都心の坂道を、凛々しいパンツスーツに身を包んだ久保史緒里さんがゆく。清楚で優等生。そんなイメージでとらえられることの多かった久保さんだが、ゆるやかな坂道を微笑みをたたえて上る、その背中はひたすら頼もしくかっこいい。平祐奈さんとW主演を務める3月20日公開の映画『ネムルバカ』では、喜怒哀楽全開。心の底から湧き上がる感情をさらけ出す、新たな久保史緒里に注目が集まる。
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――これまでにもananに何度もご登場いただき…今日はそのバックナンバーを持参しました。
わあ…!(ページをめくりながら)この生田絵梨花さんと一緒に出させていただいたとき(2253号)は、私が初めて個人で舞台に立たせていただいたときでした。それまでは同期が自分の道を切り拓いていくなかで、私もその先の景色を見たいと思いながら、壁を叩き続けることしかできなかった。そこで念願かなって自分のやりたかったお芝居をできるようになった! というタイミングでした。今はお芝居を通していろんな方とご一緒することで新しい価値観に出合ったり…その刺激や変化が楽しくてしかたがないです。
――最新作『ネムルバカ』では“何者でもない大学生”入巣柚実(いりす・ゆみ)を演じています。ときに荒ぶり、泣き叫び…その力強い表現が久保さんの今までのイメージと違ってまた新鮮でした。
お話をいただいて原作を読んで、この作品を愛しすぎてしまって(照)。私がなりたくてなれなかった「大学生」の役だったことも大きいと思います。中学3年生のときの担任の先生に「何があってもあなたは大学に行きなさい」と言われたこともあり、芸能界に入ってなかったら、絶対大学生になろうと思っていたんです。
――久保さん、勉強ものすごくできそうですよね…!?
あははははは。大学生への憧れはすごく強かったです。その憧れの世界を切り取っているこの作品は、「自分が経験できなかった青春を味わえるかも!」というワクワクと、ずっとご一緒したいと思っていた阪元裕吾監督の作品ということもあって、役にかける思いは撮影前から強かったです。
――生活を共にする平祐奈さん演じるルカ先輩との掛け合いも見事でした。最初からうまく入っていけたのでしょうか。
いやー…そういう意味では、撮影に入る前に監督とたいちゃん…あ、平さんのこと「たいちゃん」って呼んでるんですけど(笑)、3人で一つの場面を何度も繰り返して、チューニングみたいなことをしたんですよ。で、3人の中で「これだ!」っていう間合いを見つけるまで何度も繰り返して。そのピタッときたときの空気感を忘れずいけたから、力みすぎずに最後まで走れたんだと思います。
――アイドルとして活動される傍ら、多くの作品に出演もされていますが、俳優でありアイドルであることのプレッシャーはこれまでもありましたか。
それは…やっぱりあります。グループ活動と並行しての俳優活動なのでキャリア不足も感じますし。あとはアイドルとして活動しているときって、本来の自分をさらけ出すよりも、求められる私を見せたいという気持ちが強いんです。ファンの皆さんに応えたいとか、協調性を大事にしようという思いが強すぎて…。一方でお芝居って、自分で考えて表現するものですよね。似ているようで違う世界なので、そこでも「大丈夫かな」と思ってしまう。
――グループの活動と両立するがゆえの悩み…素敵なことでもありますが。
そうそう、そうなんです! だからこそチャンスに恵まれているわけですし、反対に自分がお芝居をしていくなかで乃木坂46というグループを知っていただきたいという思いもあるんです。
――大河ドラマにまで出演されたんですから、もう胸を張ってもいいのでは…(笑)。
いや、全っ然まだまだです!(笑) 一人で外の世界に出たら、俳優業一本で勝負されている方々と同じ土俵でお芝居しなければならない。お稽古の時間が人より少なくても、グループ活動が忙しいとか、全国ツアーがあるとか、そんな言い訳は通用しませんから。
振り切った演技ができるとうれしくなるんです。
――その2つの道を両立している先輩方が乃木坂46にはいましたが、それぞれの先輩のありようには影響を受けましたか。
そうですね…いろんな背中を見せていただきました。役が染み付いているのが遠目にもわかる方もいましたし、どんな作品に入っていても変わらない方もいました。どちらが正解というのはないけど、私は後者のタイプです。メンバーと接するときに役を引きずっていると、みんなには関係のないことで心配をかけちゃうので、そこは一線を引こうという。
――なかでも影響を受けた先輩はいましたか。
1期生の樋口日奈さんです。私が樋口さんを素敵だと思うのは「樋口さんの涙を見たことがない、わけではない」っていうところなんですよ。両立しようとしてグループに持ち込まないように葛藤するけど、消化しきれなくてこぼれる涙。その樋口さんの涙をひそかに見ていました。私が思うにその涙って…究極のグループ愛です! 一方で後輩の前ではどんなときも「いつもの樋口さん」でいようとしてくれました。だから私も後輩の前ではそういようと決めています。グループと俳優業の両立という意味では、大河ドラマ『どうする家康』で松本潤さん、岡田准一さんとご一緒させていただいたことも刺激になりました。
――具体的にはどのような部分で影響を受けましたか?
