アダム・クーパーさん

ブロードウェイの歴史に燦然と輝くミュージカル『コーラスライン』。“コーラス”とは、舞台上でバックダンサー的役割を務める役名もない出演者。それでもチャンスを求めてオーディションにやってくるダンサーたちに光を当ててゆく。そのオーディションの審査員であり、演出家のザックを演じるのがアダム・クーパーさん。英国ロイヤルバレエ団の元プリンシパルで、日本ではマシュー・ボーン演出の舞台『白鳥の湖~スワン・レイク~』で注目を集めた。


新演出で新たな魅力を増したミュージカルの金字塔。

「世界的にとても有名なミュージカルですが、それが今回、新しいバージョンで演出されます。オリジナルは、作品が作られた当時の1970年代の時代背景ですが、今回は少し現代に寄ったもの。ザックも、もともとは客席側から声だけ聞こえるという演出でしたが、今回は舞台の上で役者たちと関わり、近くでオーディションを見守ることができる。演出も振り付けもエキサイティングで鮮やかでワクワクします」

場面は最終オーディション。ザックが参加者に提示した課題は、自分自身を語ること。そこから、個々の人生がひもとかれてゆく。

「印象深いシーンはたくさんあるんですが、あえてひとつを挙げるとしたら、一番最後のシーンがとても好きです。オーディションの終盤、アクシデントが起こり、ザックが参加者たちに『もしあなたが踊れなくなったらどうしますか?』という質問を投げかけます。そこから『愛することのために生きた日々に後悔はない』と歌う美しい楽曲に流れてゆくんですけれど、ひとりひとりのキャラクターが自分の心を開いてゆく瞬間を目の当たりにでき、本当に感情を揺さぶられるシーンです。演出家としては、その後に最終的な合否を伝える役割があり、名曲『ONE』が流れるフィナーレまで、とてもドラマティックな展開になっていますよね」

これから立ち上げる新作ミュージカルの演出家であるザックは、参加者たちにときに厳しく接し、ときに寄り添ってゆく。公式コメントで、「ザックはこれまでの自身のキャリアを活かせる役だ」と語っていたアダムさん。

「私自身も演出家で振付家です。僕はザックのように、個人の内に秘めた部分を打ち明けてほしいとまでは思っていませんが、ダンサーを見るときに、ダンスの才能と同時にひとりひとりの個性を見たいと思っています。どんなに技術的に素晴らしかったとしても、その人が必ずしも共感できる演技ができるとは限りません。だから、ザックがあそこまでひとりひとりのダンサーと繋がっていこうとするのも、とても納得がいくんです。ただ、ザックはかなり厳しい演出家ですが、私はもう少し優しいと思っています(笑)」

新演出版では、これまでよりザックの人間的一面が見えるのだとか。

「オーディション参加者たちとの関わりの中で、ザック自身も少しずつ変化していきます。そのリアルさを丁寧に表現していきたいです」

アダムさん自身は早くから主役に抜擢されてきた人だが、このコーラスの物語をどう感じるのだろう。

「毎公演、『ONE』の場面を見るたび、コーラスの力を感じて胸が熱くなります。たとえ主役ではなくても、ひとりひとりの力が作品を輝かせるために必要なものであり、価値のある存在であるということが描かれています。誰もが、大切な“ひとり”であるということをフィナーレでより実感させてくれる素晴らしい作品だと思います」

物語はひと握りの苦さが残るが、フィナーレの名曲「ONE」にのせてのキャスト全員でのコーラスラインは多幸感満載。Photography by Marc Brenner

アダム・クーパーさん

Profile

1971年7月22日生まれ、英国出身。振付家、演出家、ダンサー、俳優。数々のミュージカルのほか一昨年に日本で上演された舞台『レイディマクベス』に出演。

『コーラスライン』

Information

9月8日(月)~22日(月) 池袋・東京建物 Brillia HALL 原案・振付・演出/マイケル・ベネット 新演出版演出/ニコライ・フォスター 出演/アダム・クーパーほか スペシャルONEシート(前方4列まで)2万円 S席1万6500円 A席1万2500円 B席8000円ほか(プレビュー公演は各1000円引き) ライブ・インフォメーション live_info@pia.co.jp 10月10日(金)~19日(日)にTheater Hにて東京凱旋公演あり。大阪、仙台公演の予定あり。

写真・小川朋央 インタビュー、文・望月リサ

anan2453号(2025年7月2日発売)より

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