
旅先で出合った風景は、自分の心を映す鏡になる。そのことをよく知る作家は、旅をし、何を得て何を思うのか。旅好きの万城目学さんが、物語の原点を語ります。
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『ホルモー燦燦』
過去作で活躍したメンバーも交じり、うっすらと語られていた東のホルモーが、ついに姿を現す。「この作品のために茶道教室にも通いました。88歳のお茶の先生から、一気読みしたと教えてもらい、うれしかったです」。
KADOKAWA 2145円
読者に「ホルモー」魂を刻んだ『鴨川ホルモー』から20年。万城目学さんのホルモーシリーズが還ってきた!オニを使役して闘うあの神々の遊びは今も健在だったのだ。
「デビューして20年になる記念に何か書きたいなと思い、それなら『ホルモー』なのかなと始めたはいいけれど、『ホルモー六景』から数えても19年経っていて、僕自身『このルール、何だったっけ?』と忘れていた細かい設定はいくらでもありました。オニが茶巾絞りみたいな顔をしているのは覚えていたけれど、何がどうしたらヘタっていくのかとか、全部読み直して再充填してから何度も書き直しました」
『ホルモー燦燦』は3編からなる。
「2026年現在の大学生のホルモー決戦の話を書いて、次に、昔やっていた人たちの話、さらに、これからやるかもしれない高校生の話と、流れを繋げました。完結編と謳いましたが、お話を完全に終わらせるということではなく、今後もホルモーはあほらしくずっと続いていくんだろうなと納得してもらえたら、それでよしとしたい」
その土地の歴史を、小説の着想のヒントに
京都を舞台にデビュー作を書いた万城目さんだが、その後は『鹿男あをによし』で奈良を、『プリンセス・トヨトミ』で大阪を、『偉大なる、しゅららぼん』で滋賀をと、京都以外の場所を描くことも多かった。過去に小誌掲載のエッセイで、京都を〈物語の油田〉と評したこともあるのだが、再び京都が登場するのは10数年後の『八月の御所グラウンド』や最新刊『ホルモー燦燦』でだ。万城目さんにとって、京都はどんな場所なのか。
「すごく単純化すると、京都は学生の街、東京は社会人の街のイメージ。小説でいうなら、東京を舞台にした方が、ストレスに晒されていろんなものに揉まれて頑張るサラリーマンは輝く。一方で、日々、空回り、空騒ぎする学生が京都には似合うというか。京都の街そのものが巨大なセットで、そこをタダで使わせてもらっている感覚です。地域性や土地柄は絶対にあって、小説を書く上で学生やそこらの人が鴨川デルタで寝そべってるだけで絵になる京都はすごく書きやすい。これが大阪になると、生活に根付いた人たちのエネルギーをちゃんと書かへんと浮いてしまう感じがします。『あの子とQ』という作品では、長崎が鎖国の時代の唯一の窓口という歴史的事実を知っているから、日本で最初の吸血鬼は出島経由で入ってきたという、ヴァンパイアストーリーのアイデアに結びつくんです」
そんなふうに、小説と土地の関わりを大切に考える。
「観光の淡いイメージだけでは小説1冊書き上げるのは苦しいです。僕はどうしてもその土地の歴史と絡めて組み立てていくタイプなので」
万城目さんは、旅をするなら、どんなスタイルが好みなのだろう。
「わりに行き当たりばったりの、ひとり旅が多いですね。2〜3年前だったかな、航空券の激安セールを利用して、長崎に飛んで5日間かけて南下して鹿児島から帰るという旅はよかったです。島原の乱の原城跡とか、行ってしまえばただの原っぱだけれど楽しかった。五島列島の教会跡を原付バイクでひたすら回り、点在する教会マップに印をつけていく、という旅もやったことがあります。テーマを決めてリストアップして、それをクリアしていく旅は、結構好きかもしれません」
ちなみに大阪出身の万城目さん。他の大阪人同様、観光の目玉が何もないと思っていたが最近、考え直したそう。
「大阪のおばちゃんの気さくさやユーモアや豊かなリアクションって、僕らが外国で陽気な現地の人に会ったときに抱く楽しさと似ているんじゃないかなと。触れ合いも旅ですよね」
旅をしたくなる、万城目さんの本

『鴨川ホルモー』
京大に入った安倍と高村は、〈京大青竜会〉というサークルに誘われたことで思いがけない青春を送ることに。「鴨川の土手でぼんやり無為に過ごしていた僕とは真逆の青春だなあと、新作のために読み返してみて思いました」
角川文庫 968円

『ホルモー六景』
収録された6編の主人公は毎回変わり、『鴨川ホルモー』では脇役だった人物たちにもスポットが当たる。恋バナ要素強め。「1年後に書いた外伝的な短編ですが、ホルモーが京都以外でも行われていることはここで匂わせています」
角川文庫 968円
Profile

万城目 学
まきめ・まなぶ 1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『鴨川ホルモー』でデビュー。'24年、6度めの候補となった『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞。
anan 2505号(2026年7月22日発売)より

































