豪徳寺の線路沿いに新しいお店ができた。明るいカウンターキッチン、壁にはドライフラワー。なにやらおしゃれな空気を漂わせているぞ、と思ったのも束の間、メニューに赤星の中瓶を見つけて、あ、そういう感じ? と笑ってしまった。肩の力が抜けちゃう瞬間だった。店主の松岡悠さんが目指しているのは「どんな街にもある、いつでもふらっと立ち寄れる居酒屋さん」。一人で店を切り盛りするのも、お水がセルフなのも、お酒は奥のショーケースからお客さんに自由に選んでもらうのも、ゆるやかで気張りのない空気感につながっている。
しかしそのくせ、料理は冴え渡っているのがずるい。自家製の塩辛にはキラリとコブミカンの香りが輝き、ときめくような個性を放つ(絶対この人がレシピ本出したら売れるわー)。比内地鶏のだまこ鍋風煮込みは、まるでカスレのビジュアルながら、中身のベースはきりたんぽ! というサプライズが。秋田出身の店主ならではの発想で、ぎゅっと香ばしい旨味が引き出された比内地鶏の煮汁が、だまこ(ご飯を潰して丸めたもの)や野菜にジュワッと染み込んだ味わいがたまらない。煮込みをすすりつつビールをちびちび飲む時間は幸せそのもの。心の中の乙女とおっさんが同時に喜ぶこの感じ、『ketoku』はきっと私たちの赤提灯なんだ。
比内地鶏のだまこ鍋風煮込み¥2,500。左はイカの塩辛 コブミカンの香り¥400、サッポロラガー中瓶¥600。松岡さんは三軒茶屋の名ビストロ『uguisu』に10年勤めたのち、昨年11月に『ketoku』を開店!
Ketoku 東京都世田谷区宮坂2‐26‐4 豪徳寺コーポラス1F TEL:03・6413・7569 17:00~24:00(23:00LO) 日曜休
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードライター。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
※『anan』2019年2月13日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)
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