制作陣が語る、時代劇への愛 「自分たちの感覚では江戸時代はすぐそこ」

左から、安田淳一さん、須藤泰司さん

映画『木挽町のあだ討ち』のプロデューサー・須藤泰司さんと、口コミで大ヒットした映画『侍タイムスリッパー』の監督・安田淳一さんが初対面。時代劇への愛と、作り手としての思いを語ってくれました。

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    自分たちの感覚では江戸時代はすぐそこ

    ── まずは、これまでどんな時代劇に親しんできたか教えてください。

    須藤泰司(以下、須藤) 安田監督のプロフィールを拝見すると、1967年生まれですよね? 僕は1968年なので、同世代。おそらく、同じような作品を観てきたのではないでしょうか。

    安田淳一(以下、安田) 同世代ですか。じゃあ、子どもの頃は、夕方に再放送されていた『遠山の金さん』とか、テレビで時代劇をよく観ていた世代ですね。

    須藤 金さんは、中村梅之助さん?

    安田 そうそう!

    須藤 最高でしたよね。

    安田 子ども心に『遠山の金さん』が面白かったのは、金さんが悪人の前で桜の刺青を見せて、「この桜吹雪が目に入らぬか!」と正体を明かすんですけど、その前に素顔晒しているのに、悪人はなんで毎回気づかないんだろう。出落ちやろっていうことを、小学生の時はよくツッコみながら観ていました。

    あとは『暴れん坊将軍』も好きでしたね。僕はチャンバラもそうですが、テレビ時代劇でよく描かれていた市井の人たちの思いやりや助け合いみたいなものに温かさを感じて、ああいう世界観が印象に残っています。

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    『遠山の金さん捕物張』

    江戸時代後期の町奉行・遠山金四郎景元を主人公とした時代劇。1970年代から1990年代にかけてテレビ朝日で放送されていて、杉良太郎さんや、高橋英樹さん、松方弘樹さんなどが、金さん役を歴代務めた。なかでも安田監督と須藤さんが好きだったのが、中村梅之助さん版。 初回放送:1970/7/12 Ⓒ東映

    須藤 すごくわかります。僕がよく覚えているのは、『素浪人花山大吉』。『素浪人月影兵庫』というドラマの続編で、登場人物2人の珍道中なんですけど、それがとにかくコミカルで、子どもながらになんて面白いんだろうと思ったのが、時代劇の一番古い記憶です。あと、僕が好きだったのは『桃太郎侍』。

    安田 あ、僕もです! あれ最高でしたよね。ケレン味の極致やと思いますよ。「ひと~つ、人の世生き血を啜り」って決め台詞を言いながら悪人を斬っていくという。高橋英樹さんが般若のお面をかぶっているんですけど、大きいお顔が全然収まってへんやん、みたいな。

    それにあの襖は誰が開けとんねんっていうツッコミは、僕が今撮っているドラマ『心配無用ノ介 天下御免』のネタの一つになっています。でも、やっぱり高橋さんはかっこよくて、『桃太郎侍』はテレビ時代劇の一つの完成形といえるのではないでしょうか。

    須藤 僕たちが好きだったのは、歴史的な偉人というより、そういう庶民的なヒーローですよね。

    安田 日常の不満をヒーローが解消してくれるようなもの。なかでも、江戸時代を身近に感じていました。

    須藤 僕らは、毎日のように江戸時代を観ていましたからね(笑)。

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    『桃太郎侍』

    高橋英樹さん主演の『桃太郎侍』は、1976~1981年に日本テレビ系列で放送。原作は山手樹一郎の小説で剣の達人・桃太郎が、「ひと~つ、ふた~つ…」と決め台詞を言いながら悪人たちを「鬼退治」と称して成敗する物語。勧善懲悪の痛快娯楽時代劇。 初回放送:1976/10/3 Ⓒ東映

    一時期はマンネリ化。それでは観てもらえない

    安田 あと衝撃的だったのは、テレビ放送で観た黒澤明の『椿三十郎』。

    須藤 僕もよく覚えています。

    安田 逃げようとしていた門番を後ろから斬りつけるっていう場面もびっくりしましたけど、一番驚いたのはテレビ時代劇とは違った演出力。黒澤明ってやっぱりすごいなっていうのは今でも心に残っていますし、自分の作品でパクりました。いや、オマージュしました(笑)。

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    『椿三十郎』

    黒澤明監督、三船敏郎主演で1962年に公開された映画。汚職を正そうとする若侍たちを、凄腕の浪人・椿三十郎が助ける物語。安田監督と須藤さんはこの映画をテレビ放送で観て、テレビ時代劇にはなかった物語と演出に衝撃を受けたそう。

    ── 時代劇は、昭和の頃は民放でレギュラー放送されていましたが、いつの間にか見かけなくなりましたね。それはなぜだと思いますか?

