イラストレーター・サイトウユウスケ、初のコミック作品は「自分自身の子どもの頃を暗示するような作品に」

エンタメ
2025.02.04

サイトウユウスケ『チャック・アンド・ザ・ガール』

イラストレーターのサイトウユウスケさんによる本作『チャック・アンド・ザ・ガール』は、ポップアートのようなおしゃれな空気感を存分に楽しめる、初のコミック作品だ。

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楽しいことも、悲しいことも。あの頃の記憶をそっと抱きしめて。

「イラストレーターとして20周年を迎えて、何か新しい挑戦をしたいという思いがあったんです。漫画はいつか描いてみたかったので、ちょうどいいタイミングでしたね」

そのキャラクターとして選んだのが、個展などを通して描いてきたシリーズ“Chuck and the Girl”に登場する、猫と少女。

「最初に描いたのは、2019年の猫をテーマにしたグループ展でした。それまで絵を描くときは、キャラクターの設定をあえて決め込まず、見る人に委ねていたんです。だけどそのときふと、少女や猫の性格、バックグラウンドを考えながら描いてみたら、意外としっくりきて。その後も連作として発表していくうちに、自分自身の子どもの頃を暗示するような作品になっていきました」

主人公の少女エイミーは、母親と共にロサンゼルスから横浜に住む祖母のもとへ引っ越してくる。絵描きの“テル子おばあちゃん”はとってもクールで、坂の上の瀟洒な家に暮らしている。越して間もなくエイミーは1匹の子猫を拾ってチャックと名付け、やがて濱中ケンタという漫画家を目指す少年と仲良くなる。

「僕にとって絵を描くことの根幹となっているのが、小学生の頃、毎年のように夏休みを過ごした、千葉にある母方の祖母の家での時間です。祖母は高校の美術教師だったのですが、そのとき鉛筆の削り方や絵の描き方など、基本的なことをいろいろ教わりました。僕のクリエイティブにおいてとても大切な体験だったので、自分の分身といえるエイミーやケンタ、チャックにも同じような時間を過ごさせたかったんです」

横浜で穏やかに暮らす祖母のこれまでの物語も挟み込まれ、今ある日常や出会いが決して偶然ではないことを思い知らされる。そして読者は、エイミーの記憶にそれぞれの人生を重ねながら、当たり前に思えた日々のかけがえのなさを感じるはずだ。

「“人間万事塞翁が馬”は、僕の人生のテーマといえることわざなのですが、一見悲しい出来事でも明るい未来につながるための大切なターンだったりするし、その逆もしかりだと信じていて。物語には、そういう思いも込めてみました。今回漫画を描いたことで、イラストの仕事にもいい影響をもらえた気がしています。ぜひまた描いてみたいですね」

PROFILE プロフィール

サイトウユウスケ

2003年よりイラストレーターとして活動。雑誌、CDジャケット、映画宣伝美術などにイラストを提供。’23年、作品集『YOUTHQUAKE』(玄光社)を発売。

INFORMATION インフォメーション

サイトウユウスケ『チャック・アンド・ザ・ガール』

ロサンゼルスで生まれ育った少女エイミーが、海と坂道に囲まれた街・横浜へ。祖母と共に過ごした、“青春の一歩手前”のかけがえのない時間。トゥーヴァージンズ 1595円 Ⓒサイトウユウスケ/トゥーヴァージンズ

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan2432号(2025年1月29日発売)より

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