食を通して味わう、都市生活者のままならなさ。意表を突くグルメ小説集『お口に合いませんでした』

オルタナ旧市街『お口に合いませんでした』

オルタナ旧市街さんのグルメ小説集『お口に合いませんでした』をご紹介します。


食を通して味わう、都市生活者のままならなさ。注目作家の初小説集。

「『連載の題材は食べ物がいい』というのはすぐに決まって、担当編集さんと互いにグルメ話をいろいろしていたら、最終的に食べ物の悪口がいちばん盛り上がったんですよ(笑)。確かに、人は美味しいものと同じくらいかそれ以上に、美味しくないものについても語りたがるのではないかと思ったんです」

そんなオルタナ旧市街さんの『お口に合いませんでした』は、意表を突くグルメ小説集だ。

冒頭の「ゴースト・レストラン」で描かれるのは、デリバリー〈具だくさん自慢のお野菜スープ専門店〉のホワイトシチュー&パンセット。続く「ユートピアの肉」では、北欧インテリア量販店のフードコートで食すプラントベース(植物性代用食品)のミートボール。「町でいちばんのうどん屋」で登場するのは、出張先で取引相手に連れていってもらった地元の名店のごぼ天うどん。13ある短編で各語り手が食すものが、何かしら食欲をなくすビジュアル描写やエピソードを交えて綴られていく。共感や忌避感、好奇心などがないまぜになる不思議な面白さだ。

「味覚って究極、人によって変えられないものかなと。誰かに『まずい』と言われたとして自分もまずいと思うわけでもないし、人気店に行ってみたら自分は期待外れだったけれど一緒に行った友達は感激していて戸惑ったり。自分が正しいのかおかしいのか、わからなくなる瞬間がありますよね。人の味覚はグラデーションなんだなと書いてるうちに気がついて、そのあたりも織り交ぜて広い視点から書くのを意識しました。実際、誰にも『まずい』という断言はさせていないはずです」

1話ごとに語り手は替わり、読み進むうちに、あるつながりが見えてくるのも本書の面白さ。最後のサプライズも利いている。

「かなり実体験をベースにして書いたのでエッセイにもできたと思うのですが、あえて小説の形でチャレンジしたのが結果的によかったように思います。出てくる人たちはみなたいしたことのない鬱屈を抱えていたりして、そういうままならなさの積み重ねが“生活”というか。そのあたりが出ていたらいいなと思います。私は『自分の方がまだマシか』みたいに思えるダウナーな物語に元気づけられるタイプなので、そういう人にこそ読んでもらいたいですね」

Profile

オルタナ旧市街

おるたなきゅうしがい イマジナリー文藝倶楽部「オルタナ旧市街」の主宰者。文学フリマやSNSなどで活動し、注目を集める。今年6月、エッセイ集『踊る幽霊』で商業デビュー。

Information

『お口に合いませんでした』

各話のラストに、作中の食べ物について架空のグルメブログによる好意的なフードレビューが添えられていて、本編とのギャップが面白い。太田出版 1980円

写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2427号(2024年12月18日発売)より
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