どこにいても見る者に違和感を抱かせ、嘘のないワードでインパクトを与える永野さんが、現在、NHKの科学番組で活躍中!? 番組の魅力と今の想いを、やっぱり率直な言葉で語ります。


ラッセンのネタでも知られる芸人の永野さんをテレビで見る機会が近年、さらに増えている。歯に衣着せぬ発言やトレードマークの青いシャツと赤いパンツはそのままながら、より幅広いジャンルの番組で活躍している模様。現在はNHKで放送中の科学エンタメバラエティ『フロンティアで会いましょう!』でMCを担当し、らしさ満載のコメントやわかりやすい解説が人気を集めている。そんな変化をどう感じているのか、直撃しました。

──『フロンティアで会いましょう!』は現在シーズン2が放送中ですが、最初にオファーが来た時のお気持ちはいかがでしたか?

この番組は、『フロンティア』という番組の姉妹編ということで、まず『フロンティア』の映像を見せてもらったのですが、これは責任重大だなと思いました。科学の番組ですからね。でも、僕はこのジャンルに興味がありまして。

というのも、科学って精神論とかではないものじゃないですか。たとえば人間の感情は“エモい”みたいなものに操られているのではなく、キネシンという物質によって生まれているものだ、とか。そういうことは、まさに今の自分が欲しいと思っていた情報だったし、興味を持っている分野なので。MCをしていても楽しいです。

── 科学に興味を持たれたのは最近なのですね。

もっと若い時は、「命とは?」の問いに対して「魂」と答えるじゃないですけど、そういうところに行きがちでした。でも、今は、歌手が歌っている「生き様」みたいなものが全く響かなくなったんです。生き様系の歌手を100人並べても僕には勝てないと思いますよ。それは、自分が本当に何かを頑張ってここまで来たとか、何かを成し得たとかではなく、自分はずっと前から変わらないのに、今なぜか評価されているという感覚があるからだと思います。

“頑張ったらこうなる”みたいなことを言う人を信じられなくなりましたね。10年以上前から、「生き様」や「努力」「熱さ」みたいなことを言う人が嫌いなんです。そんな“エモ”みたいなものよりサイエンスのほうが、それこそ熱いメッセージを感じるというか。自分にとっての生きるヒントや人生哲学になっています。マクロな見方をしたほうが救われると思いますよ。

エモって、自分の半径数メートルの範囲の何かだと思うけど、それを楽しんだり求めるより、宇宙のことを知るほうが、僕は生きていく上でラクになれるというか。みんなも、もっと科学的なことを知ったほうが生きやすくなり、頭もスッキリすると思います。そんなことを感じていたタイミングで、『フロンティアで会いましょう!』の仕事が来ましたから、すごい巡り合わせだな、と思いましたね。

── なぜ、科学的なことより、エモに惹かれる人が多いのだと思いますか?

単純に、エモのほうが盛り上がるからじゃないですか? もちろん、それもいいですよ。でも、多分、生きているという実感がそこまでないからこそ、エモという言葉を楽しんでいられるのかなという気がします。

この世には顔がいいというだけで、ずっと人生が上手くいっているやつもいるじゃないですか。僕はそういうことが一切なかったし、自分の努力がいい方向に転がったみたいな経験もないから、エモみたいなものが信じられないんです。

ただ、エモを超えた神とか宗教的なことは、『フロンティアで会いましょう!』でも扱いますけど、それはいいんですよね。エモって、人間の、しかも日本の景色しか見ていないやつの都合でやっている感じがするんです。でも、宇宙とか神のレベルになると腑に落ちることがいっぱいあって、“今、自分がここにいることにも意味があるのかな?”と思えたりもします。

自分を出せる仕事だけをやろうと決めたんです

── 前シーズンの放送から約1年の時を経て、『フロンティアで会いましょう!』の新シーズンが始まることが決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

嬉しかったですよ! そう、シーズン1が終わった時に、スタッフの人たちと中華の店に行って打ち上げをしたんです。そこにいたほぼ全員が頭が白い50代なのに、体育大学みたいな乾杯をしたんですよね(笑)。みんなでNHKから店まで徒歩で行ったのもよかったし、記念写真も撮りましたから。

だからこそ、シーズン2で呼んでくれた時は本当に嬉しくて、プロデューサーさんとかとハグしたくなりました。アラフィフとは思えないパワーの人ばかりで、打ち合わせの段階から冷めたノリの人がいなくて素晴らしいですよ。こちらもロボットじゃないですから、そういう人たちと一緒なら、頑張らなきゃと思います。

── 永野さんはフロンティア精神をお持ちですか?

一応ありますよ。もともと集団行動が苦手だからフロンティアに行かざるを得なくて芸人になってもいますから。ただ、今の芸人は集団行動ばっかりだし、場の空気にノらなきゃいけないのでキツいんですけど。売れる前は楽しかったのに、テレビに出始めたりすると窮屈さを感じたりもして、もう売れなくていいかな、売れるってめんどくさいしストレスを感じることなのかなと思う時期もありました。

もちろん、それでもやっていける人はいますけど、自分にとっては難しいのかなって。だからこそ、YouTubeや配信プラットフォームで自分を出せるようになってよかったし、そういうことをしていたらテレビに呼ばれるようにもなりました。昔より今のほうがラクです。

── 以前よりもラクに、楽しくなったのはなぜでしょう。

多分、一度ガーッとテレビに出て、出なくなって、「再ブレイクですね」と言われた時に、またストレスを感じる場所に戻るのは嫌だと思ったんです。もう、自分を出せる、自分が楽しいと思える仕事だけをしようと決めました。以前は、いろいろな人に知ってほしかったので、どんな場所にも出るし何でもするじゃないですか。悪い意味で無理をする仕事をしなくなったから楽しいのかもしれません。

