自己肯定感は、高い時もあれば低い時もある。しかし、常に高い状態でなくてもいいと言うのは、心理カウンセラーの中島輝さん。
「自己肯定感には“総量”のようなものがあり、その量は人それぞれ。誰もが赤ちゃんの頃の最も高い状態からスタートしますが、育った環境などにより比較的高い人と低い人という差が出てきます。とはいえ、自己肯定感の総量が高い人でも、落ち込むことはもちろんあります。自己肯定感は揺れ動いて当然と知っておきましょう」
ただ、自己肯定感の総量が高い人であれば、落ち込んでもすぐに立ち直るし、そもそもあまりネガティブな思考にならないという。
「目指したいのは、この状態。何かあっても“自分は大丈夫”と思えて、望む人生に繋がりやすいんです。“それなら私は自己肯定感が高いから安心!”と思っている人もいるかもしれませんが、油断は禁物。自己肯定感は貯金のようにコツコツ貯めることで大きく育まれるので、どんな人でも、毎日何かしら自己肯定感を高めるアクションをすることが大切です」
自己肯定感は貯められる!? そのカギとなるのが脳のクセづけ。
「脳には、積極的に注目している物事を重要視する仕組みがあります。そのため毎日自己肯定感を上げるアクションを行えば、脳が勝手に“いいこと”を探すようになる。結果、自己肯定感がどんどん貯まっていくのです」
アクションは、「平常時」「ごきげん時」「イライラ時」「落ち込み時」「無気力時」「ネガティブ時」と、6つの気分に合わせて行うことがポイントに。
「紹介するアクションはどれも自己肯定感貯金に繋がりますが、イライラした時に『ごきげん時』のアクションをするより、やはり気分に合わせたほうが効果的。また、自己肯定感は、例えば自己有用感など“6つの感”で構成されていると考えられ、どの気分の時にどの“感”を育むアクションをするといいのかも解説します。それを意識しつつ、取り入れましょう」
そもそもなぜ自己肯定感貯金に“アクション”が有効なのか。
理由は「感情」「思考」「行動」に相互関係があるから。
「『感情』がプラスになれば、『思考』や『行動』もプラスに変わる。でも、感情や思考をプラスに変えるのは難しいんです。一方、行動ならひとまずやればいいだけ。しかも、簡単なアクションでOK。行動がプラスになれば、感情も思考もプラスに変わります」
アクションを行うのは朝が◎。6つの気分からセレクトしよう。
毎日行いたい自己肯定感貯金。「一日の中でも、とくに朝にやってほしいと思います。気分に合わせたアクションで、自己肯定感を上げた状態からその日をスタート。日中、イライラしたり、落ち込んだりと気分が下がった時にもトライ。ただ、無理をすると逆に自己肯定感が下がってしまうので、無理ない範囲で行って」
【平常時】気分に波風ない時は自己有用感をアップ。
とくに落ち込んでいたり、テンションが上がっていたりすることなく、気分がニュートラルな状態。
「そんな時に育みたいのは“自己有用感”。これは自己肯定感を構成する“6つの感”のなかでも、『自分は何かの役に立っている』という感覚です。気分がネガティブに振れている時はこの感覚を持ちづらいため、平常時こそ貯金にうってつけのタイミング。自己有用感が高まると、自分を認められるようになり、自分も何かの役に立ちたいと思うように。そんな自己有用感を貯金するためのキーワードは“癒し”。例えば『動物の動画を見る』など心が和むことに繋がるアクションで、まずは自分自身を癒してあげましょう」
action1 動物の動画を見る
「癒される」「心地よい」と感じるためのアクション。自分がかわいいと思う動物の動画を見ると、そんな気分が触発され、愛情を司るホルモンであるオキシトシンが分泌。満たされた気持ちになり、「この幸福感をほかの人にもおすそわけしたい!」と前向きな感情がわいてくるはず。
action2 鏡の前に花を飾る
鏡は自分の見た目だけでなく、心の内まで映すツール。朝、鏡を見た時に嫌な部分ばかりが目についたら自己肯定感が下がり気味、逆の場合は上がり気味と捉えられる。でも、鏡の前に好きな花を飾れば気分は自然と“快”へと向かい、メンタルの浮き沈みに左右されず、ポジティブ思考に。
action3 休日の朝、靴を磨く
“靴”というのは、ひとつの例。大切なのは、休日の朝に無心で手を動かせるような趣味を楽しむこと。靴好きの人なら、靴磨きセットで丁寧にお手入れを。コーヒー好きの人なら、コーヒーを淹れる過程に熱中するのもOK。幸せホルモンが分泌され、日頃の精神的な疲れが癒されるはず。
action4 観葉植物に声をかける
家に観葉植物を置いている人は、それが自分を見守るパートナーと受け止めて。水やりの時には、胸の内を語りかけてみましょう。声かけにより植物の生育がよくなるといわれていますが、人間にとってもその行為は癒しに効果的。充実感や幸福度が増し、メンタルへの好影響が期待できる。
action5 その時期の旬のものを食べる
おいしいものを食べると心が弾むため、味覚から自己肯定感を高めるのもあり。なかでも、鮮度がよく栄養価の高い“旬のもの”がおすすめ。しかも季節の食材には、例えば鰹なら旬は初夏と秋の2回あり、それぞれ味わいが違うなど、その背景を知ることで五感が刺激されるというメリットも。
【ごきげん時】自己受容感を高めて折れない心を育もう。
自己肯定感貯金は一日にして成らず。ごきげん時にも、コツコツ貯めておくことが大切。
