鈴木亮平さん

早くに両親を亡くし2人で生きてきた兄妹の絆と不思議な体験を描いた映画『花まんま』 で、主人公・俊樹を演じた鈴木亮平さん。数多くの話題作に出演し、いまや日本のエンタメ界になくてはならない存在となった鈴木さんが語る最新作、そして俳優という職業にかける思いとは。

硬軟自在に観る者の心を掴む。“役に生きる”俳優、鈴木亮平の肖像。

――兄妹の物語を描いた今作で、鈴木亮平さんは人情味溢れる兄・加藤俊樹を演じています。脚本を読んだ時の感想を教えてください。

ストレートな人情話に少しファンタジーが入ることで、人と人との絆がより浮かび上がってくるすごくいい話だと思いましたし、なるべく無理せず普通の兄妹を演じたいと思いました。僕は兵庫県出身なので、セリフは関西弁で馴染みがあって。妹のフミ子(有村架純)と同じぐらいの妹も実際にいるので、もし僕がいまも地元にいたら、俊樹のようなお兄ちゃんになっていたんじゃないかなと(笑)。

――役によっては体づくりも完璧にされ、ストイックに演じられる印象ですが、今回はとてもリラックスしているように見えました。俊樹を演じるにあたり、どんなところを気にかけましたか?

原作はもう少し古い時代設定ですが、今作は現代の設定。俊樹の父親のように昭和の熱い男とは違い、平成育ちの感じを出したいなと。結婚がゴールじゃないねんで、っていうような現代的な価値観をインストールしながら、昭和と令和に挟まれた僕らの世代感を出したかったですね。

――前田哲監督含め、有村さんや俊樹の幼馴染みの駒子を演じたファーストサマーウイカさんなど関西出身者が多い現場で、作品づくりの新たな面白さを感じたりも?

1を言ったら10返ってくるような、ウイカさんとのセリフのやり取りはめちゃくちゃ気持ちよかったですね。昨日も一緒に飲んでたっけ? みたいな雰囲気が心地よくて楽しくて。俊樹が駒子にビンタされるシーンでは、パーンといいところに入って。ウイカさんはビンタがうまかったです(笑)。大阪人の人情は言葉では説明できない感覚的なもの。ボケとツッコミを入れながら距離感を詰めていく感じとか、やっぱり特有ですよね。コテコテに誇張されたものではない、大阪人のこういうよさを描いてほしかった、みたいな要素はまぶしたつもりです。

――ビンタは居酒屋のシーンですね。二人のテンポのいい掛け合いはアドリブを思わせるようで。

実際どうだったかあまり覚えていないんですが、ほぼ台本通りだったんじゃないかな。最近は、セリフかアドリブかはそんなに気にしないんです。すごくカッコいい言い方をすると(笑)、演じるとかなりきるのではなく、その役を“生きる”というところを目指していて。もちろんセリフは入れて現場に行きますが、あまりバチバチに入れずに、余白があったほうが現場で自由に生きられるんです。そこから出てきたセリフのほうが、たぶん面白い気がしていて。

――そういうご自分にしかわからないような、発見や成長に繋がった作品があれば教えてください。

間違いなく、大河ドラマの『西郷どん』です。1年間という長い期間、西郷隆盛という役を生きていく中、後半のほうで、説明過多なお芝居をせずただ座っているだけでも見てくれる人が十分に想像して受け取ってくれるんだ、と気づいたんです。それまでは、自分の感情をお客さんにある程度伝えたり感じてもらうことが俳優の仕事だと思っていたんです。でもそれが余計だった。カメラは過不足ないアングルで、きちんと照明が当たっていて、いろんな技術があって撮ればもうそれだけでいいというか。ただその人物として存在しているだけで、あとはお客さんに想像したいと思ってもらえるようなお芝居をするべきだな、と。役によってはお芝居をオーバーにしながら自然に見せる技術というのも必要ですが、もっと大切なのは“演じる人間になっておく”ということなんじゃないかと思いました。

――俳優とはどんな仕事ですか?

職人とアーティストの間かなと思います。エンタメ作品は世間に対して作るものですし、やっぱり売れるものでなければいけないですよね。そういう意味では職人なんですが、脚本があって監督やプロデューサー、クライアントがいる中で求められるのはアーティスティックな感覚でもある。コーヒーが熱いという表現にしても、世界の誰もやっていないような表現を全員がやる必要があるんです。コピーは求められていないので。

――なるほど。特集のジャパンエンタメにまつわる質問なんですが、鈴木さんは日本の作品を世界に発信するにあたり、どのようなこだわりや誇りをお持ちですか?

いろいろあるんですが、日本のよさって、僕たちが思うものと海外の人たちが思うものではちょっと違ったりするじゃないですか。それに日本で育った人たちが日本で作った作品には、すでによさが滲み出ていると思うんです。ただ、特に実写版においては、世界のレベルがすごく高い。そこで勝負をするには、俳優はもちろん、各部署のクリエイターたちそれぞれがさらに技術力を磨かなければいけないと思います。日本のカルチャーが世界から注目を集めていて、日本映画の評価も高まる中、いまがチャンスだと思っています。日本のプライドは持ちつつも、驕りのようなものは捨てて、がむしゃらに学んでいかないといけない。いまはそんな気分です。

Profile

鈴木亮平さん

すずき・りょうへい 1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。大河ドラマ『西郷どん』、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』シリーズ、Netflix映画『シティーハンター』ほか主演作多数。また『世界遺産』(TBS)のナビゲーターなど、その活躍は多岐に。

Information

『花まんま』

早くに両親を亡くし、親代わりに妹・フミ子(有村架純)を育ててきた兄・俊樹(鈴木亮平)。地元や職場の仲間と笑いに包まれた穏やかな日々を送る中、フミ子が結婚することに。ところが、フミ子には俊樹の知らない秘密が…。原作は朱川湊人による直木賞受賞作。全国公開中。Ⓒ2025「花まんま」製作委員会

ジャケット¥418,000 シャツ¥184,800 パンツ¥264,000(以上ジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03・6274・7070) シューズ¥269,500(ジョンロブ/ジョン ロブ ジャパン TEL:03・6267・6010) その他はスタイリスト私物

写真・小笠原真紀 スタイリスト・丸山 晃 ヘア&メイク・Kaco(ADDICT_CASE) 取材、文・若山あや

anan2445号(2025年4月30日発売)より
Check!

No.2445掲載

ジャパンエンタメの現在地 2025

2025年04月30日発売

日本が誇る最前線のエンターテインメントの形を深掘り。高橋一生さん、鈴木亮平さん、土屋太鳳さん、柚香光さん、草彅剛さんなど人気・実力を兼ね備えた俳優陣から、ミュージシャンの羊文学、小説家の安堂ホセさん、脚本家の吉田恵里香さんなど注目作のクリエイターたち、ジャパンアイドルの最新形・CUTIE STREETの板倉可奈さん&増田彩乃さん&川本笑瑠さんまで、超豪華ラインナップです。CLOSE UPには、timeleszの原嘉孝さんが新メンバー連続登場企画の第1弾として登場。

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