少女漫画の金字塔『ベルサイユのばら』が新作アニメに! 監督が語る作品への“大きな愛”

エンタメ
2025.02.07

14歳で嫁いだアントワネット、護衛についた同い年のオスカル。幼かった二人が年を重ねて大人になり、それぞれの道を歩き出す。変わっていく表情も見逃せない。

1972年より連載が始まり、累計発行部数2000万部を突破した不朽の名作漫画、『ベルサイユのばら』 。身分や性別を乗り越え、人生を選んだオスカルと、決められた運命の中でも自分らしく生きようともがいたアントワネット。50年以上を経て作られた新作アニメーションはそんな女性2人の人生を、最新の技術で、美しく気高く描き上げました。いったいこの壮大な計画は何をきっかけに始まったのか。旗振り役である監督に、溢れる想いを聞きました。

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吉村愛監督が語る、新作アニメに込めた想い。

「どんな形でもいいから、この原作のアニメ化に関わりたかった。本当に本当に『ベルサイユのばら』が大好きなんです」

今回の作品で監督を務めた吉村愛さんは、原作連載もTVアニメもリアルタイムではない世代。いったいなぜ、そこまでの大きな愛が生まれたのか?

「最初に触れたのは、小学校低学年のときです。親戚のお姉さんの本棚に『王家の紋章』などの少女漫画の名作たちと一緒に並んでいたのを見て、パラパラッと読んだのが最初でした。ただそのときは私が幼かったこともあり、かっこいい男装の麗人とかわいいお姫様が出てくる漫画、という認識で終わった記憶があります」

作品との距離がぐっと近づいた大きなきっかけは、宝塚歌劇。大阪出身の吉村さんにとって宝塚という文化は身近なもので、小学校高学年から中学生にかけての時期に宝塚版の『ベルサイユのばら』を観劇し、そこから一気に沼の中へ。アニメーション業界で働くようになってからは、冒頭に述べたように、新しくアニメが作られるなら絶対に参加したいという熱い想いをずっと抱いていたそう。

「あるとき、自分の監督作品の仕事が終わったタイミングでプロデューサーと飲む機会があり、“次、何やりたいですか?”と聞かれたので、“『ベルサイユのばら』!”と言ったんです。あまりにも大きすぎる夢ゆえに、軽い気持ちで言えてしまって…。しばらくしたらプロデューサーが、“あの話、通りましたよ~と”! しかも、監督として参加ができる! そのときはただもうめちゃくちゃ嬉しかったですね。実際プロジェクトが動き出してから、“私はもしかして、ものすごく大変なことをしているのかも…”と、背筋が寒くなりましたが(笑)」

マリー・アントワネットがフランスに嫁いでくるところからスタートし、バスティーユ陥落までの約20年間の物語。描きたい場面をすべて入れたら3部作でも足りなかった、と吉村さん。

「この作品は、恋愛物語でもあり歴史を扱う側面もあり、そして生きる哲学を語っているストーリーでもあります。ただ今回は前後編2本でもなく1本のみの製作ということは最初から決まっていたので、まずは、オスカルとアントワネット、2人の女性の生き方に、ストーリーの軸を置くことを決めました。彼女たちの、“進む道を自ら選び、歩いていく”という姿を描く。原作が発売された当初も、オスカルが、自立をして自分の人生を決める姿に、多くの女性が共感したと聞きましたが、そのストーリーに込められたメッセージは今も色褪せていませんし、現代を生きる女性たちにもきっと響くと思っています。正直、どのエピソードを入れるか、落とすか、ものすごく悩みました。最終的には、原作に込められた池田理代子先生のメッセージを中心に据え、堂々と自分たちの『ベルばら』を作るしかないと、腹をくくった感じですね(笑)」

運命に翻弄されながらも強く生きる2人の女性にフォーカスしたストーリーや、実力派キャストの結集、歌唱シーンを使ったドラマティックな物語展開など、見どころを挙げたらきりがない。なかでも注目したいのは、『呪術廻戦』や『進撃の巨人』『ユーリ!!! on ICE』などを手掛けたアニメーションスタジオのMAPPAが作る美しい映像。ベルサイユ宮殿や庭園、ドレスのレースなど、細部にまで美しさが満ちていて、瞬きをするのが惜しい2時間です。

「当時アントワネットは朝昼晩とお召し替えをしていたという話もあり、今作ではそれに従い彼女はたくさんのドレスを着ていますし、さらにリボンやフリルのちょっとした動きなど、繊細な部分にもこだわっています。また、宮殿内部のインテリアや庭園の様子などは、その場を訪れたことがある人が見たら“そう、こうだった!”と思ってもらえるような再現度を目指しました。そして舞踏会で踊る貴族や戦闘シーンに出てくる市民、兵隊の数の多さも、劇場アニメならではだと思います。スクリーンいっぱいに広がる美しさにうっとりし、迫力ある描写に息を呑んでいただけたら嬉しいです」

すべてのシーンが“推し”だというのはわかった上で、最も思い入れがある場面を聞いてみると…。

「アンドレの最期のシーンですね。絵コンテを描いているときから涙が溢れてしまって…。試写のとき、このシーンで洟をすする音が聞こえてきたので、同じ気持ちで観てくださる方がいた…と、とても心が熱くなりました。そのときやっと、“この映画を作ってよかった”と、少しホッとできました(笑)。それを経て今は、私たちがこの作品に込めた想いが、劇場に来てくださる方々にも届くといいな、と思っています」

ベルサイユ宮殿内にある、全長75mの鏡張りの回廊、通称〈鏡の間〉。壁の模様、彫刻、シャンデリアの小さなパーツ1つまで美しい。他の場面もとにかく背景が素晴らしく、すべてに驚嘆します。

ドレスの美しさに目を奪われがちですが、国王となるルイ16世が戴冠式でかぶる王冠の宝石のきらめきもため息もの! 光の描写もとても美しいので、ぜひ注目を。

PROFILE プロフィール

吉村愛監督

よしむら・あい 1979年生まれ、大阪府出身。アニメーション監督。代表作に『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『アオハライド』『歌舞伎町シャーロック』など。

INFORMATION インフォメーション

劇場アニメ『ベルサイユのばら』

原作・池田理代子 監督・吉村愛 脚本・金春智子 キャラクターデザイン・岡真里子 音楽プロデューサー・澤野弘之 音楽・澤野弘之 KOHTA YAMAMOTO アニメーション制作・MAPPA 配給・TOHO NEXT エイベックス・ピクチャーズ 全国公開中

Ⓒ池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会

anan 2433号(2025年2月5日発売)より

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No.2433掲載2025年02月05日発売

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