王政に懐疑的な若者らの主張に注目しよう。
5月14日、タイの下院総選挙で、野党の「前進党」が大躍進し第1党になりました。前進党の党首は42歳のピタ氏。王政に懐疑的な姿勢の革新的な野党で、多くの若者たちが支持しました。開票前の、勢いはあってもメインストリームに躍り出ることはないだろうという予想が大きく覆されました。
タイではこれまでにもクーデターが頻繁に起きています。民主政治を目指しながらも、軍事クーデターでひっくり返るということが繰り返されていました。王政に懐疑的な声が広がっていくきっかけとなったのは、前国王・ラーマ9世(プミポン国王)の死でした。
タイは国王を元首とする立憲君主制の国です。国土は王のものであり、王の土地を借りて農作物を作り、ビジネスをしています。前プミポン国王は、亡くなる2016年まで70年間在位し、大変な人格者で人気を博していました。様々な争いごとも最終的に国王が出てきて収めていました。ところが現国王のラーマ10世(ワチラロンコン国王)は王太子時代から問題を起こし、即位後もコロナ禍で国民が大変なときに20名の女性とドイツで豪遊していました。
軍はそんな国王を利用し、国王の好きにさせる代わりに、国王に対して不満を唱える分子を「不敬罪」で次々取り締まっていきました。当然、経済は弱くなりますし、独裁的な権力に富が集中します。自由が奪われ、公正さもなく、モラル的にも問題だと若者たちが王様に対してNOの声を上げ始めた。これは大きな変化です。
タイの与党「タイ団結国家建設党」は軍事クーデター後に樹立された政党で、大企業の経営者などが支持しています。これまでの最大野党は、クーデター前のタクシン元首相の派閥の「タイ貢献党」で、低所得者や農村部の人々が支持してきました。5月下旬、前進党やタイ貢献党を含む8党が連立政権樹立に向けて合意。ただ、タイの国会は上院と下院に分かれており、上院は軍により選ばれた、基本的に与党議員です。下院で野党の数が増えても、上院が承認しないかぎり政権交代はありません。勢力を伸ばした野党を、国家反逆で取り締まるようなことが起きないことを祈るばかりです。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。
※『anan』2023年6月28日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)