第1話から、主人公の目の前でその母親が殺されるという衝撃的な展開で始まった大河ドラマ『光る君へ』。この凄惨なシーンで、躊躇なく刀を突き刺す冷徹な藤原道兼を演じていたのが玉置玲央さん。
「映像作品ではわりと悪い役をいただきますが、面白がってやっているところはあります。わかりやすい悪であればそちらに徹しますけれど、できれば僕は、主人公側から見たら悪だけれど、それぞれに事情と正義があるんだということを大事にしたい。事情があって悪にならざるを得なかったとか、こういう思考だからこんな行動をとったとか、台本上でも懇切丁寧に描いてくださってることもあるし。…シェイクスピアの登場人物は短絡的に悪事に走ったりするんですけど。それでも自分なりの正義をちゃんと持ってやりたいとは思っています」
道兼も、回を重ねる中で、父親や家のため、自ら汚れ役を引き受けてきた悲しい人物であることが徐々に明かされていく役だった。
「大河ドラマという性質上、劇中で道兼として年齢を重ねていって、取り巻く環境や人間関係が変わっていく様子が描かれるじゃないですか。それを道兼という役で演じられ、いろんな側面を見せられたのはとても面白かったです」
演じるうえで、明確な答えを提示しないよう意識したと話す。
「明確な怒りとか悲しみを提示するよりも、その場では答えを渡さずに、見ている方にこの人はどんな気持ちでいるんだろうと解釈を委ねる部分を大事にしたつもりです。僕は、怒りとも哀れみとも、悲しみとも驚いて愕然としているとも取れるほうが面白いと思っている節があって、それが多くの人に伝わったんだとしたら嬉しいです」
高校入学の際に、たまたま演劇科を選んだことがお芝居を始めたきっかけ。劇団柿喰う客に所属し、ここまで舞台を中心に活動してきた。
「24歳くらいまでは、自分が一番芝居がうまいし面白いと思ってました(苦笑)。でも、いろんな先輩がたを見てきて、ひとりでできることには限界があることに気づくわけです。とくに舞台は需要と供給がひとつの場所で循環していて、お客様が入って完成する総合芸術。作・演出家とスタッフ、共演者の方と豊かなやりとりをすることで、作品に厚みが生まれるもので、どんなにすごいワンマンプレイヤーがいてもダメ。でも、だから舞台が好きなんだろうなと思っています」
自分ひとりで完結する世界は、あまり得意ではないそう。自ら演劇ユニットを結成し、演出から宣伝美術まで手がけるなど、自分の世界も持っている多才な人だけに意外。
「自分だけでやれることってやっぱり限界があるし、ちゃんと甘えられる人や頼れる誰かと一緒に肩を組んでやっていくほうが効率もいいし、楽しいと思っちゃいます。振り返って考えると、今この仕事を続けているのは、自分のことよりも、身近で自分の面倒を見てくれている人たちが豊かになっていくとか喜んでくれるのを見るのが嬉しかったからで。さらに、僕に声をかけてくださったスタッフの方たちが喜んでくれ、その先にお客様とか視聴者の方がたがいてくれるんだと実感できたときに、お芝居を生業としてやっていこうと思えた。自分のためだけに自分の世界を突き詰めていくのはしんどいというか、消耗してしまいそうで…。なるべく自分に期待しすぎず、背負いすぎないのが向いているし、居心地よくいられる秘訣なのかなって」
そんな玉置さんに、大人というテーマをぶつけると、「なんなら自分は、そこから逃げてきている気がするんですよね」と苦笑いされた。
「大人になるに従って背負う責任も大きくなっていくから、周りのいろんなことに配慮して活動していくことを求められます。それは大事なことだけれど、こと表現に携わるとき、そういうものに縛られないほうが、人が惹きつけられるような逸脱した面白いものが生まれたりする。僕は感情に任せて表現することが多いし、本質的にそういう表現が好きなんですよね。ありがたいことに、ここまでずっとやりたくないと思ったお仕事ってなくて。高校から芝居を始めて、給料がもらえるようになったのは26~27歳くらいですが、生活のために仕方なく仕事した記憶って全然ないんです。だからこのまま子供のまんまでも大丈夫じゃんって思っちゃっています(笑)」
とくに自分がまだ子供だなと思うのはどんなとき?
「普段、人と食事に行くときはちょっと遠慮するんですが、本当はものすごく食べるんです。たとえばひとりで中華料理屋に行って、1回の食事で定食を2つ食べて、さらにアラカルトで1品とか頼んだり。好きなものを好きなタイミングに、パンパンになるまで食べちゃうんです」
その一方で、大人になったと実感するのは親御さんとの関係性とか。
「この間、家族でショッピングモールに行ったんです。買い物している間はそれぞれ別行動で、あとで合流して一緒にコーヒーを飲んだとき、オーダーが複雑だからって僕がメニューを決めて注文して、僕が両親のぶんも払ったんですが、なんかすごく不思議な感覚になりました。親と子という関係性は変わらないけれど、自分がいい大人になってきて、体力だったりいろんな面で、逆転してきているわけです。そうなったとき、自分が両親のようにちゃんと社会的に責任を果たせる人になっているのかなとは思いますよね」
この先目指したいのは、段田安則さんのような俳優。
「特別じゃなく俳優として存在している、というんでしょうか。余裕っていうのとは少し違って、すごくニュートラルにお芝居されている。人間的な部分とか感情とか、とても豊かなんだけれど、そこにはちゃんと余地があっていろんな形にフィットしていける。その柔軟さがカッコいいし素敵だなと思っています」
たまおき・れお 1985年3月22日生まれ、東京都出身。最近の出演作に、ドラマ『大奥Season2』『光る君へ』、映画『夢の中』などがある。8月11日に開幕する舞台『朝日のような夕日をつれて2024 』への出演を控える。
コート¥121,000(blank blank.info193@gmail.com) シャツ¥41,800 ベルト¥22,000(共にガラアーベント/サーディヴィジョンピーアール TEL:03・6427・9087) イヤーカフ、上¥25,300 下¥29,700 リング、右手・人差し指¥117,700 小指¥37,400 左手・中指¥31,350 小指¥30,800 ブレスレット¥84,700(以上プリュイ/プリュイ トウキョウ TEL:03・6450・5777) その他はスタイリスト私物
※『anan』2024年7月24日号より。写真・樽木優美子(TRON) スタイリスト・藤長祥平 ヘア&メイク・KATO(TRON) 取材、文・望月リサ
(by anan編集部)