※本特集は、メインストーリー第2部までと、4周年イベントを含むいくつかのイベントストーリーの内容を含みます。未プレイの方はご注意ください。
犬山紙子「この願いが、私にとっては愛なのかな、ということを考えます」
――犬山紙子さんはTVやSNSなど、さまざまな媒体で『魔法使いの約束』の魅力を発信されてきました。改めて、作品との出合いについて教えていただけますか?
時期としてはサービス開始から半年くらいの頃だと思います。SNSで、私が個人的に信頼しているオタクの皆さんがざわついていて。こんなに私の好きな人たちがのたうち回っているんだったら、私も手を出してみようと思って始めて、一気に読み進めました。
――第一印象で、ここがいいなと思ったポイントはどこでしょう。
ストーリーですね。ちょっと驚くほどよかった。キャラクターにハマるだけでは全然なく、心の柔らかいところをぎゅっとつかまれた感じがありました。最初の出会いからして、賢者であるプレイヤーのことを魔法使いたちがすごく大事にしてくれるんです。こちらの意思を確認して、ちゃんと合意をとってくれる。ゲームの世界に尊重してもらえているっていう不思議な感覚がありました。
――そこからずっと続けてプレイされているんですか?
はい。それまでスマホゲームって続いたためしがなかったんですけれど、まほやくはずっと。心の柔らかいところをつかまれた、と言いましたが、まほやくは多分、意図してそういうストーリーにしているんじゃないかと思うんです。都志見文太先生の文章からは、心理学の知見にも繋がるものがあるような感じがしていて。私はこうしたコンテンツのキャラクターたちに対して、過去の幼い私、インナーチャイルドがわーって泣いているのを癒してもらうような感覚があるんですけれど、そこをぎゅっとつかまれる。21人の魔法使い全員にそれぞれの孤独があって、どこかで自分の孤独とフィットするものがあるんです。しかもその孤独を全然否定しないで書いている。私、ファウストの傷ついた心を癒したのが東の国での孤独な暮らしだった、っていうのがすごく好きなんです。孤独であることを必ずしも悪いものとして描いていなくて。私の“この孤独さ”を傾聴してくれるようなゲームだなって感じています。カウンセリングをしてもらっているような。
――好きな魔法使いを挙げるとしたら誰でしょう?
やっぱりもう、全員なんですよね。魔法使いだけじゃなく、賢者も大好きです。最初に好きになったのはミスラでした。初めは顔からだったんですが…。ミスラは自分のことを育ててくれた魔女が命を落としてしまっていて、本当はそのお別れがすごく寂しいんです。なのに、寂しいっていう感情を自分でもわかっていない。甘えたい気持ちがちょっと暴走している感じ、でも強がっている感じが、私自身の「お母さんに甘えたかった」っていう気持ちとすごく共鳴して。親愛ストーリー(それぞれの魔法使いの親愛度を高めると読めるようになるエピソード)を読み、ミスラの中の子供が暴れているのを見て、「わかる、私も一緒だよ」みたいな気持ちで、ぎゅーっと好きになりました。眠れないミスラを賢者として寝かしつけてあげることで、私の中の子供の頃の私も寝かしつけてあげているような気持ちになるんです。
――カウンセリングのよう、というお話に繋がるんですね。
それから年少者に対しての、大人たちの向き合い方がいいんです。若い人たちが子供でいていい、未熟な存在でいていいんだよっていう、ちゃんと見守ってあげる視点に優しさを感じて、癒されます。そして、大人という話では、やっぱりフィガロですね。フィガロは、「愛ってなんだろう」ということを本当に実直に考えている人です。愛ってなんだろう、孤独ってなんだろうっていう、小学生の頃に道徳の授業でやってきたような話を、大人になってから再度まほやくを通して読むと、毎回考えさせられる。フィガロの孤独を考えた時に、神様として生きてきた彼の孤独って途方もないと思うんです。でもだからこそ、彼にはなんとか生きていてほしいって強く願うんですよね。まほやくの人たちには、みんな生きていてほしい。この願いが、私にとっては愛なのかな、ということを考えます。そんなの大人になってから向き合うことなんて、なかなかないんですけれど。
――作中には死が定められている人や、死期が迫っている人もいます。彼らに生きていてほしいと願うことには、辛さもありませんか。
それこそが“心を繋ぐ”というこの作品のテーマになると思うんです。まさに今ここで、その魔法使いとプレイヤーは心を繋いで、「どうにか生きていてね、生きていてほしい」って願う。私はそうやって願うこと、それ自体に価値がある気がしています。心を繋いで、愛を呼び起こす。ゲームを通してそれを体験できるというのは、本当にすごいことです。
――ありがとうございます。犬山さんはずっとまほやくを広める活動をされてきましたが、どういう人にまほやくをプレイしてほしいと思いますか?
