
Webメディア「オモコロ」で連載中の、匿名掲示板を舞台に繰り広げられるフェイクドキュメンタリー『悪魔情報』。昨年10月に書籍化され、6月1日には続編の発売が控えるなど大きな話題を呼んでいる。そこで、作者である城戸さんを直撃! 今回が初のメディアインタビューとなる彼に、アイデアソースや作品を手がける際のこだわり、苦労についてお話を伺いました。
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What’s 『悪魔情報』?
Webメディア「オモコロ」で不定期連載中のフェイクドキュメンタリー小説シリーズ。「知らない人の家のベッドの下に隠れてるけど質問ある?」「どうしよう。ぼったくりバーに来てしまったかもしれん」など、匿名掲示板に投稿された何気ない一言から、予想もつかない展開へ転がり驚きの伏線回収へと至る、恐怖と笑いが渾然一体となった怪作。「悪魔情報」とは、オカルト的気配を感じたスレッドに突如現れ助言をする、謎の存在。
2025年KADOKAWAより書籍化され、今年6月1日には2作目『悪魔情報 ある失踪したネットアイドル捜索スレ』が刊行される。

匿名掲示板フォーマットのアイデアは天啓でした
── 匿名掲示板をフォーマットにした作品を書こうと思ったきっかけを教えてください。
説明が少し難しいんですけど…。ネット広告から、男性向けの精力剤を売っている怪しい詐欺サイトに飛んだことがありまして。そのひとつに、2ちゃんねるのスレッドを模倣して、2ちゃんねらーたちが「実際にこれってどうなの?」と精力剤について話しているような仕様のものがあったんです。それを見た時に、いいアイデアだな、自分もこれができるといいなと思ったことが大きかったです。
偉そうな言い方だけど、俺ならもっと面白く書けると思いました。当時からオモコロライターではあったものの、全裸になるしかないくらい面白い企画が思いつかず、鳴かず飛ばずで…。だからこそ、この詐欺サイトに出会った時は、「これだ!」と、天啓のように感じました。突破口でしたね。
── ご自身も匿名掲示板はお好きだったのでしょうか。
まとめサイトが好きでしたね。オカルト板をメインで見ていて、「きさらぎ駅」もまとめサイトで読みました。やっぱり、まとめられていたほうがダルい部分がなく読みやすいですよね。僕は30歳ですが、この世代は「まとめキッズ」と呼ばれて、ちょっとバカにされているみたいです(笑)。
── 実際の匿名掲示板は、いろいろな人が書き込むことにより成立していくものです。それを、ひとりで作り上げていく作業は、どのように行っていたのでしょうか。
だいたいの場合、“こういうスレがあったら面白いな”というアイデアが浮かぶところから始まります。映画など好きなホラーコンテンツを見ていて思いつくことが一番多いですね。心霊ビデオやネットの謎みたいなものも好きで、その謎を解決したいという気持ちが動機になることもあります。その後どうなったかが書かれていないものも結構多いので、想像する余地があるといいますか。
そして、掲示板のスレを立てた人物による最初の投稿=「1」から順番に書いていく。ゴールは決めていません。書き進めながら、自分がふざけられるチャンスがあるとふざけて、それに対して自分で突っ込みます。この段階は、自分が得意な分野でもあるので楽だし、500レスくらいまでは自由に書けるのですが、ここからが大変で…。中盤くらいから物語の義理を果たさなければいけないという意識が生まれて、展開を作ったり、落とし所を見つけたりするなど筋が通るように無理やりやっています。だから変な展開になるんですよね。最初から全部を決めて書き始めるほうが絶対にいいけど、それができないんです。
900レスまで書いてからの“この後どうしよう”が、めちゃめちゃあります(笑)。展開が思いつかずに止まっている下書きもたくさん。話の最後を決めることが本当に大変ですが、逆にいうと、そこしか大変じゃないです。
── とはいえ、伏線の回収やオチは見事なものばかりです。
伏線に関しては、これが何の伏線か、どうなるかもわからないまま、一旦レスとして貼っておくんです。すると、“それを入れたことによって生まれた面白いくだり”みたいなものが必ず出来ちゃうので、それを後の自分が無理やり回収していきます。大変だけど、先に生まれた“面白いくだり”を消すことは絶対にしたくないので、仕方ない…と頑張って、適当な理屈をつけて、責任を取ります。
幼少期からウケたがり。会話も大喜利的に考えがちです
── レスの内容はリアリティがあり、どんどん作品の世界に引き込まれます。
先ほども少し話ましたが、僕は基本的にふざけたい人、笑わせる文章を書きたい人なんです。たとえば、小説は地の文があり、ふさわしいタイミングで笑わせないと笑ってもらえず、難しい。それが、地の文がなく、それぞれの発言に統制が取れているわけではない匿名掲示板というフォーマットにおいては、自分が好きな時に脈絡なくふざけることが、匿名掲示板でふざける人と重なって、自然とリアルに映るのかなと。
── ふざけたい、笑わせたいという想いは昔から強かったのですか?
小さい頃からずっとウケたがりでしたね。あと、若い時に大喜利をやっていたこともあって、人が話している時に“こう返すと面白いな”みたいなことを考えがちです。
── ちなみに、城戸さんが面白いと思う人は誰ですか?
小学生の頃からバナナマンさんのファンです。コントのDVDを見て育ち、修学旅行中もラジオ番組「バナナムーン」をずっと聞いていました。とにかく好き。青春ですね。あとは、東京03さん、ジャルジャルさんも相当好きです。
── 作品を作る際に大事にしているポイントはありますか?
実際の匿名掲示板は、倫理的にひどかったり、見ていられないようなこともあるので、そういうところは徹底的に抜いていると思います。そういうものもネットの負の文化のひとつだと思いますが、作品ではやめておこうと。口は悪いけれど差別的にならないようにするなど、めちゃめちゃ気を遣っています。
あとは、話の筋だけでなく、シチュエーションごと面白いことが理想ですね。たとえば、「殺人鬼がいて逃げる」というストーリーがあったとして、ただ逃げるよりも、“主人公がクローゼットに隠れて殺人鬼が鼻息荒く入ってくる”という肉付けをされたほうが、ハラハラドキドキするじゃないですか。僕は、この肉付けそのものを「シチュエーション」と呼んでいるんですけど、それをなるべく作るようにしています。
どの作品も、途中から現場に行って実況をする場面がありますが、それもシチュエーションのひとつ。ひとつのスレに3個くらいシチュエーションがあると、読んでいる方も面白いのかなと思っています。何も起こらず、話し合いだけするということは、あまり続けたくないですね。