YouTubeって、その人の取り扱い説明書になっていると思うんですよ。僕がYouTubeでリラックスして喋っている姿を見た人が、こういう感じでお願いしますとオファーしてくださることも大きいですね。以前は、別に誰が悪いとかではなく、ラッセンのネタばかりを求められたし、喜んでもらうために自分でもバカなお遊戯みたいなネタも作っていましたから。スタッフに「面白くねぇ」とか言われて、俺のほうが面白くねぇよと内心思いながらやっていた時は、本当にすげぇ嫌でしたね。その時代が続いていたら、本当にヤバかったと思います。

── お話を聞いていると、永野さんの言葉には嘘がなく、まっすぐ入ってきます。

多分、育ちが悪かったからなんですよ。昔、友だちとテレビを見ている時に、内心では“俺たちのほうがすげえよな”“エッジが利きまくりじゃん”と思っていたんですよね。そして今、自分のそういうところが評価されているということは、あの時の感覚は本物だったんだなと。

ただ、言葉は努力でなんとかなるものではなくてセンスでしかないし、真似できないものなんです。うっかり真似をして、ただ人を傷つけているだけとか嫌な気持ちになるだけ、みたいなこともあるじゃないですか。自分で言うのもなんですが、そこのセンスはあったのかなと思います。

── どのメディアでも発言する内容やスタンスが変わらないところがタフだなと思います。

ちょっとおかしいのかもしれないし、金だってないくせに、いつ仕事をやめてもいいと思って生きているんです。いや、わざとそうすることで走っているというやり口なんですけどね。やっぱり、“お願いします”という姿勢でずっと仕事をするのは耐えられないし、どこかで“気にせずにやる俺ってカッコいい”と思っていないと芸人はできないというか。周りを気にしてスタンスを決めるのは、申し訳ないけどダサいと思っちゃう。

“みなさん、お元気ですか?”みたいになっている芸人には、なんで芸人なんだよ? と思いますから。みんな愛されようとしすぎなんだと思いますよ。もちろん、いざ仕事がなくなったら、記者会見を開いて泣きながら頭を下げるかもしれないですけどね(笑)。今のところは“気にしない俺、カッコいい”でやっていたいなと。

── 永野さんにとってライバルのような存在はいますか?

妬ましいといっぱい思いながら生きている人間ですが、ライバルはいなくて。カッコつける意味ではなく、昔から自分で自分のことをすごいと思っているから、競うとかスポーツなノリがないんですよね。

ただ、2個上にエミネムがいて、エミネムのことは常に意識しています。今の俺の年齢、51歳の時に『The Death of Slim Shady』というアルバムを出したんですけど、ここまで尖ってるんだ! と思いましたから。申し訳ないですけど、刺激をもらえるのは、エミネムくらいしかいないですよ、マジで。ちなみに誰かいますか?

── スカーレット・ヨハンソンが同い年だなということは、なぜか、ずっと意識しています。

やっぱり、そういう存在っていますよね! スカヨハといえば、『ゴーストワールド』に出ていた方ですよね。あの人がなぜマーベル映画に出たのかとか、いろいろ気になりますけど…。でも、冗談じゃなく、そういう存在が刺激になるんです。

同年代でも、“え、おじいさんなの?”みたいな雰囲気の人もいるじゃないですか。やっぱり、いつのまにか年齢などに引っ張られることもあるわけです。もちろん、それが心地よかったり、楽しい人はいいけど自分は嫌だから、エミネムに刺激をもらう。この間、地元の宮崎県に帰って友だちと飲みましたけど、後で『The Death of Slim Shady』を聴いて、エミネムの体に戻す調整をしました(笑)。

── 最後に、これから挑戦したいことを教えてください。

今年、監督した映画『MADMASK』が公開されましたけど、すでに次のアイデアが頭にあって、どう考えても面白いんです。これを披露したいな、ということばかりを考えていますし、楽しみにしていてほしいですね。

そこにも『フロンティアで会いましょう!』の影響がありまして、「インスパイアードバイフロンティア」と書こうかなと思うくらい(笑)。やっぱり、エモより科学ですよ。ananに出てるイケメンたちもみんな、量子でできていますからね!

Profile

永野

ながの 1974年9月2日生まれ、宮崎県出身。『永野&くるまのひっかかりニーチェ』(テレビ朝日)、『永野はミスターTBS』(TBS Podcast)、『永野とモグライダー芝のぐるり遠回り』(テレ朝Podcast)などレギュラー番組多数。音楽や映画に造詣が深く、今年は自身で監督と脚本を務めた映画『MAD MASK』が公開されて話題となった。

Information

『フロンティアで会いましょう!』

永野さんがMCを務める科学エンターテインメントバラエティ『フロンティアで会いましょう!』。知的探求番組『フロンティア』(NHK BS)の姉妹編で、「宇宙人は本当にいるのか?」「量子とは何か?」「糖」「人間とは?」など、科学や宇宙、歴史、文化の最前線をわかりやすく解説する。毎週月曜23:00~NHK総合で放送中。NHK ONE(新NHKプラス)でも同時・見逃し配信。

写真・SAKAI DE JUN インタビュー、文・重信 綾

anan 2473号(2025年11月26日発売)より
Check!

No.2473掲載

カルチャーを感じる、ゲーム案内2025

2025年11月26日発売

川村壱馬さんのゲーム愛インタビュー、大ヒット作『都市伝説解体センター』の魅力解剖、可愛いドット絵ゲームが人気の「カイロソフト」紹介、ボドゲからTRPGまで取り上げたアナログゲームガイドなど、今回もゲームの楽しさと魅力をたっぷりとお届けします。

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