“恥ずかしくないもの”は世に出してはいけない!?
ゆっきゅん(以下、ゆ):柴田さんは学生時代に映像を学んでいたんですよね?
柴田聡子(以下、柴):そう、映像学科にいて、大学院まで。
ゆ:私も! 映画を研究するゼミで、大学院まで修めました。映像は作っていたんですか?
柴:作ってたけど、ヤバい奴だった。3年生の進級制作の時は、長い棒を作って天井から垂らすだけの作品を作ってて(笑)。4年生の時は山に行って歌う映像作品を作ったんだけど、それが山の景色しか撮っていないもので……。
ゆ:自分が歌うところではなく、歌を聞いている山だけを撮影?
柴:そう。私はその頃から徐々に歌うことに興味が出ていたんだけど、先生に「これからの時代、人に聞かせたって意味がないぞ、山とかに聞かせなきゃ」とか言われて。本気になって山に聞かせに行ったのが私です。で、講評の時は「これはなんであなたを写していないの?」って言われた(笑)。
ゆ:そういえば、柴田さんの歌詞って山がたくさん出てきますよね。
柴:登ったりはしないんだけど、山へは並々ならぬ感情があって。地元(札幌)に結構あるからかな。夜中に「8000メートル峰」のWikipediaを読んだりする。
ゆ:ヒマラヤ山脈とか? ご自身でMV制作もされたり、映像も山も活動に生かされてますね。
柴:ゆっきゅんの映画も、今の活動に生かされていると思う。
ゆ:最近の創作についても伺いたいです。曲の変化とか。
柴:年を重ねるごとに素直になってきた実感はあるんだよね。はったり風はやめて、本気で真面目にやってやろう、みたいな。そうしたら解放されてきて、めちゃめちゃ自分自身が楽になってきたの。
ゆ:これまでは言わないようにしていたことがたくさんあったり?
柴:いっぱいあった。でも、ビヨンセや宮﨑駿の映画やドキュメンタリーでその仕事ぶりを見ていると、誰かのため以前に、ちゃんと自分のためにやりたいことをしているなって思って。だから受け取り手を意識して表現の舵取りをする必要なんてないのかも、って最近は考えるようになってきたかな。
ゆ:自分が納得できる、本当にいいものを作ろうって感覚ですね。
柴:やっぱり創作はエゴの塊でしかないんだっていう諦めがついた感じ。恥ずかしいけど。
ゆ:素直になって、恥ずかしい?
柴:そう。今現在もずっと。
ゆ:わかります。“恥ずかしい”ってひとつの基準かも。世に出して恥ずかしくないものなんかないし。
柴:だよね、恥ずかしくいよう!
しばた・さとこ 1986年、北海道・札幌市生まれ。シンガーソングライター、詩人。2月に7作目となるアルバム『Your Favorite Things』を発売。現在リリースツアー中。ファイナルは5月31日の東京・Spotify O‐EAST。
ゆっきゅん 1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。X、インスタは@guilty_kyun
※『anan』2024年4月17日号より。写真・幸喜ひかり 文・綿貫大介
(by anan編集部)