    安田 昔は高年齢の人たちが、無邪気に観てくれはったと思うんです。でも、今の目の肥えた人たちにとって、テレビ時代劇ならではのお決まりのパターンとかチャンバラは、リアリティがないというか。それにだんだん経済が傾いていくなかで、お金のかかる時代劇を作るのは、大変だったと思います。

    須藤 それはリアルにそうですね。そもそもテレビ時代劇が発展したのは、1970年代。それまで堅調だった映画の時代劇の人気が急激に落ち込んで、そこで働くスタッフたちの行き場がなくなりそうになっていたんです。彼らは時代劇の50年以上の歴史から培われた、とても高い技術の持ち主。それをなんとか絶やさず生かそうと、テレビに進出してきたわけです。それが大成功して先述したようなドラマが生まれましたが、どんどんマンネリ化して…。それでは観られなくなりますよね。

    ── 観られなければ制作もされない。時代劇の技術が途絶えてしまう?

    須藤 だから、安田監督の『侍タイムスリッパー』は、笑いながらも、実はあの中で描かれている人たちがみんないなくなってしまいますよっていう話なんです。もしかしたらこの先、職人たちの最後の輝きを映した映画として観られる可能性もあるほどに。

    しかし、そういう作品が誰も思いつかなかったアイデアと面白さで大ヒット。やはり時代劇は、これだけ多くの人の心を惹きつける大きいジャンルだったということを、再認識するきっかけになりました。

    安田 僕は、1本目の映画を撮った時から、簡単に作れる映画では、お客さんはそんなに喜ばないと思っていたんです。でも、『侍タイムスリッパー』は時代劇と絡むお話なので、作るのにお金がかかって結構しんどい。そういう思いをして作るものなら、お客さんが喜んでくれるんちゃうかなと。

    とはいえ、僕はインディーズですし、きっと誰もお金を貸してくれへん。たまたまプロットも面白かったので、それなら東映の京都の撮影所を口説いて何とかできひんかなということで話をしてみたところ、撮影所のみなさんがすごく理解して協力してくださったんです。

    須藤 そういうことだったんですね。

    安田 僕が時代劇を撮りたいと思うのは、時代劇に対する特別な愛情というより、たぶん僕たちの世代以上の人たちが持っている時代劇への郷愁みたいなもので。時代劇を好きだという当然の気持ちが、普通に反映されているくらいですね。

    須藤 集合記憶みたいな。

    安田 まさにそんな感じです。

    information

    『侍タイムスリッパー』

    幕末の会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)が、雷に打たれた拍子に現代の京都の撮影所にタイムスリップ。撮影所のスタッフや、寺の住職夫妻の人情に支えられながら、時代劇の斬られ役として生きる決意をする。「時代劇ではなく現代劇です!」(安田さん) Ⓒ2024 未来映画社

    今は時代劇だけでなくプラスαの要素が必要

    ── 安田さんは『侍タイムスリッパー』を監督、須藤さんは『木挽町のあだ討ち』をプロデュースされたわけですが、一時期低迷した時代劇と関わる映画を、今の時代に制作することに躊躇はありませんでしたか?

