田村健太郎、岩井秀人作品の「隙のある軽さが面白い」 傑作舞台『て』が久々の上演

エンタメ
2024.12.22

田村健太郎さん

劇作家の岩井秀人さんが、自身の家族をモデルにした舞台『て』は、独善的な父親を軸に、家族だからこその軋轢や確執を描いた物語。笑いながらも泣けて軽妙なのにじんわり切なく、2008年の初演以来再演を重ねてきた傑作が久々に上演される。

切実な題材を扱った作品の中で、どんなふうにふざけられるかが課題です。

「この作品を最初に観たとき、笑っている人と泣いている人が同時にいるのが印象的でした。僕の家族とは構成も環境もだいぶ違うけれど、それでも家族にある根本的な切実さみたいなものに心打たれたんです。そこから15年くらい経つ中で、今は、映画でもドラマでも、家族が必ずしも仲良くなくてもいいよねってことがテーマの作品も増えてきた印象があって。僕としては、もはや古典に近い普遍的な強度を持つ作品なのかなと思っています」

とは、これまで岩井さんと数々の作品を共にしてきた田村健太郎さん。しかし、6年前に上演された『て』以来の久々の出演らしい。

「岩井さんとは若いときからやらせてもらっていて、とても影響を受けたし、番外公演的なふざけた作品なんかにもご一緒させてもらいました。切実な題材を扱ったこの作品の中で、どんなふうにふざけられるか……ハイバイの絶妙な塩梅を目の当たりにしてきたので、その部分でも力になりたいなと思っています。岩井さんの稽古場では、“根(こん)を詰めてちゃんとやる”ことが必ずしも正解じゃないというか。セリフも『台本通りに言わなくていいですよ』と言われますし。岩井さんの作品の、切実さと同居するある種の軽妙さは、そういう柔軟さにあるのかもしれない。隙のある軽さが面白いんですよね」

その田村さんといえば、隙のある面白さと同時に、繊細なリアリティを感じさせる俳優でもある。昨年の映画『ほつれる』での、どこか不穏で絶妙にイライラさせる主人公の夫役が印象的だ。しかも同じ題材を舞台にした『綿子はもつれる』では、主人公の中3の息子役として子供特有の無邪気さと面倒くささを表現してみせていたのだからすごい。

「セリフに余計な意味を込める、みたいな計算は極力しないようにと思ってやっているかもしれません。それって俳優の自意識がバレてしまうというか。もちろん状況によって計算は必要ですけど、力のあるホンだったり演出があれば、俳優がそこに意味をつけなくても、普通に豊かな会話のやり取りで感じてもらえると思う。そうしないともったいない、というか。今回の舞台でも、普通に自分がやるように、というところからスタートしつつ、そこからどんな場所に辿り着くのか楽しみです」

PROFILE プロフィール

田村健太郎

たむら・けんたろう 1986年12月15日生まれ、東京都出身。大学在学中に俳優デビュー。岩井秀人、加藤拓也、前川知大、根本宗子などの舞台で頭角をあらわし、ドラマや映画でも活躍。来年1月17日には出演映画『港に灯がともる』が公開に。

INFORMATION インフォメーション

ハイバイ20周年『て』

横暴な父親の存在に耐えきれず、実家を離れていた子供たちが、祖母の認知症をきっかけに実家に戻ってきた。久々に集まり、穏やかな家族の時間が流れていたが…。12月19日(木)~29日(日) 下北沢・本多劇場 作・演出/岩井秀人 出演/大倉孝二、伊勢佳世、田村健太郎、後藤剛範、川上友里、藤谷理子、板垣雄亮、岡本昌也、梅里アーツ、乙木瓜広、岩井秀人、小松和重 一般・前売り6500円ほか ハイバイ hibye.seisaku@gmail.com 富山、高知、兵庫公演あり。

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写真・まくらあさみ インタビュー、文・望月リサ

anan 2427号(2024年12月18日発売)より

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