
エレファントカシマシの絶対的なフロントマンとしてデビューして約38年。約4年半ぶりのソロアルバム『I AM HERO』を完成させた宮本浩次さん。これまでになかったサウンドとさまざまなアプローチの歌唱がとじ込められ、新たなステージに足を踏み入れたようなとてもフレッシュでパワフルなアルバムだ。6月12日の60歳の誕生日を前にして、なお音楽シーンの最前線を走り続けるレジェンドにインタビュー。anan本誌では紹介しきれなかった特別ロングバージョンでお届けします。
新たな友達に参加してもらった第三極という感じがします
── ニューアルバムの『I AM HERO』、とてもフレッシュでパワフルで、新たな始まりを感じさせるようなアルバムだと思いました。
嬉しいですね。ありがとう。一昨日できたばかりで、私も昨日ちゃんと全曲通して聴きました。エレカシをずっとやってきて、ソロで小林武史さんとご一緒するようになって7年くらい経ちます。「冬の花」や『ROMANCE』みたいなヒットを出すことができて、新たな仲間たちとツアーもやった。去年から「俺と、友だち」っていうプロジェクトを玉田豊夢さんや名越由貴夫さんをはじめとするスーパープレイヤーたちと始めたのは、ロックシンガーっていう原点を取り戻したかったから。歌謡曲も大好きだけど、叫ぶボーカリストに戻りたかったんだよね。
映画『爆弾』の主題歌の「I AM HERO」はエレカシの「ガストロンジャー」みたいな曲を作ってほしいって言われたんだけど、同じタイミングで作ったのが「零地点Bomb」。ラッパーのGiorgio Blaise Givvnさんにアレンジを依頼したんだけど、Givvnさんはすごく歌心のある人で、彼は詩人であると同時に優れた職人だと思うんだ。実際に会ってはいないんだけど、電話で話した上で俺の心にある機微を理解してくれたんだと思うんです。河村康輔さんにアルバムのジャケットのアートワークを依頼したこともそうだけど、エレカシや小林さんを中心とするソロのバンドとはまた違う、新たな友達に参加してもらった第三極という感じがします。
一昨年、テイラー・スウィフトのツアーを東京ドームで観たんですよ。ライブ自体、すごく良かったんだけど、サウンドがめちゃくちゃかっこいいのよ。現代の音を研究してるんでしょうね。その上でちゃんと自分の音にしてる。自分の歌をどこまでも信じている愛に溢れたサウンドだと思って「なんて素敵なんだろう」って。当たり前だけど、歌ってさ、心がこもってるものがちゃんと届いていくのよね。俺は歌手だから、その人がどういう愛情を持ってその音と対峙してくれてるか、一発でわかるわけ。その愛情っていうのは音楽への愛だと思うんだけど。Givvnさんの音は頭のてっぺんから足のつま先まで愛情が通ってると思ったし、最高の音だなって思って感激しちゃいました。
── アルバムのラストに収められたご機嫌なロックンロール/R&Bナンバー「愛を抱きしめろ」のデモバージョンのような「さあ、出かけよう」をオープニングナンバーにしたのはどういう経緯があったのでしょう?
ずっと「出かけようぜ」って言ってる曲を作りたかったんです。「出かける」っていう言葉には「外出する」ということだけじゃなく、思い切って何かをやるっていう意味もあって。「イェーイ! さあ、素敵な明日へ出かけようぜ!」っていう意味なんだと思う。小林さんアレンジの「悲しみの果て」はエレカシのアレンジと比べて、最後にもうひと盛り上がりあるんだけど、ライブでいつもそこで俺は「出かけようぜ! 素敵な未来へ!」とか言うわけよ。だから「出かけようぜ」っていうのは「生きる」っていうことなのかもね。「イェーイ! 生きようぜ!」っていうのも何だから「出かけようぜ!」って言ってるのかもしれない。
「さあ、出かけよう」を小林さんがアレンジして「愛を抱きしめろ」になりました。ミック・ジャガーのハーモニカが印象的な初期のローリング・ストーンズのイメージがあったんですよね。ホーンセクションも入って、小林さんに加えて、玉田さん、須藤(優)さん、名越さんっていういつもの仲間による多幸感溢れるサウンドでアルバムを終えられるのが嬉しいですね。
── 「出かけよう」っていうワードとアルバムタイトルにもなっている「HERO」というワードがキーになっていますよね。
