
たんぽぽ・白鳥久美子さんのスワンシュー巡り、2軒目に訪れたのは三軒茶屋の住宅街の中にある、かわいいパティスリー「オクトーブル」。こちらで作られている白鳥のシュークリーム〈スワン〉は、日本初のフランス洋菓子店「ルコント」からの流れを汲む銘品だとか。美しい…でも思わずかぶりつきたくなる誘惑のフォルム。そして中にはなんとフルーツが! おいしさと可愛さの裏側を、白鳥さんと探ります。
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スワンシューを食べに行った人
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三軒茶屋の奥、太子堂の住宅街に佇む洋菓子屋に、そのスワンはいた!

細い路地をてくてく進んだ先にある、白い外観がかわいらしい「オクトーブル」。

くちばしの細さ、そして首の角度の美しさに感嘆…。スワン ¥648
「オクトーブル」のオーナーパティシエを務める神田智興さんは、日本とフランスの名だたる洋菓子店で修行をし、2013年にこちらのお店を開きました。修行先の1つが、日本で最初にスワン型のシュークリームを作った名店「ルコント」(現在は閉店)。神田さんによると、ルコントではキャリア3年以上の者だけがシュークリームを扱うことができるという店の看板メニュー。つまり、高い技術が必要とされるお菓子です。
「お店を作ったときに、ルコントさんが、普通のシュークリームだけだとショーケースに面白みがないということと、やっぱり子どもが喜ぶようなものを並べたいということで考案した、と聞いています。僕がお店に入ったときにはほぼもうこの洗練された形だったのですが、おそらく最初はもっとラフな雰囲気だったんじゃないですかね」と神田さん。
神田さんは独立する際、オーナーシェフのアンドレ・ルコント氏の妻、マダム・ルコントさんに、スワンとスウリー(後述するネズミの形のシュークリーム)を作らせてもらえないかと尋ねたところ、マダムは「あなたはムッシュの弟子なんだから、ぜひやりなさい」と快諾。「オクトーブル」のスワンが誕生した裏には、そんないいお話が。「なるほどー。私が憧れたスワンシューの元祖は、「ルコント」さんのシュークリームだったんですねぇ」と、白鳥さんも感慨深げ。
ということでいざ実食! 神田さんにに「もう手に持って好きなところからいっちゃってください」と言われた白鳥さん、スワンに触れてそっと持ち上げ、お尻から、がぶり!
かわいさだけでなく、食べ物を大切にする想いも込められたお菓子

恥ずかしげに下を向いたシルエットがかわいらしい。
プロフィールにも書きましたが、白鳥さんは、猪苗代湖や阿武隈川にシベリアから白鳥が飛来する福島県のご出身。
「冬になると、誰かが“白鳥行くかぁ?”と声をかけるので、パンや古いお米を持って、阿武隈川に白鳥を見に行くのが恒例行事でした。たくさんいる白鳥の中で、“あの子、かわいい!”と思った子に餌をあげたくなるんですが、私が惹かれるのは、神田さんが作るスワンのような、下を向き、首をちょっと中に入れている、うつむき加減の子なんです。このお菓子を見ていると、小さい頃の思い出がよみがえってきますね」(白鳥さん)
白鳥さんが特に感動したのは、くちばしの細さと、頭から首、そして胸元にかけての優美な曲線。
「繊細なくちばしとうつむいた頭、首の角度は、もう白鳥の置物みたい。そして、白鳥って首が細い割に、胸元は厚めなんですが、そこがちゃんと膨らんでいるところが本当にすごい。しかもクリームがふわふわで、白鳥の毛の感じが伝わってくる…」(白鳥さん)
「僕にとって水面で佇んでいる白鳥の美しさのポイントは、首がグッと中に入っているポーズとなんですよ。実は、首の根元が太く厚くなっているのは、クリームに差し込む部分なので、クリームの湿気を吸っても倒れない強度のためでもあります。長年白鳥を見ている白鳥さんに、そこが本物に似ていると言っていただけるのは、僕としてもすごく嬉しいです(笑)」(神田さん)
とにかく立体的で、迫力もある「オクトーブル」の「スワン」。食べても崩れない頑丈さ、でもサクッと美味しいことの秘密は、粉選びにあるようです。
「一般的にシュークリームの生地は薄力粉を使いますが、うちは生地の美味しさも味わってほしいので、準強力粉と薄力粉を使って少し厚めに焼いています。また一番下に敷くカスタードも、ちょっと固めに炊いています。それもあって、見た目も、食べ応えもボリュームを感じてもらえているのかもしれません」(神田さん)
ふわふわの白鳥が出来上がる、工房に潜入します!