すべての人ですね。女性向けゲームということになっていますが、女性に限らずいろいろな人に届いてほしい。自分の中に傷ついた子供の頃の自分がいるような人には、ぜひ触れてみてほしいです。それに、もっと若い中高生の頃に読んでも、きっと大事な体験になると思います。私はまほやくの魅力に「否定されない」っていうことがあると思うんです。魔法使い同士の価値観が違っても、誰が正しくて誰が間違っているっていう描き方をしない。だから、自分の共感した人が否定されてしまうのを見て疎外感を覚える、みたいなことがない。やっぱり多様性を描く物語だからでしょうね。だから安心して逃げ込んでいったり、帰っていったりできる場所になるんじゃないかな。私もそうやってまほやくに救われている部分があるんです。都志見先生のお話をもっと長いあいだ読んでいたいし、読まれてほしいので、これからもお元気でご執筆を続けていただけたらいいな、と思います。
花守ゆみり「“再会”と“再開”の物語だと思っています」
――2025年1月から放送開始となるTVアニメ『魔法使いの約束』。賢者である真木晶(まさき・あきら)役には、花守ゆみりさんが選ばれました。花守さんは以前からまほやくをプレイされていたと伺っています。
はい、3周年の頃から始めました。2年がたつくらいの賢者です。
――きっかけはなんでしたか?
コロナ禍を挟んで、収録の現場でも生活でも一人になることが多かったんです。少し心が疲れていて、お仕事以外で新しい物語を自分の中に入れるのが難しい時期で。でもこのままじゃ仕事だけになっちゃう、新しい物語に出合わなきゃ、と思っていた時に触れたのが『魔法使いの約束』でした。
――作品としてはご存じでした?
はい。周りの人から「花守さんは絶対まほやく好きだ」って言われていました。
――最初の印象はいかがでしたか。
ビジュアルの綺麗さと話の重さのギャップに衝撃を受けました。どうすればいいのかずっと悩み続けて、それでも綱渡りでどうにか前に進んでいく。光もあるけれど、影もしっかりある物語。こんなに誰かと生きていきたいのに隔てられてしまっている人たちが、この孤独をどうやって癒すんだろうと思いました。それは当時の自分の気持ちの状況とすごく重なる部分があったんです。心をつかまれて、第1部、第2部と読んでいきました。ひやひやしながら満月のストーリー更新を待って。東の魔法使いたちが追い詰められていく地下水路の3か月は、本当に辛い気持ちでした。でも、そうやって苦しんでいる時に(ファウスト役の)伊東健人さんと現場で会っちゃって…今、一番会いたくなかったって言ってしまいました(笑)。それで、私がゲームをプレイしていることが伊東さんに知られて。その後、アニメのテープオーディションを経て、真木晶役に決定したということを聞いた直後に、また伊東さんと偶然お会いしたんです。エレベーターの前で。
――エレベーターの前で!
「私、賢者になりました!」ってご報告しました。伊東さんも、よかったねえと言ってくださって。その時、オーディションのことを取材で聞かれたら絶対この話をしよう、と思っていました。
――そんな花守さんから見て、真木晶とはどんな人でしょうか。
晶は、突然全く知らない世界に来てしまった人。誰かとの関係も偏見も持っていないからこそ、対等に、まっすぐ人と話せるというのが、多分一番に感じられる魅力です。でも私は、魔法使いたちの孤独に向き合う晶自身が、実はすごく孤独な存在なんじゃないかとも感じています。心を繋げるということを何よりも尊く感じるのって、やっぱりその孤独な晶の目を通しているからこそなのかもしれないって。
――晶を演じる上で、どういったことを心がけていますか?
