宮脇綾子は野菜や魚、花など身近なモノをモチーフに、布と紙で親しみやすい作品を生み出した明治生まれの芸術家。これまで彼女の作品はアップリケ、コラージュ、手芸などに分類されてきたが、今見るとその作品はいずれの枠にも収まりきらないほど豊かな世界を作り上げている。


日常の食材をモチーフに創造した、豊かな主婦の芸術。

本展「生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」では、宮脇綾子を一人の造形作家として捉え、約150点の作品と資料を造形的な特徴に基づいて8章に分類し、手芸家としてではなく美術の観点から分析して、彼女の芸術に新たな光を当てる展覧会だ。

宮脇の制作はまず、モノを徹底的に観察することから始まった。形や色だけでなく、個々のパーツや構造まで観察が続けられ、時には植物の葉や花のガクなどを取り外して、その付き方を研究したという。またエビやカニをもらっても、料理の前にこの観察が始まるので、家族はお預けをくらうことがよくあったそう。彼女の作品が写実的なのは、こうした緻密な観察眼があったからだ。

子供の頃は貧乏だったことや、姑がモノを大切にする人だったことが影響し、どんなハギレも捨てられず、適材適所に素材を使い、作品を作り上げた宮脇。主婦として毎日目にしていたものを観察し、生み出された作品は、造形的に優れているだけでなく、高いデザイン性と繊細な色彩感覚が冴え、生命の輝きを見事に表現している。彼女の作品が美しくも、ほっこりと和むのは、“勤労主婦”“始末の良い人”といった彼女の人柄が表れているからかもしれない。

《芽の出たさつまいも》1987年、豊田市美術館
新芽や伸びる根の様子を観察した宮脇は、紐や糸による線で水を張った透明なガラスの器をも表現した。これは根や芽の生命力に強い関心をもっていた宮脇だからこそ採用した構図。

左・《ひなげし》1969年、豊田市美術館 右・《さしみを取ったあとのかれい》1970年、豊田市美術館
宮脇作品にとって「断面と展開」「多様性」は重要なキーワード。モチーフの断面に魅了され、食材や花など表裏を対にしたり、様々な角度の状態を並べたりして、作品に表すこともあった。

左・《鮭の切り身とくわい》1980年、個人蔵 右・《白菜》1975年、豊田市美術館
伝統的な吉祥紋から藍染めの縞柄や格子柄、プリントされた花柄や松竹梅の文様まで、あらゆる模様を独自に組み合わせて、写実的な作品を作り上げている点も宮脇の作品の特徴のひとつ。

Information

生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った

東京ステーションギャラリー 東京都千代田区丸の内1‐9‐1 開催中~3月16日(日)10時~18時(金曜~20時。入場は閉館の30分前まで) 月曜(2/24、3/10は開館)、2/25休 一般1300円ほか TEL:03・3212・2485

文・山田貴美子

anan 2433号(2025年2月5日発売)より
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