
内田剛さん×青山美智子さん
ananでの連載12編と、書き下ろし12編から成る新刊『チョコレート・ピース』を上梓した作家の青山美智子さん。発売日の6月26日にジュンク堂書店 池袋本店で、ブックジャーナリストの内田剛さんとトークイベントを開催しました。『チョコレート・ピース』に込めた思いや誕生秘話、そして青山作品の魅力について語ったおふたりの対談をお届けします。
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チョコレートが背中をそっと押してくれる物語

内田剛さんが描かれた絵をバックにトークが弾む。
内田 今日は会場に100人、配信の視聴者が100人ほど集まっているそうです。満員御礼です!
僕は青山さんの作品をデビュー作から読ませていただいていますが、何度となく救われてきました。新刊を待ちわびていた多くの読者を代表して、お話を聞かせていただきたいと思います。『チョコレート・ピース』は、ananの連載がもとになっているそうですが、チョコレートの小説を書かれたきっかけから教えてください。
青山 実は連載の話がある前に、ananの方から「チョコレート特集があったら、ショートストーリーをお願いできますか」と聞かれたのですが、断ってしまったんです。それを心残りに思っていたところ、同じマガジンハウスの書籍編集の方から「ananで連載をやりませんか?」とお声がけいただいて。そうしたら打ち合わせのときに、その編集の方がチョコレートを手土産に持ってきて、チョコレートについて熱く語られたんです。それで、「これはもう書くしかない!」と感じました。ananで書くなら、できなかったチョコレートの話をと思っていましたし、両想いだなって。あと余談ですが、私とananは55歳で同い年。そんな偶然にも後押しされましたね。
内田 僕もだいたい同い年です。なんなら僕は、青山さんの作品のおかげで寿命が延びているような気もします(笑)。さて今回の作品は、チョコバナナ、チョコチップクッキーなど12種類のチョコレートが、世代の違う女性たちに寄り添うショートショートです。どうやって物語を着想されたんですか?
青山 まず、バーッとチョコレートを挙げました。それで、10代、20代、30代にはどんな悩みがあるかなと考えていき、それに合うチョコレートを当てはめていった感じですね。いろんな世代の、チョコレートのあるシーンを切り取ったイメージです。
みんな自分だけの宝箱を持っている

