マチアプ、コンカフェ、オフィス…使い分けていた3つのペルソナの境界が揺らぐさまを描く、市街地ギャオのデビュー作

市街地ギャオさんに、デビュー作『メメントラブドール』についてお話を伺いました。


ラディカルな言葉で綴られる、SNS時代の青春の蹉跌。

「寝る前に、iPhoneのメモ帳に小説のネタを書き溜めたりしています。この小説は、冒頭の〈「♡」〉のところから一気に、誰かの一人称視点で見たものをひたすら描写して書いていきました。書き始めたときには、語り手がどういう人間なのか自分もよくわかっていなかった。彼がどんなところに帰属して、どんなふうに生きているのかを考えながら設定を膨らませていきました」

デビュー作『メメントラブドール』で、大注目の市街地ギャオさん。

平日昼間は正社員のインフラエンジニアとして、それなりに業務をこなす主人公・忠岡柊太は、〈ノンケ喰い目的〉でマッチングアプリに耽溺し、コンカフェのキャストなのに男の娘(こ)の格好もメイクもせずに出勤するプチ反逆児。3つのペルソナを自在に使い分けてバランスをとっていたつもりだったが、その境界は次第に浸食し合い始める。そんな状況に混乱していく青年の姿は、オーソドックスな青春小説そのものだ。しかし、システム用語やゲーム用語、ネットスラング、翻って〈蠱毒(こどく)〉のような古い表現までが駆使され、言葉のレンジの広さとそれを的確に抽出するセンスがすばらしい。

マチアプ、コンカフェ、オフィスと、忠岡は自分で望んでそこにいるのだが、どこか浮いたキャラとして描かれるし、本人も自覚している。

「どこにいても『らしさ』というか、その場所に応じた姿が求められますよね。でも、誰かから規定される自分は本当に自分なのかなと考えてしまうというか、いままで生きてきた中でもずっと感じ続けてきたことなんです。忠岡と僕は全然違う人間ですが、その違和感や苦悩というのは共通していて、その感覚が小説内に自然と出てきたのかなと思います」

セクシュアルマイノリティも多く登場する本作だが、押しつけがましさがない描き方は大きな美点だ。

「マイノリティとされる属性は、自分の人生の中では普通のことでした。セクシュアルマイノリティ以外もそうですが、閉じた世界でそれなりにやっていた人たちに対して、外野から急に投げられる『考えなくてはいけない』『取りこぼさないように』といった寄り添いの言葉に、逆に距離を感じてしまうこともある。だからこそ、本当の意味で寄り添える言葉とはなんなのか、考え続けていきたいと思っています」

Profile

市街地ギャオ

しがいち・ぎゃお 1993年、大阪府生まれ。作家、会社員。本作で、第40回太宰治賞を受賞。『メメラブ』のおじさんが登場するスピンオフ短編「かぁいいきみのままで」が、webちくまに掲載中。

Information

市街地ギャオ『メメントラブドール』

マッチングアプリで〈たいちょー〉、男の娘コンカフェで〈うたちょ〉と名乗るSIer企業の25歳会社員・忠岡が駆け抜けた約1か月の軌跡。筑摩書房 1540円

写真・森山祐子(市街地さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2426号(2024年12月11日発売)より
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