アーティストが先生? 多くの才能を育んだ伝説の授業が再び。
アルバースの教師としての経歴はドイツの造形学校バウハウスに始まる。第二次世界大戦を前に同校が閉鎖されるとアメリカに渡り、ブラックマウンテン・カレッジとイェール大学で教えた。会場ではこうした授業の様子をとらえた写真や貴重な映像も紹介される。
「アルバースの授業では、自らの手で試行錯誤し『経験すること』が大切にされていました。新しいものを作り出すためのアプローチを教える彼の教育は、今日なお新鮮で面白く感じられるのではないかと思います」
と本展を企画した学芸員の亀山裕亮さん。イェール大学で担当した色彩コースでは、色の相互作用とそれが私たちの知覚にどう影響を及ぼしているかがテーマに。例えば赤色の折り紙をオレンジ色と青色の折り紙の隣に置いた場合とでは見え方は変わってくる。境界線がはっきり見えたり、曖昧に見えたり。より鮮やかに見えることもあれば、くすんで見えることも。そうした色の相互作用を理論でなく実際に経験するのがアルバースの授業の真骨頂だ。こうした経験が学生たちの才能を開花させる礎となったことは想像に難くない。
「今回、展示室にはアルバースの授業課題を体験できるワークショップ・スペースを設置しています。学生を熱中させた課題に実際に取り組むことで、アルバースの教育をより深く知っていただきたいですね」
会場にはアルバースの代表作である《正方形讃歌》のほか、集大成である版画集《フォーミュレーション:アーティキュレーション》から15点を展示。授業を通じて学生と共に深めたアルバース自身の探究がどう作品に結実しているかも見逃せない。
図版1.リーフ・スタディ I 1940年頃
ブラックマウンテン・カレッジ近隣で採集した紅葉を使って。多様な明暗を持つ紅葉は授業の格好の題材に。
図版2.スタッキング・テーブル 1927年頃
バウハウスでは造形のための基礎演習を担当。ガラス画工房や家具工房でも教え、家具、食器などのデザインも手掛けた。
図版3.イェール大学で色彩の授業を行うアルバースと学生 1952年 撮影者不詳 Courtesy of the Josef and Anni Albers Foundation
「理論より実践が先」と考えたアルバースの授業はワークショップが中心。さまざまな色の錯覚を作り出す課題が提示された。
図版4.《正方形讃歌》1952‐54年 DIC川村記念美術館
正方形のフォーマットに色彩を配置した作品。隣り合う色同士がさまざまな効果を生み出す。
図版5.作者不詳[イェール大学の学生]色彩演習 1958‐60年頃 Courtesy of the Josef and Anni Albers Foundation
色紙を組み合わせ、まるで透き通っているかのような効果を生み出した、学生作品。
ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室 DIC川村記念美術館 千葉県佐倉市坂戸631 開催中~11月5日(日)9時30分~17時(入館は16時30分まで) 月曜(9/18、10/9は開館)、9/19、10/10休 一般1800円ほか 050・5541・8600(ハローダイヤル)
所蔵者について記載のないものはジョセフ&アニ・アルバース財団の所蔵 ©The Josef and Anni Albers Foundation / JASPAR, Tokyo,2023 G3217(図版1、2、4) Photo:Tim Nighswander/Imaging4Art(図版1、2)
※『anan』2023年8月9日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)