『日本奥地紀行』は、19世紀の英国女性冒険家イザベラ・バードが、通訳ガイドの「イト」こと伊藤鶴吉を連れて、地図なき道を旅したときの見聞録だ。
ふしぎの国

作者の佐々大河さんにお話を聞きました。

「文明論『逝きし世の面影』に感銘を受け、こういう歴史観の書物を描いてみたいというのが最初の動機でした。そのテーマを描くに当たって、バードというフィルターを当てはめるととてもしっくりきたんですね」

かくて、バードがカルチャーギャップを楽しみながら日本を歩くさまがイキイキと描かれるコミックが誕生。佐々大河さんの『ふしぎの国のバード』は、彼女の旅行記を下敷きに、女史と伊藤との絆や消えゆく当時の文化風俗を、情緒豊かに活写する。それが面白いのなんの。

「バードの著作に忠実なところと、マンガとしての魅力を優先して脚色したところ、両方あります。たとえば、実在のバードも好奇心いっぱいの女性だったようですが、さすがに当時の中流階級以上の女性は、作中のバードのように大声を出したり、はしゃいだりはしなかったかも。それでも、喜怒哀楽のはっきりしたキャラにすることで、読者に楽しんでもらえるのではと考えました」

ふしぎの国

バードが綴った日本の美点も欠点も率直に取り込んだ。会津道の途中で知った極貧の暮らしに、バード以上にショックを受けた伊藤は「恥ずかしい」を連発するが、これは先の旅行記に実際に書かれていることだ。3巻では、伊藤の仕事人としてのさらなる能力や愛すべき個性が際立ってくる。と同時に、新しい顔ぶれが増え、波乱の展開を匂わせる。

熱量の高い物語を支えるのは、人物の表情、生活の様子、風景が三位一体となった画力。一切の手抜きのない、緻密で繊細な描線に感服だ。

「生活を描きたいというのがそもそものコンセプトだったので、細かいペン入れは自分でも楽しい。でもいちばん好きなのは、博物館に行ったり調べものをしたり、ずっと資料と格闘していることなんです。編集さんには、ときどき『学者じゃなくてマンガ家の仕事をしてください』と釘を刺されます(笑)」

『ふしぎの国のバード』 明治11年、横浜から西洋人未踏の西海岸ルートで最北の地・蝦夷ヶ島を目指すバードと伊藤。3巻では難所の会津道を越え、ついに新潟に到着。以下続刊。KADOKAWA 620円(C)佐々大河、KADOKAWA

※『anan』2017年2月8日号より。写真・森山祐子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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