会場参加とライブ配信のチケットは即完売! 熱心なファンが耳を傾ける
内田 12編の連載をまとめた「BOX1」と12編の書き下ろしの「BOX2」、構成も本当に素晴らしいですよね。ネタバレになるといけないのであまり言えませんが…。読み終わって、2つのBOXをあらためてかみしめると、すごくいいんですよ。幸福な余韻が残るというか。
青山 ありがとうございます。ボックスは「チョコレートの箱」という意味と、もうひとつ「宝箱」という意味もあるんです。生きていると、思い出や記憶がたくさん増えていきますよね。いいものもツライものも、すべての過去が宝箱のなかに入っていて、普段は忘れているけど、ふとしたときにその蓋が開く。すると、当時はただツライだけだった記憶が思いがけずキラキラ光って見えたり、「あの経験があったから、今の自分があるんだ」と腑に落ちることもある。それって、すごく幸せな瞬間だと思うんです。
私自身、ツライ最中にいるときに「時間が解決するよ」と大人に言われて、「今ツラいんだよ!」と腹が立ったこともありますけど(笑)。ひとりひとりが自分だけの宝箱を持っていて、年を重ねるだけ宝物が増えていくこと。そして、いつでもなかを開けるし、蓋が意図せず開いて救われることもあるよと、そんな思いを込めました。
内田 「その一瞬に、祝福の一粒を。」という帯のキャッチが、まさに、ですね。表紙の写真も本当にきれいです。
青山 そうなんです! キャッチも写真も素晴らしくて大好きです。表紙は、ananの連載でも撮ってくださった増田彩来さんという写真家さんの作品です。花瓶に挿したお花と青空が鏡に映った写真ですが、何日かあった撮影日に雨が降ってしまったらしくて。でも、増田さんは、きれいな青空に晴れるのを待って撮ってくださったんです。デジタルで簡単に加工できる時代なのに、その心意気に感動しました。帯にもある「祝福」を感じさせる素敵な1枚になっていると思います。
本屋大賞5年連続ノミネート、海外進出…。青山作品が世界中で愛される理由
内田 青山さんといえば、本屋大賞に5年連続でノミネートされていらっしゃいます。本屋大賞は僕も1回目から関わらせてもらっていますが、5年連続って大変な偉業です。これまで、青山さんと伊坂幸太郎さんの二人だけですから。
青山 『お探し物は図書室まで』で初めてノミネートしていただきましたが、ほかの候補者の方が錚々たるメンバーで。そこに自分が入っていて本当にびっくりしたのを覚えています。
ランキングばかりに関心がいきがちですが、毎年ノミネートしていただいて感じるのは、本屋大賞は書店員さんの愛情で成り立っているということ。投票システムや本屋大賞にかける全国の書店員さんの思いは、ここでは語りつくせないのですが、ぜひみなさんに知ってほしいし、どんどん書店に足を運んでほしいと思いますね。「本屋さんに行こうよ」っていうイベントですもんね。
内田 おっしゃる通りです。「書店が元気じゃないとダメだ!」というところから始まって、書店員が売りたい本を選ぶ賞なので、やっぱりたくさんの人に本屋に来ていただいて盛り上がってほしいですね。で、何度も言いますが、5年連続って本当にすごいんです。狙ってできることじゃありません。現場の書店員から青山さんへの支持がいかに厚いか、よくわかります。
そんな本屋大賞になくてはならない青山さんですが、作品が世界各国で翻訳されて海外でも注目を集めています。
青山 日本の文学が世界で受け入れられている波に乗らせてもらえて、ラッキーだなと思います。翻訳された小説は、訳者によってまったく違う印象の物語になることもあるのですが、私の場合、訳者の方のあとがきを読んだり、お会いしたときに、私の書きたかったことをちゃんと理解してくださっていると感じたことがたびたびあって、それがすごく嬉しかったですね。安心して委ねられる自分は恵まれているな、と。
内田 今年の春は、フランスにも行かれたそうですね。
青山 フランスの出版社さんからお招きいただいて、パリで歴史のあるブックフェスティバルに参加しました。いろんな国の人が集まって、たくさんの出版社や書店のブースをまわって本を楽しむイベントですが、私はサイン会をしたりメディアの対応をしたりしていました。フランスの読者さんに会えたことが何よりの収穫でしたね。「本当にいるんだ」と感動しました(笑)。
それも、付箋をいっぱいつけて読み込んだ本を持ってきたり、「すごくよかったよ!」と言ってくれる方がたくさんいたり。よくサイン会で自分の悩みを打ち明けてくれる方がいらっしゃるんですが、フランスでも同じでしたし、列に並んでくださる方の表情を見るだけで感慨深いものがありました。私が書いてきたものは、言葉が変わってもちゃんと届くんだ、やってきたことは間違いじゃなかったと、すごく肯定された気持ちになって…。ダメだ、思い出すだけで泣いてしまう…。
内田 人生の悩みは万国共通で、青山さんに救われている方がたくさんいるということですよね。本当に、国境を越えて作品が愛されるのは理由がありますよね。
青山 私としては、「仲間が私を見つけてくれた」という感覚が強いです。今日ここにいるみなさんも、配信を観てくださっているみなさんも、私を見つけてくださって、ありがとう。
出版予定の「すっごく楽しみ」な本とは?
内田 きっとみなさん、心のなかで大泣きですね。
今後の作品についても伺いたいんですが、言える範囲でかまいませんので教えていただけますか。
青山 2025年の単行本は、3月に出た『遊園地ぐるぐるめ』と今回の『チョコレート・ピース』の2冊になる予定です。あとは、すっごく言いたいけどまだ言えない、とっても楽しみな本が控えています。
内田 え、気になります。ここだけの話で言っちゃってもらってもいいですよ(笑)。
青山 本当に言いたい! でも言えない(笑)。私の本だけど、私の本じゃないというか、幸せな企画です。夏くらいに情報解禁になるはずなので、SNSでお知らせしますね。
あとは年内くらいに、私がらみの本がもうひとつ出る予定です。プロモーションもしっかりやると思うので、こちらも楽しみにしていてください。
内田 ヴェールに包まれている分、期待が増しますね。プロモーションのイベントはぜひ、またジュンク堂書店でやりましょう!
青山美智子著『チョコレート・ピース』
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anan人気連載12編+書き下ろし12編、待望の書籍化。5年連続本屋大賞ノミネートの最注目作家・青山美智子が贈る優しさ成分120%の物語。
イベントのアーカイブ配信も
6月26日に実施した「『チョコレート・ピース』刊行記念 青山美智子さんトーク&サイン会」の内容はアーカイブ配信でもご覧いただけます。販売は2025年7月11日 12:00まで。
Profile

青山美智子
あおやま・みちこ 1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。2017 年に『木曜日にはココアを』でデビュー。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』『月の立つ林で』『リカバリー・カバヒコ』『人魚が逃げた』にて5年連続で本屋大賞にノミネートされる。
内田剛
うちだ・たけし ブック・ジャーナリスト。1969年生まれ、東京都出身。約30年の書店勤務を経て、2020年よりフリーに。各種媒体でのブックレビューのほか、全国の学校や図書館でPOPのワークショップなどを実施。NPO本屋大賞実行委員会理事。