先進国であり、経済大国といわれている日本。しかしジェンダーという指標で見ると、この国の印象はまったく違うものに。
「日本は、政治家や会社経営者など、意思決定の場にいる女性の人数がとても少なく、先進国の中では最もジェンダーが不平等。男性リーダーが作ったルールで構成される社会では、自分らしく働き生きたいと思う女性の自己実現はなかなか難しいのが現実です」
と話すのは、ジャーナリストの治部れんげさん。日本をより良い国にするために、若い女性にこそジェンダー問題を知ってほしい、と言います。
「本来、人は、自分がやりたいことを、好きなようにできる、それが望ましい姿です。性別によって可能性を狭めることのない社会が、“ジェンダー平等のある社会”。今の仕事、ファッション、メイクなど、自分が選んでいるものは、“本当に私が好きで、やりたくて選んでいるものなのか?”ということを、ぜひ一度自問自答してみてください。もしかしたら、親や周囲の人、あるいは社会からの、“女の子だからこうしたほうがいいよ”“女の子にそれは無理だよ”という言葉やプレッシャーによって、選ばされているのかもしれません。おかしいな、と思ったら、ぜひその疑問を掘り下げてみて。みなさんのその行動が、平等な社会への第一歩になると思います」
◎ジェンダーとは…ジェンダーとは、生まれたときに診断される生物学的な性別を示す「セックス」とは別の、“社会的、文化的に形成される性差”。男だからこうすべき、女だからこれはダメというような押し付けや、性別にまつわるカテゴリー分けのこと。
ジェンダー・ギャップに関する背景を知ろう。
最近“ジェンダー・ギャップ指数”という言葉を耳にするが、これは経済、政治、教育、健康の各分野で、男女差がどのくらいあるのかを示す数字。153の主要国と重要国中、日本はなんと121位。とても低い位置で、男女格差が大きい国として認識されている。
「他国が国の成長に女性の力が不可欠であることに気がつき、女性の登用を増やし、“女性が自己実現しやすい国”に変わる一方で、日本はほとんど改善がなされず、他国の躍進もあり、ここ数年ますます順位を落としています。結果、人口は減り続け、経済もここ30年ほぼ成長していません。改善のためにはまずは現状を知り、世界からいかに後れを取っているか、危機感を抱くことが大切です」(上智大学教授・三浦まりさん)
文化的背景
女性ならきっと、今までの人生の中で“女の子なんだから◯◯するべき”という言葉をかけられた経験があるはず。「ジェンダー・ギャップが大きい場合、“性別における役割”が文化として定まってしまい、結果“その性別”であるだけで未来が狭まり、好きに生きることができません。わかりやすく言うと、“総理大臣は男がなるもの”と周りに言われたら、総理大臣になりたいという夢を抱く女の子が自然にいなくなってしまうということです」
制度的背景
例えば夫婦別姓を選択できない、あるいは男女に賃金格差があるなど、国の政策や企業内の制度で、予め不平等を内包しているものもある。「女性のほうが正社員への門戸が狭かったり、また“男性の靴は自由、でも女性はヒールで”という規則がある会社も。他にも諸外国に比べてピル入手のハードルが高く、女性が自分の体を自分で守れないという問題も。疑問を掘り下げると根っこにジェンダーが関わっていた、ということは案外多いんです」
MISSION
女性の就業率は上がったものの、女性議員やリーダーを増やすことが急務に。
社会の中の問題を発見し、解決するためのルールを作ったり、あるいは改正する。それが世の中を良くするためのプロセスですが、意思決定する場所に携わる人間のうち、男性の比率が極端に高いと、女性が困っている問題に目がいきづらく、女性に寄り添ったルール作りが難しくなる。「今の日本は、まさにその状況。女性が困っている、女性がそれは違うと思っている問題を可視化し、そのためのルール作りをするには、政治だったら議員、会社だったら役職者など、リーダーといわれる席に座る女性の数を増やすことが一番の近道。女性政治家が増えたからって何が変わるの? と思うかもしれませんが、例えばDV防止法や育児・介護休業法など、女性の権利を守る法律が立法されてきたのは、声を上げた女性議員がいたからなんです」
KEYWORD:ジェンダー・ギャップ指数
日本は先進国で最下位…。不平等な国に生きる私たち。
各国の、政治や経済などのトップリーダーが集まり、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関〈世界経済フォーラム〉が、’06年より公表しているレポート。数値が1に近いほど、男女格差がなく、’19年12月発表データで1位のアイスランドは0.877。一方121位の日本は0.652。初回の’06年以来0.007しか上がっていない。先進国では最下位、さらに新興国を含めてもかなり低い順位。
KEYWORD:マミートラック
気がついたら出世コースから勝手に外されていた…?!
子育てをしながら働く女性が、キャリアアップとは縁遠いコースに追いやられてしまうこと。「本人は、産休前同様バリバリ働きたいのに、責任がある重要な仕事を割り当ててもらえず、経験が積めない。例えばその後“管理職になりたい”と思っても、“経験が足りないから却下”となってしまう。“家事・育児は女性の仕事”という刷り込みをなくし男女が平等に担うようになることが、解消の第一歩」
KEYWORD:ガラスの天井
女性のキャリアアップを阻む、見えない壁の比喩表現。
’16年、米大統領選挙でトランプに敗北したヒラリー・クリントンが、“最も高くて硬いガラスの天井は打ち破れなかった”と言い、一般的になった言葉。「女性頑張れと言う割に、男性と肩を並べようとすると、現状で利益を得ている人たちが作った見えない天井によって、押し戻されてしまう。一朝一夕で割れるものではないからこそ、少しずつみんなで力を合わせてヒビを入れていくことが大事」
じぶ・れんげ ジャーナリスト。出版社を経て現職。著書に『「男女格差後進国」の衝撃 無意識のジェンダー・バイアスを克服する』(小学館)、『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』(日経BP)が。
みうら・まり 上智大学法学部教授。女性議員を増やすためのトレーニングを提供する、一般社団法人「パリテ・アカデミー」の共同代表を務める。著書に『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』(朝日新聞出版)など。
※『anan』2021年4月7日号より。イラスト・石山さやか
(by anan編集部)