    須藤 やはり現代劇と比べると、難易度は高いですよね。時代劇を制作するためには『木挽町のあだ討ち』のように、原作が大きな文学賞を獲っていることが強みになります。そもそも原作自体が、「時代劇」の定石を超えていた。僕はここ数年で時代劇を何本かプロデュースしていて、これはまだ試行錯誤の途中なんですけど、今は時代劇に何かプラスαをすることが大切なのではと。

    例えば、今作の原作は、仇討ちに加えて『オリエント急行殺人事件』のようなミステリーのフォーマットが入っているんです。それに、さらに華やかな江戸文化の歌舞伎や、衣装、食事など市民社会の成熟みたいなものを表現できたら面白いのではと。

    安田 僕も『木挽町のあだ討ち』を拝見しましたが、とても贅沢な映画だなと思いました。というのも、チャンバラとか単純なものが受け入れられない時代に、複雑でリアリティのある時代劇に仕上げている。

    でも、そうなるとなかなかチャンバラが出てこうへんから、それならコストの安い現代劇でもええやんって話になるわけで。それを時代劇でやっているっていうところが、すごく豊かな観賞体験になりました。

    information

    『木挽町のあだ討ち』

    須藤さんがプロデューサーを務める映画。冒頭からいきなりクライマックスともいえる雪上の美しい仇討ちシーンが見どころ。しかし、心優しい菊之助(長尾謙杜)がどうやって仇討ちを? など、加瀬総一郎(柄本佑)が不可解な謎に迫る。2月27日公開。 Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社

    ── チャンバラ以外にも、時代劇だからこそできる表現の魅力や面白さはありますか?

    安田 時代的にコンプラが弱いんでね。細かいこと言わんとすぐに悪人を殺したりするから、ダイナミックな物語とか、感情にメリハリのあるドラマを作りやすいと思いますよ。ただ、それにリアリティを持たせてどう描くかが、難しいところではありますが。とはいえ、一番大事なのは脚本開発をきちっとできるかということなので、それは現代劇と変わらないと思います。

    須藤 そうですね。あとは、昔だったら階層など今とは違う社会のルールがあって、それがキツいからこそ描けることも増えるような気がするんです。そこからはみ出そうとすることへの欲望だったり、そこにいなきゃいけないことに対する葛藤だったり。今はわりと選択肢が自由なので、そういう感情がなかなか生まれない。その意味で時代劇はドラマが描きやすく、作り手としては面白いところなのではないでしょうか。

    ── 最近、改めて時代劇が注目されていますが、おふたりは今後の時代劇がどうなっていくと思いますか?

    須藤 昔のような形で時代劇が隆盛することは難しいと思います。だけど、ジャンルとしての魅力はあるので、生き残るポテンシャルは十分ある。それにはやっぱり圧倒的に面白い作品を作っていかないと。それをコツコツ続けて、映画界に再びしっかり居場所をつくるには、僕はあと10年くらいかかると思います。

    安田 時代劇は、命をかけるところが面白さの一つではあるんですけど、そこに頼りすぎてはいけないと思うんです。それを省いてでも面白いからこそ、剣戟(けんげき)があることがプラスの強みになる。そんなハードルの高い作品を作っていくことが、ジャンルとして生き残る道なのではないでしょうか。

    Profile

    安田淳一

    やすだ・じゅんいち 1967年生まれ、京都府出身。『拳銃と目玉焼』(2014年)、『ごはん』(2017年)、『侍タイムスリッパー』(2024年)。2026年夏クールにBS-TBSで『侍タイムスリッパー』スピンオフドラマ『心配無用ノ介 天下御免』が放送決定!

    須藤泰司

    すとう・やすし 1968 年生まれ、北海道出身。東映映像企画部ヘッドプロデューサー。主な作品はドラマ『相棒』シリーズ、映画『ハケンアニメ!』など。時代劇は『レジェンド&バタフライ』(2023年)、『室町無頼』(2025年)、『木挽町のあだ討ち』(2026年)。

    写真・中島慶子 取材、文・保手濱奈美 anan 2485号(2026年2月25日発売)より
    Check!

    No.2485掲載

    エンタメの系譜 2026

    2026年02月25日発売

    日本エンタメ界で長く人気を誇る“王道”エンタメの現在地を深掘り。若手のブーストステージ『教場』をはじめ、再注目を浴びる時代劇や特撮戦隊ヒーロー、ラブコメの魅力も考察。5月で閉場する大阪松竹座ゆかりのグラビアも必見。さらに、現在ボーイズグループオーディションを手掛ける秋元康さんにもロングインタビュー。スポーツエンタメの頂点ともいえるメジャーリーグに関するページも。

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