
漫画『復讐が足りない』3巻の作者、冬野梅子さんにインタビュー。
加害者心理を通して歪みを描いていきたい
世知辛い現代社会で生きる女性たちのもやもやに、マンガらしい読み心地で焦点を当ててきた冬野梅子さん。最新作で描くのは、“なかったことにされてきた”性暴力だ。
「構想していた頃、芸能界の性暴力疑惑のニュースがよく流れてきたのですが、加害者だけでなく周りの人たちが、どうにかして小さな出来事にしてしまおうと奔走しているのが気になって。性暴力に限らずですが、以前勤めていた会社や知人から聞いた話などでも、被害者側が変な噂を流されて退場するような場面がよくあったのを思い出しました」
さらに本作ではサスペンスに挑戦しているのだが、これはパトリシア・ハイスミスの小説『太陽がいっぱい』を読んだことがきっかけに。
「今までと違うジャンルにしたいと思い、人が死んだり犯罪者が逃げ延びるような話に興味を持ちました」
主人公の復田朱里(ふくだ・あかり)が働くのは、小さなIT企業。ムカつく人を暴力で始末する妄想で日々のストレスを解消しながら、ようやくなれた正社員としてのささやかな安定を享受していた。そんななか同僚だった女性の退職理由が性被害で、加害者は隣の席の北広という男だと知らされる。復田はネットやテレビの中の事件が、身近で起こっていたことに動揺しつつ、痴情のもつれとして処理されている社内の空気に違和感を覚える。

Ⓒ冬野梅子/講談社
「会社に所属する人たちは、良くも悪くも一心同体になりがちですよね。トップは我々の細胞の一部がそんなことをするはずがないと疑おうとすらしなかったり、社員も自分の考えを挟んではいけないと妙なわきまえを持ったり。そうやって隠蔽されていくのだと思いました。復田も会社の判断はおかしいけれど、諦めるのが無難だとも感じている。そのズレが蓄積されて、人を殺しまくる妄想として表れているのかなと」
復田は自分なりに決着をつけようとして、加害的立場に転じてしまう。ミイラ取りがミイラになり、予想を超える出来事が次々と描かれるのだが、その展開には「加害者心理を掘り下げたい」という思いがあった。
「性暴力は被害者の告発によって明るみになるケースが多いため、加害者よりも被害者に好奇の目が向けられがちなのも不思議でした。なのでどういう人が加害者になるのか、考えてみたかったんです。自分がやったことを犯罪だと思っていなかったり、バレなければ普通に暮らしていけると開き直っている意味で、北広と復田は一緒なのかもしれません」
タイトルの「復讐」は、誰あるいは何に向けられた言葉なのか。
「第三者も加害者も復讐したいと思っている社会構造が問題だとも感じるので、加害者心理を通してそういう歪みを描いていきたいですね」
Profile
冬野梅子
ふゆの・うめこ 2019年「マッチングアプリで会った人だろ!」でデビュー。著作に『まじめな会社員』(全4巻)、『スルーロマンス』(全5巻)。
information
『復讐が足りない』
内面の暴力性を隠しながら、社会に適応している復田朱里・32歳。社内で性暴力があったことを知った彼女が取った行動とその顛末を描く。3巻は6月10日発売。講談社 792円
anan 2498号(2026年6月3日発売)より






























