
ご本人による特別撮り下ろし写真について、「ビジネス論を語っている風にしたかったのですが『同居している人間に文句を言うおばけ』みたいになってしまいました」(雨穴さん)
新作『変な地図』も大きな話題を呼んでいる、覆面作家の雨穴さん。ご本人による特別撮り下ろし写真とともに、創作の秘密に迫ります!
いまや世界で愛される作家となった、白いお面と黒いタイツがトレードマークの雨穴さん。大ヒットしている新作『変な地図』は、青年時代の栗原文宣が主人公。謎の死を遂げた祖母が残した古地図をきっかけに、とある海沿いの廃集落の謎を解き明かす旅に出ることになる。物語が生まれたきっかけや執筆生活のこと、気になる近況についてお話を聞きました。
Googleマップを使っても迷子になります
── 地図のアイデアはどこから?
昨年の秋~冬頃書き始めたのですが、当時、ちょうど旅に出たいなと思っていたんです。でも、仕事が忙しかったり、寒い時期でもあったので諦めて、じゃあ物語の中で旅をしようと。その時、地図というマテリアルを使えばいいのではないかと思いつきました。今作に限らず、お話を書いていると、頭の中が作品の世界にトリップする感覚になるので。楽しめました。
── 地図が好きだったのですか?
むしろ苦手で、Googleマップを使っても迷子になります。
── 栗原さんを主人公にするということは、以前から考えていたことだったのでしょうか?
良くも悪くも唯一無二の相棒なので、栗原がどういう人間なのかということを一作を通じて書かなければとは思っていました。陰湿な屁理屈野郎ですが、案外、心は熱い。生い立ちはもちろん、仕事やパーソナリティに関しては自分とだいぶ違うキャラクターですが、根っこの部分で持っている善悪の判断、たとえば、こういうことは人に対しては言わないみたいなところは、自分の価値観をそのままコピーしたようなキャラクターになりました。長編の物語は、主人公を信頼しないと書きづらいものです。信頼できる主人公とは思う半面、自分といい部分も悪い部分も似ているからこそ、なんでそう言っちゃうかな…みたいな気持ちになることもありました。
今作を書くとき、全部大胆にやっちゃおうと思いました

「鏡を使った撮影って難しいですね…。余計なものが写り込んでしまうので。あと、鏡に映った自分の顔の怖さに驚きました」(雨穴さん)
── 今作にはやはり地図がたくさん出てきます。
自分が地図を読むのが苦手だからこそ、同じような人にもわかりやすい、その場所を体験できるような見せ方にしたくて、そこはかなり苦労しました。地図を描く上で悩んだのが、北と南です。たとえば、メインになる地図は上が北で下が南です。キャラクターが南から北に向かう時はそのまま掲載すればいいですが、逆に北から南に向かう場合、どちらを上にするのがいいのだろうと。
── 他の図版もたっぷりです。
一時期、本を書くのがちょっと辛い時期がありまして。結局、いろいろな想いがあって今作を書きましたが、その時に吹っ切れたような感覚になり、全部大胆にやっちゃおう、図版も入れたいものは全部入れちゃおうと思いました。
── 図版を入れる場所はどのようにして決められるのですか?
いったん、文章と画像をほぼ完成状態にしてから、アドビの『InDesign』というソフトで調整して構成を組みます。最初の頃はゲラ(校正刷り)に鉛筆で、「この画像はこっちに」などと書き込んでいましたが、ゲラが真っ黒になってしまって。直してくださる方も大変ですし、画像のサイズのイメージ共有など難しいので、デジタル上で自分でいじることにしました。『変な家』の時から今のやり方をしていて、自分の思うようなページ構成をより実現できるようになりました。漫画を理想としていますが、今までで一番近づけたようにも感じています。
── 作品に出てくる鉄道や測量に関する表現や知識は、リサーチなどを重ねたのでしょうか?
専門家の方にご意見をお聞きしました。鉄道は昔から好きで、子どもの時に図鑑で写真を見たり、プラレールで遊んだりしていました。地形に関しては粘土でジオラマを作って試したりも。
今は外のビニールを破っていない未開封CDにハマっています

── 執筆期間は8か月とのこと、集中力を保つ秘訣はありますか。
好きなものをそばに置いて、5分おきに数十秒ほど手にとって眺め、また5分作業する…ということをしていました。刻みながら書くうちにエンジンがかかります。最近は、未開封CDにハマっていて、聴くものとは別に買った、外のビニール袋とかも破っていない状態の好きなアルバムを眺めています。新しく出たアルバムをお店で買い、袋から取り出した時のワクワク感みたいなものを追体験する良さや、未開封の色気みたいなものがあります。
── では、リフレッシュ法は?
2年前くらいにふるさと納税で届いたローランドの電子ドラムがありまして。程よく体を動かせて気分転換になるので、ちょっと疲れたら「叩くか…」と。また、執筆中は、一度に大量に沸かした緑茶を耐熱瓶に入れて飲んでいます。飲み物として一番好きなので。熱いのがいいです。
── 『変な家』の完全版となる記事や動画も公開されました。
4年前に書いた時は書き手としてすごく未熟な状態で、当時から思うように作れなかったという後悔と反省があったんです。そこで、『変な地図』を書き上げてだいぶ力がついたと感じましたし、自分にとってすごく大事で好きな作品だからこそ、一区切りとして、トラウマに挑んで書き直してみようと。今回はもっときれいに着地できるのではないかと思ってやりましたが、やっぱり難しかったです。概ね、自分の中で納得のいくものができましたが、100%ではないなという気もしています。
── 『変な絵』は世界36の国と地域で翻訳が決まりました。
SNSの投稿に、いろいろな国の方から「早く翻訳してほしい」「うちの国ではいつ発売されますか?」というコメントをいただくようになって、海外の方に読んでいただいていることを実感しました。特にブラジルで好んでいただいているようで、自分の作風はじめじめしているので意外でした。
── 発売中のはゲーム特集ですが、好きなゲームはありますか?
『マインクラフト』はすごく好きで、寝転がりながら世界を探索するのが楽しいです。
── これからも本を書きたいと思っていますか?
『変な地図』を書いて肩の荷が下りたというか、また自由な気持ちでいろんなものを書いてみたいという心持ちになりました。もっと気軽に、いろいろなことに挑戦していきたいので、もしよろしければお付き合いください。
Profile
雨穴
うけつ ホラーな作風を得意とするウェブライター・覆面作家。YouTubeの動画総再生数は2億回を突破。『変な家』シリーズ(飛鳥新社)、『変な絵』に続き、新作小説『変な地図』(共に双葉社)が好評発売中。
anan 2473号(2025年11月26日発売)より



























