男女同権が実現し同性愛が主流化し、生殖活動は人工授精で行われるようになった世の中で、異性愛者の青年がテロを企てる。古谷田奈月さんの『リリース』は、その設定からして衝撃的な問題作。
「男性ばかり出てくる話を書きかけた頃、ベクデル・テストの話題を目にしたんです。フィクション作品に女性差別がないか確認するテストで、2人以上の女性が登場するかなどの項目があるんですよね。そういうテストが話題になるような風潮の中、このまま男性ばかりの話を発表したらひどい誤解を受けそうな気がしたので、自分が何を感じているのか先に提示しておこう、という必要性から書いたのがこの小説です」
昨今、フェミニズムに関する声が高まっていることは認識していた。
「フェミニストたちの平等主義には賛同できる部分が多いですし、社会の認識はまだレベルが低いと思います。でも、どれだけ声をあげても社会が変わらないから、女性たちはどんどん手加減しなくなる。それはちょっと怖いなと思いました。男性側にも言い分はあるだろうけれど、それが言いづらくなっている雰囲気を感じたんです」
物語はテロ勃発から始まるが、
「私が抱えていた違和感の多くはテロリストの青年に託し、冒頭の演説シーンで主張してもらいました。でもいざ書いてみると、この主張を純粋に肯定するだけでは結局争いになるだけだとわかって。それで、その根深さを表すためにも、テロの裏にもう一つ舞台を作ったんです」
一人の記者がその真実と、その後の意外な展開を追っていくこの物語。
「私自身が感じていることを言ってくれる人がいなかった。だから自分でこの小説を書くしかなかった。それが記者を登場させたことに通じているのかもしれません」
物語の中には、女性を性的対象としか見ていない男性もいれば女性に理解ある男性もおり、その一方で男性を必要としない女性もいれば男に愛されることが喜び、という女性もいる。
「自分が抑圧されていると気づいていないけれども、実は自覚していない欲望はある。それはすべての登場人物にあてはまること。いろんな人がいろんなことから解放されたらいいなと思いますね」