アニメーション会社で働く女性の苦悩と勇気を2つの時空で描く、白尾悠『魔法を描くひと』

エンタメ
2025.04.13

白尾 悠『魔法を描くひと』

白尾悠さんの『魔法を描くひと』の主な舞台は、世界屈指の巨大アニメスタジオ「ウォレス社」。20XX年とする現代パートでは、ウォレス社の旧作原画が発掘され、大規模展覧会が企画される。ウォレス日本支社で非正規雇用で働く西真琴は、通常業務の傍ら、作品リスト作成の仕事を任されることに。あるとき、真琴は、心惹かれたアニメ画にあった、〈M・S・HERSEA〉という謎の署名に気づく。ウォレス社のクリエイター名にはないそのアニメーターは誰なのか。署名の主の素性や、ウォレス社の知られざる歴史を探っていく中で見えてくる、時代が変わってもなお続く性差別の問題と、そんな環境でも健気に結果を出していく女性たちの物語だ。

SHARE

  • twitter
  • threads
  • facebook
  • line

アニメーション会社で働く女性の苦悩と勇気を2つの時空で描く。

「作家になる前に勤めていた会社で、女性で初めて『ディズニー・レジェンド』に加わったメアリー・ブレアさんという方のアート展に関わったことがありまして。資料や関連書を調べているうちに、実は男性中心社会だったかつてのアニメの世界で活躍していた女性が他にもいたことを知ったんです。埋もれていた女性クリエイターたちに光を当てたいという思いがありました」

1937年、アメリカパートの主人公レベッカは自分の画力に自信があるが、当時は女性というだけで就職もままならない。業を煮やして、ウォレス社の創業者ダニエル・ウォレスに「雇ってほしい」と直談判へ。

「あれは関連書や資料にはないエピソードで、物語を盛り上げるためにちょっと盛ったというか(笑)。ただ、レベッカの主なモデルはレッタ・スコットさんという方で、メアリーと同じ美術学校に通っていたことや、老年になっても交流があったことなどは本当です。歴史の部分は動かせないのですが、マリッサ、エステル、シェリルといった大切な仲間になっていく人物たちとの友情については、できるだけ感情をこまやかに想像して肉付けしたつもりです」

本書は真琴がいる現代の東京と、ウォレス社の黎明期である1937年からの米国ロサンゼルスなどとを行き来しながら描かれていくが、

「氷河期世代としては、不満や不安が積もる真琴のような心情は身近でした。女性であるだけで評価されない現実や、不安定な雇用など、いまなお続いている労働問題なども考える一助になればうれしいです」

PROFILE プロフィール

白尾 悠

しらお・はるか 神奈川県生まれ。作家。2017年、「アクロス・ザ・ユニバース」で「女による女のためのR‐18文学賞」大賞、読者賞をW受賞。ドラマ化された『ゴールドサンセット』ほか、著書多数。

INFORMATION インフォメーション

白尾 悠『魔法を描くひと』

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の正社員だったこともある白尾さん。本書で初めて、史実を踏まえて描くエンタメ作品に挑戦。角川書店 2145円

写真・土佐麻理子(白尾さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2441号(2025年4月2日発売)より

NEW MAGAZINE最新号

No.24422025年04月09日発売

カラダにいいもの大賞 2025・春

FOCUS ON注目の記事

RANKINGランキング

もっちぃ占い

PICK UPおすすめの記事

MOVIEムービー