再生医療とともに創薬の分野でも研究が進んでいる。
京都大学の山中伸弥教授率いる研究チームがiPS細胞の作製に成功してから12年が経ちました。iPS細胞は人工多能性幹細胞といい、病気やケガによって体の組織や臓器の細胞が失われてしまっても、自身の体細胞から人工的に作り出すことができ、再生医療などでの活用が期待されています。
人体に使用する際の危険性もだいぶクリアになったと、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は発表。2015年には、患者の細胞から網膜を再生し移植をしたところ、経過は良好で異常は見られていなかったという臨床報告が上がりました。ほかにも、脊椎損傷やパーキンソン病、貧血などの血液疾患に関しても動物実験では安全性が確認されています。
最近では、iPS細胞から、ミニ肝臓の大量製造に成功したという報告も。肝臓移植を待つ人は年間、数千人にのぼり、ドナーの数が圧倒的に不足していますから、これが将来、実用されたなら、たくさんの命が助かるでしょう。
現在研究が進められているのは、再生医療ともうひとつ、新薬の開発です。難病指定されているパーキンソン病やミトコンドリア病。皮膚・結合組織疾患、悪性関節リウマチ、骨や関節系の疾患、消化器系の疾患。アルツハイマー、てんかん、アトピー性皮膚炎、スギ花粉症…などを改善する薬をiPS細胞を使って作ろうとしています。
ただし、創薬は疾患箇所の体細胞を採取して行いますが、そもそもそれが病気の根本原因なのか? また、Aさんの疾患細胞から作られた薬が、同じ病気とはいえ、BさんやCさんにも効果があるのか? など、まだまだこれから研究が必要な課題もあります。
iPS細胞の研究には、クラレや味の素、ニコンなどの民間企業も積極的に参加しており、これからますますビジネスとして注目されることでしょう。そのぶん、最新研究の成果が一部の企業の独占にならないよう、情報公開も求めていきたいですね。
科学技術の発達につれ、いよいよ人が死ににくくなる時代。一方で、生命に対して人間がどこまで介入してよいのか、という倫理観を問われる議論も、持ち上がってきています。
ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。新刊『堀潤の伝える人になろう講座』(朝日新聞出版)が好評発売中。
※『anan』2018年7月25日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)
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