まず話を聞いてから心を動かすという、その順序をとても大切にしています。晶は言葉を届ける前に、相手からの言葉を自分の中でちゃんと受け取って考える人。ある意味それは賢者の書を綴っている感覚にも近いのかなって。収録の時、かずまこをさんに、モノローグを半ばナレーションのように、誰かに物語を読み聞かせることを意識したような作りにしたい、と提案させていただきました。
――『魔法使いの約束』の魅力はどんなところだと思いますか?
語り始めるときりがないのですが…私は、このお話は“再会”と“再開”の物語だと思っています。何か大きなものを自分で断ち切ったり、断ち切られたりした魔法使いたちが、賢者の魔法使いという役割を担わされて、終わってしまったはずのものに再会する。そして再開せざるを得なくなる。魔法使いたちは長命で、10代の子たちもいれば、何千年も世界を渡り歩いてきてしまった人もいます。そんな魔法使いたちと賢者が一緒に過ごせる時間って、きっと彼らにとっては人生の1ページにも満たないと思うんです。でも、今この時だけは向き合うことができる。だからこそこの時間は何より大切だし、大切にしたいっていう気持ちになる物語です。
――一方、まほやくは「うまくいかないかもしれない」という可能性を残してもいます。
そうなんです。表面上すごくうまくいっていると思わせておいて、実は大きなすれ違いが起きていたりする。いつまでたってもちぐはぐなままかもしれない。それでもそばにいたいし、肯定してあげたい。賢者ってあの世界で、本当に何も持っていない人間です。でも何も持っていないからこそ、ほかの誰にも言えないことだって、私はこの世界に何も残さずにちゃんと持っていけるよって思う。賢者は、魔法使いたちの言葉や心があふれそうになった時に、それをこぼしてもらうグラスにはなれるんじゃないかなと思っています。
――それが花守さんにとっての、魔法使いと心を繋ぐということなのかもしれませんね。最後にアニメ『魔法使いの約束』を見る読者へメッセージをいただけますか。
『魔法使いの約束』という物語を知るきっかけ、架け橋になれたらと思っています。日頃ゲームをプレイされている皆さんにとっても、こういう晶もいたのかもしれない、という可能性のかけらを見ていただけたら。その上で…『魔法使いの約束』は、魔法使いたちだけではなく、読者にとっても“再会”の物語だと私は思っています。小さな頃いろいろな物語の中で、魔法使いという存在にたくさんのことを教わったと思うんです。あの頃の私たちが大人になって、魔法使いたちと再び出会い、見失っていたり、見えなくなっていたりした心をもう一度教えてもらえる、そんな物語。アニメから入っていただいてもいいですし、原作のゲームの物語にも、本当に宝物のように素晴らしいお話がたくさん詰まっています。あの頃の魔法使いたちに、大人になってからまた会ってみたいなという気持ちが、もしこの物語に触れるきっかけになったら嬉しいです。
PROFILE プロフィール
犬山紙子
いぬやま・かみこ イラストエッセイスト。幅広いメディアで活躍。近著に『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。本誌にて「SanPaKuちゃんのわがまま気まま愛のRoom」連載中。
花守ゆみり
はなもり・ゆみり 1997年生まれ。神奈川県出身。2013年声優デビュー。TVアニメ『魔法使いの約束』では真木晶役を担当。アニメ『株式会社マジルミエ』『ぷにるはかわいいスライム』、ゲーム『原神』など出演作多数。
INFORMATION インフォメーション
TVアニメ『魔法使いの約束』
異世界に召喚された真木晶は、賢者として魔法使いたちと心を繋ぐ。2025年1月6日22:00~TOKYO MX にて放送開始。出演/田丸篤志、花守ゆみりほか。
『魔法使いの約束』
2019年11月26日リリース。略称は『まほやく』。異世界に召喚された“賢者”と21人の“賢者の魔法使い”たちの群像劇。プレイヤーは賢者として魔法使いたちを育成し、世界の異変に対応する。魔法使いたちへの理解を深め、好物の料理で親愛を育んでいく要素も。賢者は男女を選べ、デフォルトネームは「真木晶」。重厚なメインストーリーは第2部まで進行中。メインシナリオライターは都志見文太、世界観監修はかずまこを。累計ダウンロード数700万以上。iOS、Androidでプレイ可能。