鋭い。本当にそうで。俺は来月60歳になるんだけど、誤解を恐れずに言うと、みんな生きてるだけでヒーローだと思うんです。いろんな努力をしてるわけで。だから“HERO”っていうのは俺のことじゃないんだよね。「イェーイ!」も「HERO」も「出かけよう」も結局は「生きていこうぜ!」っていうことだと思ってます。「I AM HERO」は今回のアルバムの核だけど、「Look at me baby 俺の悲しみの地平線 Good luck yesterday 振り返りゃあ愛と悲しみのこの世界 俺の妄想 俺の懊悩 俺の明日 立ち上がるぜ I AM HERO」って歌詞があって。これも別に俺のことじゃなくて「そういうもんじゃん」ってことなんですよね。
また誤解を恐れずに言うと、生きることってカッコいいわけでもカッコ悪いわけでもないんですよ。エレカシの『昇れる太陽』ってアルバムに入ってる「Sky is blue」で歌ってるけど、みんな光のシャワーを浴びてでかけていくわけですよね。そうやって「生きていこうぜ!」っていうことなんだと思う。
── 「生きているから」には「道徳の思索家も 活動する男たちも 生きているから」という歌詞がありますよね。
あの曲は全部自分で演奏してるんです。結構昔に作った弾き語りのデモを元にしてるんですけど、小林さんと話してる時に、「宮本くん、ドラムも自分でやっちゃえば?」って言われて「なるほどな」と思って。ベース、ギターはいつもの作業場で全部自分で演奏しました。意外にベースが上手かったんですよね。ドラムはすごくいい音で、エンジニアの吉田(誠)さんに録ってもらって。歌詞も同時に出てきた曲であっと言う間に完成しました。
俺は毎回曲順を考えるために徹夜するんです
── 「生きているから」でみんなが生きているというようなことを歌った後、「I AM HERO」でみんながヒーローだということを示して、最後「愛を抱きしめろ」で「みんな生きようぜ!」と呼びかけるような流れが素晴らしいなと思いました。
俺は毎回曲順を考えるために徹夜するんです。人間って徹夜ってできるものなんですよね。学校のテストの前にいきなり勉強する人いるじゃん。ああいう一夜漬けに近いんですよ。「普段からやっとけばよかった」って思いつつ突然パワーが出る時がある。あれなんですよ。最後の一週間で突然2日間徹夜。
結局「I AM HERO」を最後から2番目にしたんだけど、それってすごいメッセージじゃない? サブスクだと曲順関係なくなっちゃうんだけど、スタンダードは作っておきたいじゃん。それを考えてたら全然寝れないんですよ。脳の分泌液が出てきて、気付いたら時間が経っちゃってて、2日間徹夜でも全然大丈夫なの。
── 来月60歳になられますが「生きること」の捉え方に変化は感じますか?
捉え方は何も変わらないけど、30歳の時よりは歳は取ったなって思うよね。白髪が増えてきたし。でもそれなりに余裕はあるんですよ。ただ、元々俺は老成してるっちゃ老成してるじゃん。「デーデ」だって「星の砂」だって10代の時に書いてるわけで、だから歳を取ってやれてはいくけど、あまり変わりはしないっていうことはわかったよね。
新しいことやってるつもりでも、結局同じような歌詞になっちゃってるし。Givvnさんとの「零地点Bomb」は斬新な曲になってるけど、昔書いた「ジョニーの彷徨」って曲も打ち込みだったし、そんなに変わんねえっちゃ変わんねえわけよ。新鮮な気持ちを維持しようとしつつ、同じことをずっと繰り返して、そのままやれていくっていう(笑)。
── (笑)。今作は新たなステージに踏み入れたような新鮮さをすごく感じました。
嬉しいな。最初に言った通り、エレカシがあって、ソロでの小林さんとのユニットがあってどちらも大事な自分の一部で。小林さんと作り上げてきたサウンド、エレカシで歩んできたサウンドは大事なんだけど、おっしゃる通り、第三極をやりたくなったっていうことだと思います。小林さん、名越さん、玉田さん、須藤さん、キタダさんっていう仲間がいるので、音楽的な知識ややれることが増えていくっていう新しさはありますよね。
── 第三極に踏み出したことで、歌唱にはどんな影響があったと思いますか?
