――鉄が不足すると貧血になる、とはよく聞きますが…。
伊藤先生:鉄はまず酸素と結びつき、赤くなる性質があります。例えば赤血球や肝臓、粘膜は真っ赤っか。鉄は、そういう体の中の赤い部分の素になる、と考えるとわかりやすいですね。
――もし鉄が不足すると、赤みが消える、ってことですか?
伊藤先生:その通り。わかりやすいところで言うと、よく“アッカンベーをしたとき、下まぶたの裏が白くなっているのは、貧血の証拠”なんて言いますよね。あれは鉄分不足で赤血球が足りなくなって、粘膜の赤みが抜けている状態なんです。
――体にどんな影響がありますか?
伊藤先生:鉄不足で赤血球が減れば、酸素を体の隅々まで運べなくなります。いわゆる酸欠状態ですね。血液検査で「ヘモグロビン値が低い」と言われるのは、この酸素を運ぶ力が弱まっているんです。そこから血行不良になり、冷え症になったりします。粘膜や内臓が弱ってしまい、風邪をひきやすくなったり、アレルギーの原因になることも。また肝臓で疲労物質を分解する力が衰えるので、疲れやすくなったり、朝、起きづらくなることも。鉄不足というと貧血、立ちくらみやめまい、というイメージがあるかもしれませんが、それだけではないんです。現に今、貧血症状もないのに貧血状態に陥る“隠れ貧血”の人が増えています。
――隠れ貧血って?
伊藤先生:血液検査では、よく先ほどのヘモグロビン濃度を調べますが、女性は血清鉄と血清フェリチンという項目も見てほしい。鉄は食事で体に入ると、胃酸によってイオン化され、胃壁を通ってタンパク質にくるまれます。これは、UIBCと呼ばれる鉄です。次に、タンパク質にくるまれた鉄分が、血液に乗って運ばれます。これが血清鉄。最後に、それぞれの臓器で働ける状態、フェリチンという鉄に変化します。隠れ貧血かどうかを判断するとき、このフェリチンの血中濃度、血清フェリチンの値が重要です。
――どう違うんですか?
伊藤先生:たとえるならフェリチンは“銀行預金”で、血清鉄は“タンス預金”、ヘモグロビンは“財布にあるお金”。鉄はまず、財布のお金を減らさないために、預金から崩していくんです。
――なんと!
伊藤先生:財布やタンスにお金があるから大丈夫、と思っていたら、実は銀行の預金(フェリチン)がなかった…それが隠れ貧血になるメカニズムです。フェリチンをうまく作れない体質の人もいます。
――食事でフェリチンを摂ることはできないんですか?
伊藤先生:より近い鉄を摂ることならできます。それが、タンパク質と結びついた“ヘム鉄”です。ヘム鉄は、肉や貝、魚など動物性の食材に含まれます。植物性の食材に含まれる鉄は“非ヘム鉄”といって、体内の吸収に手間がかかります。非ヘム鉄を含む食材を食べるときは、肉や卵など、タンパク質の多いものを一緒に食べるとよいですよ。
――鉄分は、1日にどれだけ摂ればよいですか?
伊藤先生:成人女性の場合、国による推奨摂取量は1日10.5mg。でも私は、それだと足りないと考えています。サプリメントを併用して、できれば1日に16~18mgは摂ってほしいです。
――なぜですか?
伊藤先生:女性は生理があるため、男性より多くの鉄を失います。さらに最近は、ストレスから月経不良や子宮内膜症で出血過多になる人も多く、そうなると赤血球に含まれる鉄分が流れ出てしまうので、当然不足しますよね。
――なるほど。
伊藤先生:あとは激しい運動も鉄不足の原因。スポーツする人は運動しない人に比べてたくさんの鉄が必要になるんです。もうひとつ深刻なのが、食生活の偏りです。昔に比べてレバーやカツオ、頭から内臓まで食べられる魚など、鉄分の多い食材を食べる人が減っていますよね。
――鉄分を含む食材が足りない、ということですか?
伊藤先生:それももちろんですが、タンパク質不足も問題。血管の中を鉄が流れるところを想像してみてください。硬い鉄粉がそのまま流れていたら、まずい感じがしますよね。鉄を運んだり使ったりするには、宅配便みたいにタンパク質のダンボールで梱包する必要があるんです。タンパク質を一緒に摂ることを意識しましょう。
いとう・あやこ あやこいとうクリニック院長。医師、医学博士。分子栄養療法、キレーションをはじめとしたインナーケアを行う。
※『anan』2018年10月31日号より。イラスト・藤田 翔 取材、文・風間裕美子
(by anan編集部)
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