荒川良々「読めば読むほど難しいけれど、面白い」 KERA演出のチェーホフに挑む

エンタメ
2024.12.07

チェーホフと聞くと、なんだか難しいとか退屈そうなイメージを持っている人も多いかもしれない。しかしそのチェーホフを、天海祐希さんや荒川良々さんが演じると聞けばどうだろう。淡々と進む会話も、作品の根底に流れる沈んだ空気も、それはそれでなんだか面白そうだ。

「まさか自分が翻訳劇をやることになるとは思ってなかったし、チェーホフも舞台で観たことはあっても、戯曲はほとんど読んだことがなかったんです。でも今回、あらためて読んでみて面白いなと思いました。舞台上で起こっていることより、描かれてない外で起こっている出来事の方が大きいというのかな。誰しも日常的に人前で芝居していたりするじゃないですか。そういう部分が多いので、自分で裏側にあるものを想像して汲み取っていかなきゃいけないんです。読めば読むほど難しいけれど、面白いですよね」

出演する舞台『桜の園』は、没落しながらも現実と向き合えずにかつての栄光にしがみつく貴族の一家の物語。天海さんはその家の世間知らずな女主人・ラネーフスカヤ。荒川さんは、かつてこの家に仕えていた農奴の息子で、現在は、彼女に憧れを抱いているロパーヒンを演じる。

「昨年、PARCO劇場でやった『桜の園』を観に行っていて。終演後にロパーヒンを演じていた八嶋(智人)さんと呑んで、まさか自分がやるとは思わず、『客席に向けた芝居が多すぎて…』などと生意気なダメ出しをしたんです。今回の役が決まってからあらためて八嶋さんと話したら『ラネーフスカヤのために一生懸命やればいい』と言われたので、今は人のためを思いながらやっています」

共演者のひとりで翻訳劇に精通している浅野和之さんからは、稽古着に対してアドバイスがあったとか。

「普段の稽古ではスウェットやジャージを着てるんですけれど、それじゃダメで、ズボンと革靴じゃないとと言われました。歩き方が違うんだ、と。実際に稽古場で浅野さんが立っている姿を見て、なるほどそういうことなのか、と思っています」

今や商人として成功を収めているロパーヒンは窮地に立つ元主家に救済を申し出るが、当の本人たちは窮地にいる自覚もなく浪費し続け、一向に彼の言葉に耳を傾けようとしない。そんな滑稽さを描いた喜劇を演出するのが、ナンセンスコメディの旗手であるケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さん。

「この作品に関しては、いわゆるお客さんのリアクションでウケたとかウケなかったとかいう、わかりやすい笑いじゃないんですよね。ただ本当に相手のことを思ってやっているのに噛み合わない感じが滑稽に見える。そこに喜劇的な要素があるんじゃないのかなと思っています。KERAさんからは、『荒川くんは元は農家の人みたいな感じがするよね』と言われていて、それはちょっと意味わかんないですけど(笑)」

荒川さんのオフビートな笑いは、KERA演出とも相性がよさそうだが、意外にも初の顔合わせになる。

「まだ20代の頃、宮藤(官九郎)さんの作品で岩松了さんと共演したときに、岩松さんから『200人中197人が笑っていても3人は笑ってない人が絶対いる。そういう人たちのためにやれ』って言われたんです。その後、岩松さん作・演出の舞台に出るようになって、今回のKERAさん演出のチェーホフのホンをやって、あのときはわからなかった言われたことの意味が、ちょっとだけわかった気がしているんです。ほんとちょっとなんですけどね」

PROFILE プロフィール

荒川良々

あらかわ・よしよし 1974年1月18日生まれ、佐賀県出身。大人計画に所属し、松尾スズキ、宮藤官九郎作品のほか、多くの演出家から信頼を得ている。出演映画『AT THE BENCH』が現在公開中。

INFORMATION インフォメーション

シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV Vol.4/4『桜の園』

12月8日(日)~27日(金) 三軒茶屋・世田谷パブリックシアター 作/アントン・チェーホフ 上演台本・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ 出演/天海祐希、井上芳雄、大原櫻子、荒川良々、池谷のぶえ、峯村リエ、藤田秀世、山中崇、鈴木浩介、緒川たまき、山崎一、浅野和之ほか S席1万2000円 A席9000円 B席5000円 シス・カンパニー TEL:03・5423・5906(平日11:00~19:00) 大阪、福岡公演あり。

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写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・白石義人(ima.) インタビュー、文・望月リサ

anan 2425号(2024年12月4日発売)より

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