今回のアルバムって何を歌ってるか歌詞が聞き取り辛い部分が割とあるんですよね。「零地点Bomb」と「愛を抱きしめろ」と「かなりニュールネッサンスなnew dayよ!」と「feel so fine」。即興で歌うことで、自分の歌にあるストレートさを出すっていうことをあえてやったの。瞬発力っていうか瞬間そのものみたいな歌。
例えば、小林さんとやってる緻密に音楽を組み立ててる中での一コマとして歌があるっていうよりは、その瞬間の自我を出したいと思ったのね。昔でいうと、「ガストロンジャー」なんかも一回しか歌ってないわけで、瞬発力によって何か出るものはないかなって思ってやったことなんです。「はじめての僕デス」から数えてちょうど50年歌ってきたわけで、コンサートもたくさんやったし、積み上げてきた経験値によって力を抜いた歌が歌えるようになったっていうのはあると思う。そこは自慢ですね。
タイアップは自分を客観視できる機会
── 例えば「feel so fine」はバラードですが、綺麗に歌い上げるというよりは、まさに瞬間を押し出した歌に聴こえました。
そう。でも何言ってるかわかんないでしょ?(笑)。(歌川)広重の浮世絵とか、月の光とか季節の変わり目の風とかのイメージがあって。めちゃくちゃ懐かしい感じっていうかさ。細かく詰めようと思えばいくらでも詰められるけど、あえて詰めなかった。実はこの曲は何度か歌い直したんだけど、結局最初のテイクに戻したんですよね。今はコンピューターによって歌の細かいニュアンスがいくらでも調整できちゃうし、私ですら使うこともあるけれど、あえてラフな歌を活かしました。
── 例えば、「I AM HERO」は映画『爆弾』の主題歌で、「over the top」はアニメ『トリリオンゲーム』の第2クールオープニングテーマですが、他のタイアップ曲も含めて、今作もとてもいい形でのタイアップ曲がいくつもありますよね。
そうでしたね。「I love 人生!」もとても素敵なドラマの主題歌(ドラマ『リボーン~最後のヒーロー~』)だし、「close your eyes」は『news23』のエンディングテーマだし、「Today -胸いっぱいの愛を-」もそう。どれも素晴らしいタイアップばかりです。
── 作品に求められる機会を積み重ねていることについてはどんな想いがありますか?
最初から思っていたんだけど、タイアップで自分を客観視できる機会なんですよね。それこそ「今宵の月のように」もドラマ主題歌がきっかけでできた。今回も『爆弾』がきっかけで「I AM HERO」と「零地点Bomb」の原曲ができたし。「I love 人生!」も「Today -胸いっぱいの愛を-」もそうだよね。『爆弾』のチームからは「『ガストロンジャー』みたいな曲を作ってほしい」って言われたわけだけど、「そういうことを言ってくれるのか」っていう喜びもあるし、「自分にもこういう歌を歌えるんだ」って感じたりもするし、自分では気づかなかった自分の良さに気付けたりするんですよね。
60代も頑張っていい歌を歌います
── 50代半ばの頃、「40代は青年の老年期、50代は老年の青年期、つまり青春だ」というビクトル・ユーゴーの言葉を引用されていましたが、50代はどんな10年でしたか?
すごく充実してましたね。カバーアルバムの『ROMANCE』で生まれて初めてチャートでNo.1が取れたし、この間、自分なりに『ROMANCE』のことをボーッと考えてたんだけど、今振り返ってみてもすごくいい歌を歌ってるんだよね。あのタイミングで、自分が好きな60~70年代の歌謡曲を形にした歌手・宮本浩次が前面に出たアルバムを出せて、たくさんの人に聴いてもらえたことは幸せでした。売れたことも嬉しかったし。事務所が変わって自分の人生を俯瞰するようになったことも面白かった。
── 6月12日に行われる60歳のお誕生日ライブには「60周年記念公演 さあ、ドーンと行くぜ!」というタイトルが付いていますが、どんな60代を送りたいと思っていますか?
やっぱり健康ってすごく大事ですよね。私は貧血だったんですが、お酒を減らしたらどういうわけか貧血が治ったんですよね。お酒は好きなんだけど、飲みすぎちゃうとコンサートに差し支えます。だから今辞めてて。でもバースデーコンサートが終わったら久しぶりにちょっと飲もうかと思ってるんだけど。酒を飲まない方がいい歌を歌えるっていうことなんだよね。渋い結論で恐縮ですが、健康は大事です。
── 以前「50代になって、朝食をちゃんと食べるようになったり、トレーナーを付けた」とおっしゃってましたよね。
よく覚えてますね。食事や筋肉をつけることが大事なんですよね。いろんな情報があるからどうしていいかわからなくなったりもするんだけど、ずっと歌っていきたいから気を付けなきゃ。60代も頑張っていい歌を歌いますよ。ちゃんとヒット曲も狙って生きていこうと思います。
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『I AM HERO』
約4年半ぶりのオリジナルアルバム『I AM HERO』。
【初回限定「Birthday Concert 最高の日、最高の時」盤(CD+Blu-ray)】¥9,900
【初回限定「俺と、友だち」盤(CD+Blu-ray)】¥9,900
それぞれの特典Blu-rayには、バースデーコンサート、日本武道館公演の異なる各ライブの模様がフル収録。
【通常盤(CD)】¥3,630(UNIVERSAL SIGMA)
Profile
宮本浩次
みやもと・ひろじ エレファントカシマシのギター&ボーカルとして1988年にデビュー。2019年、ソロ活動開始。2020年、カバーアルバム『ROMANCE』で自身初のチャート1位を獲得。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣賞、受賞。





























