
漫画『今際の際のファムファタール』作者、文野 紋さんにインタビュー。
相手を好きだったことも、楽しかった気持ちも嘘ではないだろうから
『ミューズの真髄』完結後、離婚や友人の死を経験し、思うようにマンガを描けなかったという文野紋さん。時間をかけて感情を整理して着手した本作は、“誰と、どう生きるか”という切実さに満ちている。
「ひとりでも生きていけると思う半面、死んだらどうなるんだろうって考えるんです。数十年後、孤独を感じていない自信もないんですよね」
29歳の風香は、10年付き合って同棲しているゆうちゃんを運命の人だと信じている。しかし浮気現場を目撃して、婚約が破談。なかなか立ち直ることができなかった。
「私も風香と同年代ですが、周りを見るとこの先、子どもを望むかどうか決めている人が多い印象です。望む人は、どうしても恋愛や結婚が人生の軸になりますよね。風香もそういう価値観を参考にした、リアルな女性として描いています」
婚活を経て出会った聡介さんには、趣味嗜好が完全に一致していたゆうちゃんのような刺激はないが、穏やかに過ごせそうな気がする。ようやく前に進むことができると思った矢先、とある出来事で風香はまた心をかき乱されてしまう。
「3人とも、自分が部分的に共感できるところから作り込んでいったのですが、一番難しかったのがゆうちゃん。風香に対してやったことは最悪ですが、彼は好きだから一緒にいることと結婚がイコールにはならないタイプ。結婚に対する意識のズレが、風香との距離を生んでしまったのだと思います。一方で風香は聡介さんに、燃え上がるような感情を持てないけれども、お互いの人生観を尊重し合える気がしている。ある意味、理想的な関係性ですよね」
風香の気持ちを知ってか知らずか、どこまでも自分本位に見えるゆうちゃんに、あるとき風香は復讐を思い立つ。1巻だけでも、彼女の感情の振れ幅は尋常ではないのだが、大胆な構図やコマ割りなど、メリハリの利いた演出に引き込まれる。

Ⓒ文野紋/KADOKAWA
「今回の作品は特に、マンガだからできる表現に挑戦したいと思っています。私はドキュメンタリー映画が好きなのですが、意図せず映り込んだようなものを見るのが結構好きで。そこから読み取れることも意外と多いので、楽しみながらどんどん描き込んでいきたいですね」
ゆうちゃんは風香に何を望んでいるのか。彼女は本当に復讐を果たせるのか。それに対して聡介は…。物語の種がまかれ、2巻ではさらに感情がほとばしりそうな予感も。
「いわゆる復讐モノなのでしょうけど、それだけにはしたくなくて。どんなにひどい目に遭ったとしても、相手を好きだったことも、楽しかった気持ちも嘘ではないだろうから、自分だったら…と想像しています」
Profile
文野 紋
ふみの・あや マンガ家。2020年、読み切り「君の曖昧」で商業誌デビュー。主な作品に『呪いと性春 文野紋短編集』、『ミューズの真髄』(全3巻)。
information
『今際の際のファムファタール』1巻
10年付き合った“運命の人”に裏切られた、風香。長い暗闇で光が見えた矢先、再び心をかき乱されて復讐を決意。そのとき元カレに何が起こるのか…? KADOKAWA 924円
anan 2512号(2026年9月16日発売)より