グループ活動をしながら俳優としてキャリアを積まれてきたお二人の現場での姿勢といいますか…。私はそれまでグループという集団行動の中で、気配りすることと自分の意見を後回しにすることを一緒にしていたんです。でもお二人はお芝居に対して真摯であればこそ「この場面はこうしてみては」と堂々と提案されていて。その強さを自分も持ちたいと思うようになりました。
――今作でも、酒に溺れ、酩酊し、慟哭し…。新境地を切り拓く演技が力強かったです!
確かに! そういう振り切った演技を求められると「あ、また新しい一面を見せられる」ってうれしいんです。
――恥ずかしさなどはありませんでしたか?
全然です! 自分のことはちゃんと好きだし、嫌いなとこもある。常に自分を分析してるつもりなので、周りにどう思われるかとか、全然気にしないんです。
――他人からの見え方を気にしてしまい身動きがとれなくなってしまう人もいるなか、吹っ切れたのはなぜですか。
それはラジオ『オールナイトニッポン』の存在が大きいです。ラジオを始めて気づいたのは、私のしゃべりが好きな方もいれば、そうでない方もいること。最初の頃はそれを気にしていたんですけど、全員に好いてもらうのは無理だし、アイドルだからこうでなきゃ…なんてない! 悩んで「そりゃ人それぞれ好みはあるよね」って気づいたら、視界が晴れてめちゃくちゃ楽になりました。
――そこでしっかり悩んだ時間があったのがよかったんですね。
そう思います。人間っていろいろ挑戦して何回か傷つかないと、葛藤を乗り越えて吹っ切ることは決してできないんだとわかりました。革製品が少しずつ傷がつくことで、味わいが増していくかんじかな(笑)。
――同期のお話も聞かせてください。最上級生になった今、3期生はどんな関係ですか。
3期生って…ほんとにお互い干渉しないんですよ! でも仕事の話とかを口にはしないけど、影響は受け合っている。あと乃木坂46の活動を山に例えると、3期生って全員が一番キツいルートを選ぶほう。わざわざ崖を登りに行くとか(笑)。でも、崖は協力しないと登れないですから、絆は強いのかな。それに3期生は一番いろんな景色を見てきた期という自覚はあって、だからこそ後輩に伝えられることがあるとも思っています。それもスタンスがみんな違っていて、与田祐希や佐藤楓は話しかけに行くほうだけど、私は最近は遠くから見守る人。5期生の悩みを聞くのは4期生の役目かなと思うから。4期、5期が引っ張る未来のために結束を深めてほしいなと。
――なるほど。今の久保さんにとって乃木坂46はどんな場所ですか。
学校だなと思います。私は学校って勉強より人との関わりを学ぶ場所だと考えているので、そういう人間同士の学びがある乃木坂46が大好きです。ここまでみんなの愛が深い場所はないっ!
――グループにはもうすぐ6期生も加入しますが、伝えたいことはありますか。
私から伝えたいことは、やっぱり6期にもグループを愛してほしい。これから一緒に活動していくなかで悩むこともあるだろうけど、乃木坂46を愛していれば続けられるし、続けたら絶対いいことはある! それだけは間違いない。だから“乃木坂46への愛があること”は絶対条件かも。
――久保さん個人のこれからの目標も聞かせてください。
今までご一緒した方と、もう一度共演したいです。そのためには「もう一回一緒に演じたい」と思っていただける人でいたい。そう、人間性が大事です!
PROFILE プロフィール
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久保史緒里(乃木坂46)
くぼ・しおり 2001年7月14日生まれ、宮城県出身。乃木坂46、3期生。清楚かつ聡明な魅力でグループの中心的存在として牽引する一方で、’23年の大河ドラマ『どうする家康』をはじめ俳優としても活躍の幅を広げている。この春には平祐奈さんとのW主演映画『ネムルバカ』の公開が控えている。愛称“くぼちゃん”。
INFORMATION インフォメーション
久保さん主演の映画『ネムルバカ』は3月20日公開予定。人気青春漫画を実写化した本作。打ち込むことが見つからない後輩・入巣柚実(久保史緒里)と、バンド活動に打ち込む先輩・鯨井ルカ(平祐奈)の、大学生2人による共同生活。夢が見つからない人、夢を追いかける人。その交わりと別れを描く。監督/阪元裕吾 原作/石黒正数 Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
写真・大森めぐみ スタイリスト・伊藤舞子 ヘア&メイク・森 柳伊知 インタビュー、文・大澤千穂
anan 2432号(2025年1月29日発売)より