作者の佐々大河さんにお話を聞きました。
「文明論『逝きし世の面影』に感銘を受け、こういう歴史観の書物を描いてみたいというのが最初の動機でした。そのテーマを描くに当たって、バードというフィルターを当てはめるととてもしっくりきたんですね」
かくて、バードがカルチャーギャップを楽しみながら日本を歩くさまがイキイキと描かれるコミックが誕生。佐々大河さんの『ふしぎの国のバード』は、彼女の旅行記を下敷きに、女史と伊藤との絆や消えゆく当時の文化風俗を、情緒豊かに活写する。それが面白いのなんの。
「バードの著作に忠実なところと、マンガとしての魅力を優先して脚色したところ、両方あります。たとえば、実在のバードも好奇心いっぱいの女性だったようですが、さすがに当時の中流階級以上の女性は、作中のバードのように大声を出したり、はしゃいだりはしなかったかも。それでも、喜怒哀楽のはっきりしたキャラにすることで、読者に楽しんでもらえるのではと考えました」
バードが綴った日本の美点も欠点も率直に取り込んだ。会津道の途中で知った極貧の暮らしに、バード以上にショックを受けた伊藤は「恥ずかしい」を連発するが、これは先の旅行記に実際に書かれていることだ。3巻では、伊藤の仕事人としてのさらなる能力や愛すべき個性が際立ってくる。と同時に、新しい顔ぶれが増え、波乱の展開を匂わせる。
熱量の高い物語を支えるのは、人物の表情、生活の様子、風景が三位一体となった画力。一切の手抜きのない、緻密で繊細な描線に感服だ。
「生活を描きたいというのがそもそものコンセプトだったので、細かいペン入れは自分でも楽しい。でもいちばん好きなのは、博物館に行ったり調べものをしたり、ずっと資料と格闘していることなんです。編集さんには、ときどき『学者じゃなくてマンガ家の仕事をしてください』と釘を刺されます(笑)」