「悪魔情報」と「悪魔情報いこうとしてるやつ」の人気は嬉しい誤算
── 各エピソードには、タイトルにもなっている「悪魔情報」というキャラクターが登場します。読者からの人気も高いですが、設定などはもともと決めていたのでしょうか?
スレに現れて説明をする役という装置として使っていたので、まさか人気が出るとは想像もしておらず、びっくりしました。嬉しい誤算です。設定は特にも決めていないというか、そもそも匿名掲示板は老若男女、誰が書き込んでいてもおかしくないところがミソだと思っているので。たまに明確に性別が名言されるキャラクターもいますが、基本的に登場する人たちの性別や年齢、国籍などを決めないことは、意識的に守っているポイントです。
── 「悪魔情報」というネーミングも素晴らしいです。
今作がシリーズになるとは考えてもいなかったし、一発ふざけるつもりだったので、くだらない変な名前にしようと思ったんです。一番最初に書いた話が悪魔崇拝に関するもので、それに詳しい存在ということで「悪魔情報」に(笑)。ただ、今となっては、キャッチーだし、この名前にしていなければ、ここまで多くの人に読んでもらえなかったかもしれないなと思っています。でも、悪魔の情報を知りたいと思って手に取った人からすると、詐欺に近いですよね。この表紙を見て、まさか匿名掲示板のハンドルネームだとは思わないでしょうから(笑)。
── 作中には毎回、「悪魔情報いこうとしているやつ」も登場します。
最初は、「悪魔情報をいこうとするなんて意味わからない」というギャグでしたが、友達がそこで一番笑ったと言ってくれたんですよ。それで、「じゃあ、次もあれ入れるわ!」と。そうしたら、みなさんが面白がってくれて嬉しかったですね。ファンレターもいただいて、これも嬉しい誤算でした。みなさん、悪魔情報が萌えキャラとして可愛いみたいで、それを愛でるための装置として「悪魔情報いこうとしてるやつ」がいるのがいいんだと思います。最近は、ちょっと悪魔情報を可愛げがあるやつに寄せたりしています(笑)。

