
左・堤真一さん、右・中村倫也さん
舞台の上にはベテラン俳優ロバートと若手の俳優ジョンのふたりきり。時や場所、互いの状況が刻々と変化してゆく会話劇。日本でもさまざまなコンビにより上演されてきた傑作戯曲が、堤真一さんと中村倫也さんにより上演される。じつは堤さんは28年前、石橋蓮司さんとの共演でジョンを演じている。
ベテランと若手の俳優同士が対峙する。二人芝居の名作に挑む
堤真一(以下、堤) 前回の自分の芝居に関する記憶は全然ないのだけど、蓮司さんの姿は覚えていて。当時の僕は、家は寝に帰るだけでほぼ劇場で暮らしていたようなもので、楽屋に炊飯器を持ち込んでご飯を炊いてたんだよね。そしたらある日、蓮司さんが「俺も買ったぞ」って、僕よりいい炊飯器を買ってきたりして(笑)。
中村倫也(以下、中村) でもすごくわかります。今、僕もロバートさんの言葉とか動向を逐一観察して、その言葉を拾ったり逸らしたりリアクションしてるから、アンテナが全部堤さんのほうに向いているんですよね。
堤 自分が今、当時の蓮司さん側になったんだなって思うと…。
中村 ロバートさん、可愛いですよね。中村倫也としては、若い頃から年上の先輩たちにお世話になってきたりもしてるから、好きなんですけどね。ジョンとしてはきっと鬱陶しかったりするんでしょうけれど。
堤 でもロバートの、ジョンに対する関わり方って尋常じゃない感じがする。もちろん若手に教えるとか演劇愛もあるけれど、どこか自分の存在を彼に認めてほしい、みたいなところもある気がして。それは彼らが劇団だというのもあるのかもしれないけれど。
中村 それはある気がします。僕らの場合、毎回現場によって違う人と仕事してるから、こんなふうに芝居のこと喋らないですからね。
堤 基本的に、現場に演出家や監督がいて、それ以外の人が「あの芝居は…」なんて言い出すと逆に混乱させてしまうことにもなるし。
中村 芝居が噛み合わないなっていうときに、「あの場面、俺が一歩手前で動いたらやりやすいかな」みたいなことは言ったりするけれど。
堤 うん。それくらいだね。
中村 ジョンとしてはロバートへの尊敬とか、一緒にいて勉強になるみたいな気持ちもあるけれど、そこには打算もあると思ってるんです。この戯曲をただ額面通りにやると、若いジョンがキャリアを積んで評価されていく一方で、ロバートが老いて立場が逆転していくだけの話だなって、俺が観客なら思っちゃう気がして。ジョンが潜在的にズルくて、損得勘定でロバートへの接し方を変えていく人として見せられたらと。やっぱり観てる人に、こういう感覚あるなってものをどれだけ投げかけられるかが大事だと思うので。
堤 ロバートはずっと文句言ってるんだよね。自分の人生がうまくいかないのを誰かのせいにして文句言う人がいるけど、徐々にその原因が自分の側にあるんじゃないのかと気づき始めてるのかもしれない。そういう心理的な変化を上辺だけではなく、細かく丁寧にやっていかなきゃいけないのかなと思ってる。ただロバートも、じつは結構いいこと言ってるんだよね。全然ジョンに響いてないけれど。観る人がどう受け取るかはわからないけれど、この関係性って芝居の世界だけではなく、親と子とかにも通じるものがある気がしている。今、娘に算数を教えたりしてるけど、いつ鬱陶しがられるかと気をつけてる(笑)。
中村 でも、堤さんの肉体を通すとロバートさんの愛嬌みたいなものが浮かび上がってくるんですよね。なんか茶目っ気があるというか。
堤 こっちも気付かされることが多いし、なにより相手が倫也だから本当に助けてもらってばかりだよ。
Profile
堤 真一
つつみ・しんいち 1964年7月7日生まれ、兵庫県出身。近作に、映画『木の上の軍隊』など。9月29日からNHK連続テレビ小説『ばけばけ』がスタート。出演映画『旅と日々』が11月7日公開予定。
中村倫也
なかむら・ともや 1986年12月24日生まれ、東京都出身。W主演ドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)が放送中。声の出演をする映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』が12月5日公開予定。

シス・カンパニー公演『ライフ・イン・ザ・シアター』
劇団の看板俳優でベテランのロバート(堤)は、入団間もない俳優・ジョン(中村)に、折に触れ自らの演劇論を語っていた。やがてジョンが俳優として認められるようになり…。9月5日(金)~23日(火) 水道橋・IMM THEATER 作/デヴィッド・マメット 翻訳/小田島恒志 演出/水田伸生 出演/堤真一、中村倫也 シス・カンパニー TEL. 03-5423-5906(平日11:00~19:00) 京都、愛知、大阪、愛媛、宮城公演あり。
写真・小笠原真紀 スタイリスト・中川原 寛(CaNN/堤さん) 戸倉祥仁(holy./中村さん) ヘア&メイク・奥山信次(B.sun/堤さん) Emiy(中村さん) 取材、文・望月リサ
anan 2461号(2025年9月3日発売)より