宮城 せり鍋
ここ数年、杜の都でせり鍋の人気はうなぎ登り。夜の繁華街を歩けば、あちこちで「せり鍋あります」の札が見うけられる。面白いのがせり鍋といっても共通点は県産せりを使うことのみで、あとは各店センスの見せ所。ただ、せりの命はしゃっきりした歯ざわりと香りの良さ。ゆえに煮すぎは厳禁で、しゃぶしゃぶ的に楽しむのが通例だ。そしてせりは白髭のように長くきれいな根付きでなくてはならず、ここが芳香の発信源。鍋に豊かな風味を与えてくれる。噛んでみれば意外や甘みも隠れている。
同じく根付きせりを愛するのが秋田の人々。ご存知きりたんぽ鍋にも欠かせないものだし、その簡易版ともいえるだまこ鍋は、ご飯を軽く潰して丸めたもの(つまり「玉っ子」で、だまこ)とせり、ごぼう、舞茸と香りの強いものを集め、鶏肉と煮るもの。秋田人の冬の楽しみのひとつである。
[レシピMEMO]カツオと昆布のだしを酒、みりん、醤油で味付けし、鴨肉の薄切りを入れて煮る。ここに宮城県産せりをしゃぶしゃぶ感覚でくぐらせる。ブームの先駆けとなった仙台市青葉区『いな穂』さんのスタイルだ。
京都 銀あんのおうどん
「冬はたぬきうどんや。冷めにくくて体、あったまる」
冬も真冬、京都を旅したときに東山育ちの友人が教えてくれた。全国的にはたぬきうどんといえば揚げ玉入りのことだが、京都のそれは甘辛く炊いたお揚げさんが載った、あんかけうどんとなる。熱々のうどんをベールのように包むこのあんは、銀あんと呼ばれるもの。底冷えする京都の寒さ、その冷気を遮断してくれるのだ。うどん以外にも温豆腐や蒸し野菜などにかけられることも。ぬくさを保つための京の食の知恵なのである。
[レシピMEMO]カツオと昆布のだしを薄口醤油、酒、みりんで味付けして葛粉でとろみをつけた“銀あん”を、茹でたうどんにかける。甘辛く炊いて刻んだ油揚げ、細切りの青ねぎ、おろし生姜を添える。
岡山 アミ大根
大根といえば冬野菜のスターである。ことにおでんというステージを得た場合、その人気は不動のもの。芯まで味の染みた大根は、日本人が愛してやまないものの一つだ。大根を煮る料理といえば、岡山にもなかなか素敵なものがある。厚く切った大根をたっぷりのアミエビ(オキアミとはまた別種で、ごく小さなエビの仲間)と一緒に煮るもので、その名もアミ大根。「よく親父が晩酌のアテにしてますよ」なんて声が県人からよく聞かれる。アミエビは小粒ながらしっかりとエビ的な香りと旨味を醸してくれる頼もしい奴。そのエキスを吸い込んで良い色になった大根を口に含むと……「冬もいいもんだ」などとつぶやきたくなる。
[レシピMEMO]1.5cm 程度の厚さに切った大根は皮を厚めにむき、水から煮て15~20分程度下茹でし、ざるにあげておく。醤油、みりん、砂糖、たっぷりのアミエビと一緒に、大根の芯に染み込むまで煮る。桜エビでも。
はくおう・あつし 日本の郷土料理がメインテーマのフードライター。11月に『自炊力 料理以前の食生活改善スキル』(光文社新書)が発売されたばかり。
※『anan』2018年12月5日号より。文・白央篤司 イラスト・くぼあやこ
(by anan編集部)
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