「生地で、白鳥のお尻の“ツン”としたところまで再現してくれるとは…。感動しかないです」(白鳥さん)
カウンターの脇を抜けて、お店の奥へ。そこは甘い香りが広がる、お菓子屋さんの聖域でした。
「板橋のお店もそうですが、こんなところを見せてもらえるなんて、楽しさしかないです。なんか社会科見学みたいですよね」と、テンションが上がる白鳥さん。神田さんが最初に見せてくれたのは、天板に絞られた生地。表面がガタガタしていて、何かの実のような形です」
「シュークリームは、焼いたときに表面が割れないように、一般的に生地を絞ったあと表面をフォークでなぞってガタガタにするんですが、うちは最初からガタガタになる絞り口を使い、しずく型に絞っています」(神田さん)
ちなみに「オクトーブル」さんには、前述のとおりかわいいネズミの形の「スウリー」というシュークリームもあり、同じシューを使っており、美しく焼きが上がったものは「スウリー」に、形の悪いものは「スワン」になるのだとか。
「ルコントさんは食べ物をとても大切にする方で、他の店ではきれいに焼けなかったものを捨てることもあるようですが、材料は決して無駄にしてはいけない、という思いも、このお菓子には込められているんだと思いますね。「スワン」は多少体が不格好でも、首をつければ美しい白鳥になるんですよ」(神田さん)
切り落とした生地まで使う、無駄のないスワンづくり

⑦ カスタードの上に生クリームを絞っていく。「なんでしょう、この、前に押しながら後ろに下がりながら絞る…みたいな技!」(白鳥さん)。

そして粉糖をかけ、完成。「拝みたいくらい美しいです」(白鳥さん)
「焼きが上がった生地はちょっとコガネムシのようでしたが(笑)、クリームを絞るとうさぎみたいになって、あっという間に白鳥に。芸が細かくて本当に美しいですね。めちゃくちゃおもしろかったです。1軒目で工房を拝見し、作りたい気持ちが盛り上がりましたが、やっぱりプロが作るほうが絶対おいしいし美しいので、たぶん私には無理だなと改めて思いました(笑)」(白鳥さん)
下町で愛されるスワンと、大人女子を満足させてくれるスワン。その2つを味わった白鳥さんに、改めて感想をうかがいました
「2羽ともエレガントで、おいしくて、素晴らしかったです。どちらのお店も造形にこだわりがあり、違う個性がある。じっくり眺めて魅力を比べてみるのも、楽しいだろうなぁ。小さい頃の私にとって白鳥は、冬に飛来するのを楽しみにして待つ、憧れの存在で、同時にケーキなどの洋菓子も、白鳥同様『いつ食べられるかな』と楽しみにしているものでした。かわいくて美しくて、人を憧れさせるという存在感が共通しているから、白鳥のフォルムとお菓子は相性がいいのかなと思います」
おみやげに、スワンケーキを買って帰った白鳥さん。
「まずは私一人で、ゆっくり味わって食べます。その後は、4歳の娘と一緒に楽しもうかな。なんかやっぱりスワンシューは、乙女のお菓子って感じですもんね(笑)」

別の記事で紹介しているスワン型のクッキーを発見。「これ、差し入れとかにすごい良さそう。白鳥が白鳥クッキーをどうぞ…って、シャレが効いてて良くないですか?」(白鳥さん)。
Information
写真・坂本美穂子 スタイリスト・山崎由佳 取材、文・河野友紀















































