「アート×マネー」のスリリングな関係性を見つめる、新感覚コミック。
「絵画作品が高額で売れたというニュースが流れると『絵一枚にそこまでの価値があるのかわからない』と否定的な見方をされることがありますよね。私はアートが好きなので、そういう意見はつらいな、と。なので、絵画や芸術のすばらしさを、専門知識も噛み砕いてエンタメ的に面白く描けたら、みんなも興味を持ってくれるかなと思ったんです」
かくて生まれたのが、ぱらりさんの本作。普通の暮らしさえ望めない境遇にいた霧生一希(きりゅう・かずき)の唯一の慰めは絵を描くこと。アート界にパイプを持つ資産家の嵐山透(あらしやま・とおる)に才能を見出され、一希は半信半疑ながら、絵を売って人生を変えていくことに目覚めていく。ぱらりさんは“何がアートの価値を決めるのか”という、多くの人が知りたかったテーマに挑む。
それまではアートに触れたり学んだりする機会がなかった一希だが、透をはじめ、美大で教鞭を執る雲井(くもい)や売れっ子アーティストの凪森(なぎもり)らから刺激を受けて急成長。その変化にわくわくする。
「一希は描かずにはいられないという衝動でやってきた部分があるわけですが、それを市場に乗せていこうとすれば、売れる絵とは何かも考えていかなくてはならないわけです」
たとえば、一希の境遇も、“反骨の”とか“逆境から這い上がった”といった美辞麗句にすることはできるが、そう単純な話でもないだろう。
「考え方次第で武器にもできるかもしれませんが、一希自身は自分の過去を一方的に消費されたら傷つきますよね。その中でどうしても衝突や葛藤が起きてくるはず。もっともそういう課題は雲井や凪森も同じ。もちろん絵に限らず、マンガや音楽…何でもそうだと思いますが」
一希の絵の特徴を、雲井は〈パッと見で連想するのはヴァロットン〉〈「黒」にこだわってるのかな〉等々、瞬時に見抜く。実際、一希ほか誰がどんな絵を描くのかは本作のひとつのキモだ。
「アート系のマンガをやるなら、登場人物が描く絵はすごく大事だなと思っていて。なので、そこも来歴を含めて考えていきました。一希なら、アカデミックな美術教育は受けていないけれど、幼少期からずっとドローイングを続けてきた独特の描写力はあるだろうな、といったように」
3巻では、一希が意欲を見せていた、アート新施設のオープン記念企画展をめぐる、マーケティング戦略の話が動き出す。それぞれの願いの行方を見守りたい。
ぱらり『いつか死ぬなら絵を売ってから』3 養護施設育ちの一希がネットカフェ暮らしをしていたときに、アートへの愛情や審美眼を持つ透と出会う。ボーイ・ミーツ・ボーイの物語でもある。秋田書店 748円 ©ぱらり(秋田書店)2023
ぱらり マンガ家。京都府出身。2014年ごろからSNSや同人誌などで活動を始め、商業デビュー。他の著作に『ムギとペス ~モンスターズダイアリー~』など。
※『anan』2024年5月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)