
小説『今度は異性愛』の作者、松浦理英子さんにインタビュー。
小説を書くと、日常が更新されていく感じがある
「まともに異性愛を書いてもつまらないので、あえてタイトルで“これを書きますよ”という信号を出しつつ、異性愛をメタレベルに考察してみようと考えました」
という松浦理英子さんの新作小説のタイトルは、『今度は異性愛』。語り手は宮内祐子、六十三歳、アマチュアのBL作家だ。彼女はコロナ禍で筋トレに励むうち、異性愛小説に挑戦しようと思い立つ。その日常と思索が綴られていく。
「語り手が試行錯誤しながら異性愛小説に取り組む様子をリアルタイム風に書くには、日記形式がいいのではないかと思いました。若干、『土佐日記』を意識しています。〈男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり〉で始まる日記文学ですね。まあ、コロナ禍なので、『土佐日記』のように旅に出るわけにはいかなかったんですけれど」
出かける旅でなくとも、創作をめぐる宮内の脳内の旅がじつに面白い。BLと異性愛小説では盛り上がる箇所が違うこと、BLの男男のカップルのどちらかを女に置き換えるだけでは異性愛小説にはならないことなど、彼女は論理的に考えていくのだ。また、執筆が難航するあまり自分の恋愛経験を綴る日もあって、これがなんとも味わい深い顛末。
「そうやって自分のことを書きつつ、だんだん異性愛小説の実作に近づいていく、という形です」
宮内には同好の士がいる。ネット上で公開した自作の読者のめぐみや、異性愛者だけど異性愛小説は気持ち悪くて読めない、という虹龍さん。同好の士同士の会話がユーモアたっぷりで楽しく、また、彼女たちが読書会に参加する場面のやりとりは皮肉たっぷりで痛快。いずれも宮内たちが自身の好みをはっきり自覚・把握している様子が清々しくて魅力的。
「自分のセクシュアリティをちゃんと育てている人たち、というイメージですよね」
終盤には、それまでの考察結果を反映させた、宮内の異性愛小説が挿入されていく。
コロナ禍の一人暮らしでも、日々を楽しんだ記録の書でもある本作。
「小説を書くことって、動き回って新しい経験をするわけではないけれど、日常が更新されていく感じがあるんですよね。楽しいですし、安あがりですし、私は全人類に小説を書くことをお勧めします(笑)」
Profile
松浦理英子
まつうら・りえこ 小説家。大学在学中の'78年に「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞。『親指Pの修業時代』で女流文学賞、『犬身』で読売文学賞、『最愛の子ども』で泉鏡花文学賞、『ヒカリ文集』で野間文芸賞を受賞。
information
『今度は異性愛』
アマチュアのボーイズラブ作家、宮内祐子はコロナ禍のなか、はじめて異性愛小説を書いてみようと思い立つ。が、なかなか難航して…。新潮社 1980円
anan 2496号(2026年5月20日発売)より




