「思い出の一発屋芸人」は好きすぎて大きなハードルに
── 作るにあたり特に苦労したお話はありますか?
6月に『悪魔情報 ある失踪したネットアイドル捜索スレ』という書籍2作目を発売しますが、そこに収録されている、書き下ろし長編「失踪したネットアイドル穴井牢屋を捜索するスレ」ですね。初めてレスの数が2000を超えたのですが、最初にふざけまくったことの回収に本当に苦労をして…。担当編集の人と11時間くらい会議室にこもって、ホワイトボードを使いながら「ここの伏線が回収されていないです」みたいに拾って、理屈をつけていきました。僕も大変でしたけど、編集の方がかわいそうでしたね。“何で一緒に考えなきゃいけないんだ”と思っていたと思います。
── 長編にすることは、もともと決まっていたのでしょうか?
いえ、途中まで書いて1年くらい寝かしていた3万字くらいの下書きを流用しました。要素が多すぎて1スレじゃ足りないと思って放置していたので、これを書き下ろしの一編としてやろうと。本当に大変で、オチは締め切りをすぎてから思いつきました。途中で前半のあれこれと繋がっていないところがあることに気づいて、無理やり伏線も回収して。人に迷惑をかけているので、あまりよくないですが、いいオチが思いついて気に入っています。やっぱり人様からお金をいただいているし、話が面白いと言ってくださることも多いので。自分の面白いだけではなく理屈も大事にして、読んでくれる人に義理を果たしたいという気持ちが強いです。
── 『悪魔情報』の中で、城戸さんが特に好きなエピソードを教えてください。
「思い出の一発屋芸人」は、自分で読んで泣くくらい気に入り過ぎていて。この作品で一度『悪魔情報』が終わった感まであるんですよね。今作以上のものを書かなければいけないというプレッシャーみたいなものがあります。あと、今度の新刊に収録予定の「永遠について」もかなり好きです。個人的に、少し観念的というかヘンテコなテーマみたいなものが好きなので。
関係者パスを下げて取材に行くことが憧れです
── 先ほど、ホラー映画などのコンテンツがアイデアの源になるというお話がありました。お好きなホラー映画を教えてください。
中学生の頃からアメリカの娯楽映画が好きで、そのジャンルのひとつとしてホラー作品も観るようになりました。そこからスプラッターやジャパニーズホラーに興味を持ち始めていって。怖いものが好きというより、首が飛ぶなど、面白いことが起こりがちなジャンルとして、ホラーが好きという感じです。M・ナイト・シャマラン監督、白石晃士監督、黒沢清監督の作品が好きですね。まさに、白石監督の、ホラーというジャンルを使って面白くて熱いものを作るところが好みです。
M・ナイト・シャマラン監督は『ハプニング』という作品に衝撃を受けました。白石監督作品で特に好きなのは『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04【真相!トイレの花子さん】』。普通に泣けます。黒沢監督は全作品が好きです。
── 最近、面白かったホラー作品はありますか?
心霊ビデオばかり観ているのですが、おすすめは「闇動画」シリーズです。単純にめちゃめちゃ怖くて、特に6作目は途中で観るのをやめました。トイレに行きたかったのに怖くて我慢して寝たら、おねしょしちゃって(笑)。そのくらい怖いです。「おわかりいただけただろうか」みたいなふんわりした話もありますが、怖いものがしっかりと存在していて、しっかり襲ってくるものが多い。幽霊じゃなく人が怖い作品もあります。最近はホラー系のフェイクドキュメンタリーが流行っていますが、心霊系のものは少ないので寂しいなと。ぜひ観てほしいです。
── 最後に、今後、挑戦してみたいことを教えてください!
僕はめちゃくちゃミーハーなので、こんなふうにスタジオで写真を撮ってもらうみたいなことが喜びなんです。だって、エビちゃんとかがやることじゃないですか。東京に憧れて地元から出てきて11年くらいが経ちますが、これからも、こういう場にガンガン出ていきたいなと。関係者パスを首から下げて取材現場に行くことに憧れているので。これからも、本当に、よろしくお願いします。

Profile

城戸
きど・1996年生まれのフリーライター。オモコロ、WEBザテレビジョンなどWEBメディアを中心に執筆を行なっている。Xアカウントは @sh_s_sh_ma


















