究者が参考にしている“三角理論”を前提に考えてみる。
「これは心理学者のロバート・スタンバーグが提唱した理論で、愛の形を“熱愛”“親密性”“コミットメント”の3要素に分けて考えるもの。3つが描く三角形から、その関係性を友人、一目惚れ、恋人関係、理想的な愛など8種類に分類します。恋人や好きな人のことを考えている時の脳の活動を計測した研究では、脳内の神経の“報酬系”という神経ネットワークの活動が高くなることがわかっていて、この報酬系は、快楽の経験やその動機づけに関わる“ドーパミン”の処理をする経路としても知られています。“ドキドキ”は、相手のことをもっと知りたい、相手に触れたいという行動の動機づけをする報酬系ネットワークから生まれる感情とされ、三角理論でいえば熱愛に最も近いといえるでしょう。ちなみに熱愛には、日頃から相手のことばかり考えてしまったり、相手と物理的に離れることで不安を強く感じるなどの強迫観念的な特徴があり、ダメだとわかっていても手を出したくなってしまうアルコールや薬物の依存症と部分的に共通すると考えられます」
「カッコいい」は、結局みんな好きだから
「外見的魅力」には抗えないのが人間の心理
人を好きになる時、大勢に共通する特徴とは。
「長年の研究から、男女とも相手に求める重要な要素として“外見的魅力”が大きいことがわかっています。その判断に個人差はほとんどなく、美しい顔や魅力的な外見は、他の誰が見ても魅力的なのです。魅力的な外見がもたらす情報は“信頼可能性”の判断に伝播し、特に女性は男性に対して、自分と子どもの生活の安定を最重要視すると考えられます。この結果、信頼できそうな見た目の男性は、恋愛面で人気があるということになります。一方で、ごつごつしたような「男性らしい」顔つきの人からは、気性の荒さなどの攻撃性を感じやすく、信頼可能性が低くなるため、恋愛面で人気が下がることもわかっています。この理論でいえばみんなが同じように魅力的な人を好きになり、同性間で競合が生まれるでしょう。ただそうなると、遺伝子を残せる可能性が下がってしまうため、ある部分で妥協が発生すると思われます。これは実生活のデータにも裏付けられていますが、同じぐらいの魅力を持った人同士が結ばれる可能性が高くなるのです。その妥協がどのような脳の働きによるかは、まだ解明されていません」
好きな相手に「告白」をする文化は世界でも少数派!
互いに好きを意識する「好意の返報性」のからくり

意を決する告白。対面、オンライン、手紙など告白の手段がいくつかある場合、最も成功しやすい方法はどれになるのか。
「実は、日本のように恋愛関係を告白から始める文化を持つ国は少ないため、この検証はまだ十分に進んでいないようです。ただ、自分に好意を向けてくれる相手のことを好きになる可能性が高まるという、心理効果“好意の返報性”が関わっていると考えられます。ある日突然、告白を行うよりは、対面でもテキストでも、好きな相手に日頃から“好き”を小出しにすることは効果的でしょう」
それって、本当に「好き」な状態?
「誤解」(誤帰属/ごきぞく)から始まる恋が意外にも多いらしい
「好き」と言われ続けた相手を好きになってしまう“好意の返報性”から恋愛が始まるとしたら、その「好き」は本物なのだろうか。
「日常生活を送る中で、好きだと言われた相手のことをぼんやりと考えたり意識を向ける時間が増えていくことで、もしかしたら自分も相手のことを好きなのでは…? と認知する可能性はあります。これは社会心理学の用語で“誤帰属”と呼ばれていて、本当はその情報源は違うのに誤解して解釈してしまうような現象のこと。例えば誰かと一緒に吊り橋を渡った時に感じるドキドキが、吊り橋にではなく相手に帰属し、その人のことが好きだと認知してしまう“吊り橋効果”という現象が有名です。恋愛は“外見的魅力”に一目惚れする、あるいは“誤解”から始まるケースのどちらかが多いのではないでしょうか」
「好き」を持続する方法を知っておこう
「セイバリング」と「相互作用」が、関係をうまく保つ秘訣

好きの持続には二人でエキサイティングなアクティビティをやることが効果的だという研究結果があり、遠い場所に旅行するなどがおすすめだそう。
「加えて、遠足当日よりもむしろ遠足の前夜に強くワクワクを感じる心理状態“セイバリング”が有効だと思われます。旅行の準備段階からポジティブな経験を共有することで、二人の絆を強くすると考えられ、脳科学では報酬系の働きになります。同時に、大多数のカップルの破綻原因でもある浮気の回避も大事で、抑制に関わる前頭葉と報酬系の“相互作用”が、好きを持続させるためには大事と考えられます」
恋愛の「好き」と推しへの「好き」って何が違うの?
自分と対象の「関係性」を見つめてみたら…
恋愛関係で抱く「好き」の感情と、推しへの「好き」は全く同じメカニズムではないかもしれないが、似た側面もあると予測する。
「例えば恋愛関係の場合、その後、婚姻関係に進むと大体数の人は一生涯、一人の相手との関係を続けます。生物学的にはめずらしいケースで、その背景には長期的な関係を築くことで生活や養育が安定するというヒト社会の基盤があるからだと考えられています。一方で推しの場合は、少なくとも恋愛や婚姻関係のように排他的ではなさそうです。もちろんたった一人だけを追いかけ続ける人もいますが、同時に複数を推す人も多いでしょう。前述した恋愛と依存症の共通性ですが、推し活としてグッズをたくさん買ってしまうのも依存に近い現象で、依存は報酬系の働きであることを考慮すると、共通した脳のメカニズムの関与があるかもしれません。脳科学的には同じだともいえます」
お話を伺った人
Profile
上田竜平
京都大学人と社会の未来研究院・助教。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。認知神経科学を専門とし、恋愛関係の形成と維持に関わる認知・神経機構の研究成果を国内外の学術論文で報告している。
anan 2483号(2026年2月10日発売)より


















