それでも最高傑作を更新したい!
ゆっきゅん(以下、ゆ):冬野さんの作品って、自分自身ができれば感じたくないみじめな気持ちや生きづらさみたいなのを、毎回緻密に描かれていますよね。
冬野梅子(以下、冬):漫画に描いているくらいの、つらくみじめな気持ちに普段からどっぷり浸かっているわけではないんですけど、あえて重く脚色して言い表しているところはあります。客観的に見るとどうなのか知りたいというか。
ゆ:知りたい気持ちなんだ?
冬:例えば私は今こんな過剰な気遣いをされちゃってるよね、とか。それで凹むのではなく、実際はありがとうって感じているんだけど、漫画に描く時は、私は「この場の厄介者である」というみじめさをちょっとひどめに残しておきたいというのはありますね。
ゆ:実際の自分よりも卑屈に残しているんですね。
冬:現実はそこまでひどくないと思いたいところもあって。だから私的には、ポジティブに現実を過ごすためのネガティブな作品という位置づけなんです。
ゆ:だからみんな身につまされる思いで読んじゃうんですね。
冬:たまに強めの整体を受けたいみたいな時、ありません?(笑)
ゆ:たしかに(笑)。冬野さんの作品の登場人物や読者さんって、私のターゲット層にも近いのかなと思って。「疲れた人全員」に向けて作品を届けたくて、退職の歌を作ったりもしたし。
冬:退職っていいですよね。私、何度か転職をしているんで、辞める時の爽快感って結構わかるんですよ。何かあったら「辞めればいいや」って思える気持ちって、支えになるんですよね。
ゆ:辞めるって決めてからの仕事の気楽さってすごいですよね。
冬:最高ですよね!
ゆ:冬野さんは「こういうのを描かなきゃ」って常にあります?
冬:それは最初で枯渇しちゃうものだなとすごく思います。私の中のベストは、最初に出した短編。あれはなかなか超えられない。
ゆ:超えてるんじゃないですか?
冬:あんなじゃりっとして嫌な漫画はもう描けないかな。あの時は会社員をしていて、自分がまだ作品を作れていないジレンマみたいなものもあったから。それに漫画にしたいテーマや伝えたいことを考える時間がそれまでの人生分あって、それが凝縮されているから今振り返ってもやっぱりいい作品なんですよ。下手で稚拙だけど、気持ちは超熟成されているので。
ゆ:一番伝えたいことが1作目に出ますもんね。それを作品にしてくれてありがとうございます!
ふゆの・うめこ 2019年「マッチングアプリで会った人だろ!」で「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。近作に『まじめな会社員』『スルーロマンス』など。現在Web メディア「よみタイ」でエッセイ「東北っぽいね」を連載中。
ゆっきゅん 1995年、岡山県生まれ。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。セカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』が発売されたばかり。インスタ、Xは@guilty_kyun
※『anan』2024年9月18日号より。写真・幸喜ひかり 文・綿貫大介
(by anan編集部)
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