新たな刺激の連続で、気づいた時にはすっかり夢中に。
現在、フランスに拠点を置いている俳優の杏さん。初めて『RRR』を観たのは、飛行機での移動中。機内プログラムに入っていたのを見つけてのこと。
「今年2月頃だったと思います。SNSでの盛り上がりから今までにない“熱”のようなものを感じて、私も観たいと思っていたんです。ただ、どんな映画なのか全く見当がついていなかったんですよね。“映画『RRR』1分で分かる!特別映像”という公式動画を見ても、むしろ意味がわからなくて(笑)。とくに予備知識のないまま観たのですが……戸惑いなのか、喜びなのか。とにかく新しい刺激がすごすぎて、観終わった時には感情が迷子になっていました」
そうして機内で何度も見返すうちに、沼落ち一直線。その後は人に会うたびに『RRR』を薦め、ネットで監督や主演の二人のインタビューを読んだり、メイキングを見たりする日々。映画自体も劇場などで何度も観賞し、さらには『バーフバリ』にも興味を持ち、こちらも大好きになって何度も観ているそう。しかし、映画体験が豊富そうな杏さんが、なぜここまでハマったのだろう。
「それまで自分の中のエンターテインメントや価値観の基準は、10代後半とか20代の頃に聴いていた洋楽や邦楽から判断しているところがあったんです。でも、『RRR』は全く別の方向から新しい何かが現れたような感覚で。その刺激が大きかったんだと思います。ファンの方がSNSで“人生は『RRR』前と後の2種類しかない”と言っていましたが、確かにそうだなと思いました(笑)」
本作で、とくに印象的だったポイントを聞くと、
「この作品は、なにより音楽が大好きなんです。例えば、ビームがスコット邸を襲撃するシーン。ビームが水を、ラーマが炎を背負いながら戦う場面で、ワンショットの時にはそれぞれのテーマソングが流れ、二人がぶつかり合う時には『Dosti』という二人のテーマソングが流れるという。音楽との相乗効果で、そのシーンが完璧に作り上げられている。あとは、ビームが鞭で打たれながら『Komuram Bheemudo』を歌うシーンもとても好きでした。インドの音楽って、なじみがないようでいて、日本の四七抜きや三三七拍子に近いスタイルがあるなど、同じアジアということで、どこかで少しずつつながっている感じがするんです。母音が多いテルグ語は日本語圏の人も歌いやすいのでは。『RRR』が日本でこれほど愛されている理由の一つには、そんな親しみもあるのかも、という気がしています」
好きが高じて「Komuram Bheemudo」は、耳コピして弾き語りをするまでに! そんな杏さんは、自身が出演したアンソロジー映画『私たちの声』の主題歌が、第95回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、今年3月に開催された授賞式に出席。そこにはなんと、同じく歌曲賞にノミネートされていた『RRR』チームもいて…。
「授賞式の直前、もう開始のブザーが鳴っている頃だったんですけど、ギリギリのタイミングでラージャマウリ監督とお会いできたんです! 『大ファンです』とお伝えし、サインをいただき、写真も一緒に撮ってもらいました。近くにいたラームさん(ラーマ役)にもご挨拶していいですかと尋ねると、“こっちにおいで”という感じでラームさんを呼んでくださって、とても優しい監督だなと。ラームさんもすごく素敵でした。オーラがありましたし、あとなんというか、やはりラーマとは別人で、そこに演技のすごさというものを感じました」
その後も“マッリのバングル”を購入したり、字幕翻訳者さんのオンラインイベントに参加したりと、推し活を満喫中。『RRR』の今後の展開で期待したいことは?
「いつか、ストーリーボードを公開してもらえると嬉しいですね。どこまでが計画的に練られたものなのか、その中に偶発的なものはどれくらいあったのかなど、絵コンテからいろいろ読み解くのも楽しそうです」
杏さんの『RRR』愛
わかりみが強すぎる! 沼落ちイラスト。
『RRR』を初めて観てから推し活にいそしむまでの様子を自ら描いたイラストがInstagram(@annewatanabe_official)にアップされていて、『RRR』ファンから共感の声が続出! また、写真の杏さんは、アカデミー賞授賞式で撮影された一枚。監督&ラームさんとの羨ましすぎる初対面は、YouTube「杏/anne TOKYO」で公開中。
あん 1986年4月14日生まれ。現在公開中の劇場版『TOKYOMER~走る緊急救命室~』に出演。国立西洋美術館で開催中の「憧憬の地 ブルターニュ モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展では、アンバサダーと音声ガイドを務めている。
※『anan』2023年5月31日号より。写真・UPI/アフロ 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)