空前の成長を遂げるラグビー女子日本代表チーム。そのカギを握るカナダ出身のHC(ヘッドコーチ)に、異言語コミュニケーションの秘訣を特別インタビュー。

急成長を支える、女性HCの言葉。

Entame

2019年の、日本でのW杯開催以降、一気にポピュラーになったラグビー。男子に注目が集まりがちなスポーツだけれど、実はこのところ、女子の日本代表チーム「サクラフィフティーン」が話題だ。ここ数年でめきめきと力を付け、最近の国際試合では格上の強豪・アイルランドに初勝利。今年の10~11月にニュージーランドで開催されるワールドカップにも出場が決まっている。

この急成長をもたらしたのが、3年前に代表のヘッドコーチに就任した、元カナダ女子代表のレスリー・マッケンジーさんだ。ほとんどが日本人で海外経験もない選手たちの指導を、「挑戦しがいがある」と引き受け、チームを成長に導いた。「彼女の言葉で意識が変わった」などの声も多く聞かれ、選手から厚い信頼を寄せられるレスリーさん。異言語の壁をどう乗り越えてチームを作り上げていったのか、練習後のフィールドで語ってもらった。

言葉が違うからこそ、生まれる絆があります。

異なる母国語の選手たちを率いるレスリーHCが実行していることとは? チームへの熱い思いも聞きました。

Entame

圧をなくして、常にオープンに。

就任当初、多くの選手はシャイで、私と話したがりませんでした。けれどそれは、よく知らないHCに英語できちんと話さなければ、という“圧”が彼らの中にあったから。まず私が取り組んだのは、この圧をなくすことでした。選手たちが所属する学校やクラブチームに了解を得て、不安や疑問があったら私に直接聞いてほしいと伝えました。いつでもウェルカムだし、電話がしづらいならLINEでもいい。常に「オープンに話したい」という姿勢を見せました。するとみんなも、翻訳アプリなどを使いながら一生懸命取り組んでくれて、良いコミュニケーションが生まれるようになった。壁を作るのは言語の違いそのものではなく、先入観や内なるプレッシャーなのです。

相手の言葉を知り、バックグラウンドを学ぶ。

選手たちに指示を出す際に大事にしているのは、自分のメッセージを正確でクリアにすること。そのために、日本語のどの単語を選ぶべきか、通訳してくれるアシスタントコーチたちとは練習前に綿密に打ち合わせをします。

その一方で、自分もできるだけ日本語で話すように心がけています。言葉は架け橋。同じ言葉を使うことで相手のバックグラウンドを理解できることがあるし、私が日本語を使えばみんなも英語で話しかけやすくなると思うからです。キャンプ中は選手に言葉を教わることも多いですよ。最近のお気に入りは「ちんたら」(笑)。「みなさん、this morning too much ちんたら!(今朝はちんたらしすぎ!)」のように使います。

自分たちの共通言語を作り、主体性を育てる。

もうひとつ取り組んでいるのは、試合の中で即座にやるべきことを共有できる、自分たちだけのワードを持つこと。例えば、相手の攻撃を食い止める時に使う「侵撃」という言葉。これはただディフェンスするのではなく、相手の陣地に少しでも食い込むことをイメージして、選手たちが使い始めました。他にもボールを持った選手をサポートする時の「タツマキ」や「ハウス」などいろいろありますが、すべて選手たち自身が決めたもの。共通ワード作りは、作戦がやりやすくなるだけでなく、自分たちが考え出すことで選手に自主性が生まれる点でも重要です。自分たちが主体であり、力を持っていると感じられる。これはラグビーをする上で非常に大切なことです。

批判の言葉は、正直に、愛を持って。

指導の中で「正直」という言葉をよく使います。毎日のコミュニケーションの中で互いに正直であることが、より良いチームへと成長するために欠かせないと考えているからです。とくに、批判が必要な場面においては重要なこと。自分への批判は誰でも受け入れにくいものですが、チームスポーツを行う以上、仲間にそれを言われたら相手を信じなければいけない。その信頼の土台にあるのが、正直さだと思うのです。相手を傷つけるためではなく、愛があるから正直に話している。その共通意識があれば、批判も受け入れやすくなります。私自身も選手を批判する時は、「あなたの立場は重要だから、正直に言います」などと、必ず誠意を伝えるようにしています。

「コネクト」するためのキーワードを常に模索する。

他国に比べて体の小さい日本チームは、互いに頼り合い、つながらなければ始まらない。就任時に打ち出した「サクラウェーブ」というコンセプトも、全員がうねりのようにつながる様をイメージしたものでした。広く受け入れられたし、今も我々のチームをよく表している言葉だと思っています。

ただ、チームは進化している。ひとつのイメージにとどまらず常に新たなキーワードを据えていくことが、より強固なコネクトを生むために必要だと思っています。今もまさに、来月のW杯に向けて着々と準備中。テーマも固まってきています。言葉と気持ちでつながり合い、強豪国を相手に勇敢に戦う女子日本代表の姿をお見せしたい。楽しみにしていてください。

レスリー・マッケンジーさん ラグビー女子日本代表ヘッドコーチ。1980年生まれ、カナダ出身。大学時代からラグビーを始め、2006年、’10年のW杯でカナダ代表。現役引退後にコーチへと転身、ニュージーランドで選手育成プログラムなどに関わったのち、’19年から現職。2頭の愛犬との散歩が日々のリフレッシュに。

※『anan』2022年10月5日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) 取材、文・新田草子

(by anan編集部)

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