――今回は女王蜂のアイドル・ぁゔちさんにご登場いただきました。
ぁゔち:アヴちゃんは今回「メフィスト」の歌詞ですべてを言い切ったから、本人が蛇足のように意味を付け足したくないそうで、アヴちゃんからいろいろ聞いているぁゔちが代わりに召喚されました。
――アヴちゃんはアニメ化が発表される前から、原作の『【推しの子】』も読まれていたそうですね。
ぁゔち:連載の第1話が始まったときから好きで、丁寧に意地悪なことをやっている感じが特にお気に入りだって(笑)。エンディングが決まったとき、アヴちゃんは涙していましたね。
――『【推しの子】』の魅力をどこに感じていますか?
ぁゔち:人間をあくまでも性善説で見ているところ。アヴちゃんは『ガラスの仮面』が大好きなんですけど、情熱を大肯定していて、悪人すらも見捨てないあの作品と同じものを感じます。
――人間の業が見られる作品だと。
ぁゔち:業、大好きです。だけど、業よりも、若いうちの苦労が将来報われると信じられているのがいまの日本ですよね。簡単に言えば、「アイドルだから我慢しなさい」という免罪符。その考えに対してアヴちゃんはちょっと疑問を感じているし、『【推しの子】』という作品も根源からアンチテーゼを感じている部分はあると思います。
――そうした前提から、「メフィスト」が生まれたわけですね。
ぁゔち:ゲーテの戯曲『ファウスト』に登場する、願いを叶える悪魔・メフィストフェレスがモデルで。アイドルもお客さんの願いを叶える仕事だと考えると、メフィストという存在がアイドル性を帯びていてぴったりだなとアヴちゃんは感じたみたいです。
――サウンドとしても少し不穏さがあるように思います。
ぁゔち:妥協のない曲を作った結果だと思います! 冒頭はB’zの「LOVE PHANTOM」で、途中からレベッカの「フレンズ」って言ってました。
――アニメ関係者から何かリクエストはあったのでしょうか?
ぁゔち:イントロの長さとバリエーションのこと以外、リクエストは特になくて、「かっこいいのをください」と。アヴちゃんはそれに応えて、作品に対して心のままに向き合えたみたいです。
――歌詞の部分はどのように構成していったのでしょうか?
ぁゔち:この作品からはみ出している部分で言えば、全フリーランスを励ます内容ですね。原作者のひとりの横槍メンゴさんが、「母性を書いてくれた」と評してくださったのですが、そういう深淵を書けたのが嬉しいとアヴちゃんは言っていました。
――『【推しの子】』では、芸能界にいる若者が世間から注目され、中傷を浴びる様子も描かれます。アヴちゃんも音楽業界にいますが、その中で自己肯定感を保つコツはあるのでしょうか?
ぁゔち:自己肯定感って、泡や香りみたいに実体がないもの。例えるなら、生きやすくないから「生きづらい世の中」と言っているみたいですよね。それは人間の本質である生きて死ぬことから目を背けているだけと思うんです。
――SNSなどで自信を失う場合もリアルにあると思いますが。
ぁゔち:でも、SNSってまだ20年くらいのカルチャーだから、じつはそこに大きな力ってないんですよ。言葉自体には力があるけれど、SNSはあくまで道具。アヴちゃんはいつも、道具と夢に使われるのではなくて手懐けろ、って言っています。その手懐け方がもっと知られるべきだと思います。
じょおうばち 2009年結成のロックバンド。ボーカルのアヴちゃんはオーディション番組『0年0組‐アヴちゃんの教室‐』で先生役を務めた。ぁゔちはアヴちゃんの思いを代弁するアイドル。
TVアニメ『【推しの子】』 原作は、赤坂アカと横槍メンゴによる同名漫画(2020年より『週刊ヤングジャンプ』にて連載中)。伝説的な人気を誇る夭逝のアイドル・アイと彼女の子で双子のアクアとルビーを中心に、華やかだがシビアで残酷な芸能界やアイドルの世界をリアルに描いた作品。各配信サイトで配信中。©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
※『anan』2023年7月19日号より。取材、文・森 樹
(by anan編集部)