日本でのライブは、まったくの未知の領域でした。
スンユンさんはほんの数年前まで韓国内でもほとんど知られていない存在だった。そんな彼の運命が変わったのは、今年シーズン3の放送が始まった韓国のオーディション番組『シングアゲイン』から。無名の歌手が歌で競い合うというこの番組で見事優勝し、一夜にして有名に。しかし、このオーディションに参加するまでには彼の中でかなりの葛藤があったそうで…。
「僕は、オーディション番組は自分に合わないと思っていて、それまでずっと避けていたんですよ。音楽で誰かと競い合ったり、途中で脱落したりすることが受け入れられなくて。それが悪いというわけではなくて、ただ、僕の性格には合わないだろうなと思っていました。でも、いよいよ音楽の道を諦めなくちゃいけないところまで追い込まれた時、最後にと思って挑戦したのが『シングアゲイン』でした。音楽をやめようと考えた時、あと1年だけ頑張ってみよう、どうせ最後になるなら音楽への未練を断ち切るためにもやり残したことは全部やってやろうと、番組への出演を決心しました。そこで運よく優勝することができて、こうして今も音楽を続けています。人生って、本当に不思議ですよね」
音楽に興味を持ったきっかけは、兄が好きだったブリットポップ。
「兄が音楽好きで、ギターを弾く兄を見て、僕も真似して始めました。当時はビートルズやU2、Coldplay、OasisなどUKロックが大好きで、いつか僕もロックスターになるんだと意気込んで曲を作り始めました。その兄は今は弁護士になりましたが、ミュージシャンになった僕を、兄も両親も応援してくれています。実は、日本のライブに両親がこっそり来ていたそうで、メールをもらって知りました。親が自分のライブを観に来てくれるのは恥ずかしいんですけどね…(照)。でも、日本でのライブがよかったと言ってもらえてうれしかったです」
今年、1年をかけて韓国全土をツアーでめぐり、4月には台湾公演も開催。その勢いで臨んだ日本での初ライブは、まるで韓国のライブハウスにいるのではと錯覚するほどの熱気に包まれていた。
「もともと事前にどんなライブにしようと頭で考えるタイプではないんですけど、日本でのライブはまったくの未知の領域でした(笑)。日本で僕の曲を聴いている人がいるだなんてまったく知らなかったし、日本に自分のファンがいることが信じられなくて、ただただありがたかったです。ライブをしながら『僕は今、東京でライブをしているんだ!』と思うと、不思議な気持ちになりました。あと、『かわいい』と言われるのが少し妙な気分でした。僕、今年で34歳なんですけどね(笑)。今回の来日ライブは今後の活動のためにやったというわけではないですが、もし機会をいただけるならば、日本の音楽フェスにも出てみたいです」
Zepp Hanedaで初の日本公演を開催!
ライブが始まる前から日本とは思えない異様な熱気の中、2ndアルバム収録曲「Wild Horse」からスタート。曲名どおりワイルドな歌声で会場を圧倒したかと思えば、本人もギターを弾きながら歌った「Open Your Textbook」や、「Some Some Some」では観客の手拍子に乗ってステージを跳ねながら客席を煽り、会場が揺れたと錯覚するほど会場中がジャンプ! 「Shelter Of Dreams」ではステージに負けない客席の大合唱で会場の一体感は最高潮に達し、スンユンさんも「ここは韓国かと思いました」と思わず笑みをこぼすほどの盛り上がりを見せた。「Pricey Hangover」では客席を前後に分けてコーラスのレッスンをした後、全員でサビを歌い上げ、その美しい響きに会場中が酔いしれた。アンコールまで全21曲、アーティストもファンも全力で駆け抜けた。
イ・スンユン シンガーソングライター。1989年8月21日生まれ。2021年にオーディション番組『シングアゲイン』で優勝。今年、2ndアルバム『Shelter Of Dreams 』をリリース。韓国全国ツアー「DOCKING」を開催し、初海外公演も行った。
※『anan』2023年12月13日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・尹 秀姫
(by anan編集部)