「こうしたポジティブな気分の時に貯めておきたいのが“自己受容感”。これは『私は私』とありのままの自分を受け入れる感覚です。人はポジティブな時もあれば、ネガティブな時もあります。嫉妬心など負の感情も含めて自分のすべてを認められるのが、自己受容感です。気持ちが前向きな時はそれが高い状態と捉えられるので、さらに自己受容感を高めるアクションをプラスして後押しするイメージ。自己受容感が貯まると他者のこともありのまま受け入れられるようになり、周りに振り回されない強い心が手に入ります」
action1 おやつを食べる
ありのままの自分でいい…そんな自己受容感を高めるには、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンの分泌を促すアクションがおすすめ。それにはスキマ時間に自分へのご褒美として、おやつを食べると◎。チョコレートでもスナックでも、ちょっとしたもので大丈夫。小さな幸せを感じよう。
action2 デスクの上に好きな小物を置く
これは視覚から幸せを感じるアクション。小物は家族の写真や、好きなフィギュア、植物など何でもOK。仕事でデスクに座っている時は、とかく気持ちが張りつめやすいので、こうした心がほころぶ小物を目につく場所に置いておくとほっこり。安心感が生まれ、不安を遠ざけられる。
action3 手のひらを胸の上に当てて軽く押す
「ありのままの自分を受け入れられますように」という言葉とともに、胸に手を当て軽く圧をかける。このように胸や腕、お腹など安心感が得られる体の部位に手を当てることを「スージングタッチ」という。自分をいたわり、優しく接することで、自己受容感がアップ。
action4 いつも乗らない電車に乗る
ある研究によると、人の脳は「多様性や新規性のある移動」を探知すると、喜びや幸せを感じるという。その仕組みを生かして、いつものルーティンとは違う電車に乗ってみて。意外性のある移動ほど、幸福感は高くなるそう。見たことのない車窓の景色から、たくさんの刺激を受けよう!
action5 緑のものを身に着ける
色には人の心を動かすパワーあり。色彩心理の効果としては、心身の疲れを癒す、穏やかな気持ちになる…などが挙げられる。そんな色のパワーを借りて、リラックスしたい時には緑のアイテムを身に着けよう。洋服はもちろん、アクセサリーなどポイント的に取り入れるだけでも効果抜群。
【イライラ時】イライラ解消には自己効力感が有効。
自分の思うように物事が進まないなど、なんかイライラする…という時は、どんなアクションを取り入れるといいのだろう。
「そもそもイライラした感情は、怒りに変換されることが多いんです。そんな時は“自己効力感”を高めて怒りから解放されましょう。自己効力感とは『自分ならできる』『大丈夫!』と思える感覚のこと。これを育めば、たとえうまくいかないことがあっても苛立たず、また挑戦しようという気持ちになれるのです。アクションは、例えば『ジャンプをする』など、ストレスコントロール力アップに繋がることを取り入れるのがポイント。自己効力感が高まると、プレッシャーにも強くなりますよ」
action1 ジャンプをする
腕を上に伸ばしたら、視線を上げて軽く9回ジャンプ。少し休んで、もう1回大きくジャンプ! このアクションの目的は、心拍数を上げること。心拍数が上がるとセロトニンが分泌され、イライラした気分がリフレッシュ。ストレスが体から抜けていくイメージでジャンプしよう。
action2 おせんべいをバリバリと食べる
食べ物を噛むと脳の血流が促され、脳のメモ帳ともいわれる「ワーキングメモリー」が回復。結果、思考がクリアになって、できることが増えてくる。ひいては自己効力感がアップするので、“噛む”ことは大事。おせんべいなら、バリバリという咀嚼音がストレス発散にもなって一石二鳥。
action3 肩甲骨を回す
自律神経を、リラックス状態の副交感神経優位にするアクション。イライラして高ぶった気持ちを落ち着かせよう。両肩に両手を置き、肘を前から後ろへ大きくぐるぐる回すだけ。これを何度かやればOK。思考がクリアになるので、アイデアを出したい時などにももってこい。
action4 出かける時サングラスをかける
自分に似合うと思うサングラスを選ぶのがポイント。変身願望が刺激され、新しいことに挑戦してみたい気持ちがわいてくるはず。何かやりたいと思ったら、積極的にトライ。一方、サングラスは人間関係に一線を引くアイテムという側面も。人付き合いを少し休みたい時にプラスするのも一手。
action5 リップの色をいつもと変える
自分の趣味や楽しみに時間を使うと、脳の扁桃体が刺激され、思考力が回復。ポジティブな気持ちになってくる。手軽なアクションとしては、リップをいつもと違う色に変えること。鏡を見るたび視覚から扁桃体が刺激されると同時に、自分のために時間を使ったという自負で自己効力感アップ。
中島 輝さん 心理カウンセラー。「自己肯定感アカデミー」代表。独自の自己肯定感アップ法が支持を集める。著書に『毎日みるだけ! 自己肯定感365日BOOK』(SBクリエイティブ)など多数。
※『anan』2024年6月5日号より。イラスト・山中玲奈 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)