
旅先で出合った風景は、自分の心を映す鏡になる。そのことをよく知る作家は、旅をし、何を得て何を思うのか。旅好きの湊かなえさんが、物語の原点を語ります。
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『王国』
「海を愛する若者が夢を追う中で、悩み、傷つき、成長する群像劇を目指しました」という湊さんの構想通り、タイプの違う青年9人が章ごとに自分の真実を語り出す。その悲劇には、伝えられなかった思いが詰まっていた。7月23日発売。
マガジンハウス 1980円
小誌連載中から「翌週が待ちきれない」と話題沸騰だった、湊かなえさんの『王国』。
白珠湾を望む海辺の町で育った浜崎朔也は人を惹きつける磁石のような存在。そんな彼が、弟の元樹や幼なじみの潮見翔らと関わる青年たちをつなぐ。9人ひとりひとりが「自分たちのふるさとの海を、人が集い、再生の力を得られる場所にしたい」という共通の目的を定めて己の役割を果たそうとするが、ウェルネスツーリズムを担う「海の王国」を興した矢先、彼らのマドンナだった杉浦汐音が亡くなってしまう。汐音の死の真相に徐々に迫っていく、青春ミステリーだ。
「自己保身のための隠しごとって、意外と暴かれやすい。逆に、自分のせいだと責任を感じて抱え込んでしまったような、誰かを慮って秘密にしたことには口が固くなる。よかれと思ったことの掛け違いで起きた悲劇のその先を、群像で書いてみたかったんです」
本書の舞台は、太平洋に臨む、日本屈指の漁場を誇る架空の港町だ。
「島国である日本には漁港町がたくさんありますよね。自分たちの記憶にある景色を当てはめて、あるいは旅に出て風景を重ねて、楽しんでもらえたらうれしいですね」
本書の最初の構想が立体的になっていったのは、自然の中で心身の健康の調和を目指す、新しい旅のスタイル「ウェルネスツーリズム」を知ったことも大きかった、と湊さん。
「日本人にとっての旅の概念って長い間、観光イコール“名所を見ること”だったと思うんです。だからインターネットで世界中の景色が見られる時代ですが、私自身、実際に足を運んでみなければ味わえなかった感動や感情、感覚があったことは忘れがたい。インバウンドの海外の方たちも、見たいというより何か体験したくて日本に来るわけで、旅がその人に与える影響って大きいと思うんですよね」
自分の足でどこへでも行ける。気づきを得るのが旅の面白さ
湊作品には、彼女自身の旅体験がベースになっているものが少なくない。
「広島の因島出身で、実家が農家なので畑を放っておけないため、家族旅行というのもほとんどなく、人一倍、旅への憧れが強かったと思います。大学生になって友達に誘われ、サイクリング同好会に入ったのですが、ここでの活動が旅することへのハードルを下げてくれました。1年生のときの夏合宿が東北で、『何月何日朝に青森駅集合』みたいな通達が出たんです。同じ学年の誰かが『北海道まで船で行って、小樽から室蘭まで自転車で走って、青森に渡ろう』と言い出したんですよ。私は、そんなことができるのかと驚き、興奮しながら参加して、『そうか、旅って誰かに連れていってもらわなくても、自分の足でどこへでも行けるんだ』と気づいたんですよね。そこから、旅欲が加速するのですが(笑)」
湊さんは、デビュー10周年のときに47都道府県での記念サイン会を敢行。20周年に向けた最近は、「逆オファーサイン会」をおこなった。
「たとえば、書店のPOP職人さんに講習会をしてもらうとか、世界遺産の宗像大社でご祈祷を受けてからとか、『その土地ならではの特色があるこんなイベントをセットでやりませんか』と、書店側からご提案いただくサイン会ですね。先だってはレストランを併設した北海道の書店さんで、私の作品にちなんだコースをいただくディナー付きサイン会がありました。私もとても楽しませてもらいました」
旅と本の縁は深い。
「同じ小説を読んでも各人で感じることが違うように、旅をする前と後で感じることが違ったというのもあると思うんですよね。それも、旅と本との面白い関わりかもしれません」
旅をしたくなる、湊さんの本

『絶唱』
秘密を抱えた4人が南洋の島「トンガ」に辿り着き、新たな一歩を踏み出す再生の物語。「私自身、青年海外協力隊員として2年間、トンガで過ごした経験があります。私にとって、それまで知らなかった価値観に触れた貴重な体験でした」
新潮文庫 737円

『物語のおわり』
人生の岐路に立たされた登場人物たちが、ひとり旅をする中で気づきを得る。「北海道を自転車で周遊した経験を元に書いた作品です。同じものを見ても読んでも、その人自身の価値観や状況次第でさまざまな答えが出るから面白い」
朝日文庫 704円
Profile

湊かなえ
みなと・かなえ 1973年、広島県生まれ。デビュー作『告白』で2008年度の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、'09年の本屋大賞を受賞し、一躍ミステリー界を牽引する存在に。『王国』は、30作目の著作になる。
anan 2505号(2026年7月22日発売)より

































