禁断の恋
他人には言えないからこそ燃え上がり、盛り上がる。禁じられた関係を描いた4冊。
森本木林さんselect
『私の男』桜庭一樹
孤児になった10歳の花を、若い淳悟が養女に迎えるが――。「ページを進めるごとに過去へ戻っていく描写は、読者に息を呑むような緊迫感を味わわせてくれます。腐りきっているはずの愛に、どうしてこんなにも激しく心揺さぶられるのか。淳悟と花の異様な関係は、巻き込まれた人々の人生を狂わせながら、より純度の高い愛に到達していくようです」。文春文庫 836円
三宅香帆さんselect
『卍(まんじ)』谷崎潤一郎
2組の男女の関係が卍のように交錯する、倒錯的な愛を描く。「同性愛を描きつつ、不倫の恋愛でもあるという、何重にも張り巡らされた『禁断』の恋に、ページをめくるたびに引き込まれてしまいます。関西弁で語られる恋愛は、深くて、本能的。性別を超えて、体が恋愛にのめり込む様子が子細に表現される谷崎ワールド。気づけば夢中になってしまいます」。新潮文庫 539円
川田未穂さんselect
『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄
年上の主婦と肉体関係を持つ高校1年生をはじめとする5人の視点で語られる連作長編。「人妻との不倫、しかもコスプレをしてアニメキャラになりきってのSEX。ただごとではない設定だけど、彼も彼女も普通でいられなかったのは何故? それぞれ生きることに厄介さを抱え、躓きながらも生きていく。答えは1つでなくともその意味が胸に迫ります」。新潮文庫 605円
及川貴子さんselect
『愛その他の悪霊について』ガブリエル・ガルシア=マルケス 訳・旦 敬介
悪魔憑きとして隔離された少女と、彼女の悪魔祓いのために訪れた青年神父を描く。「初めは激しく対立した二人ですが、いつしか惹かれ合います。青年神父は彼女が悪魔に取り憑かれているとは思えなくなりますが、彼の所属する教会はそれを認めない…。揺らぐ信仰、命、愛。本当に信じられるものはなんなのか。泥土の中の美しい祈りのような作品」。新潮社 2200円
森本木林(きりん)さん 読書研究家、本スタグラマー、ライター。4歳から読書を始めた無類の本好き。「私らしく生きていくための読書案内」をSNSやウェブメディアで発信している。Instagramは@morimoto_kirin
三宅香帆さん 書評家、作家。批評やエッセイの執筆のほか、文章の書き方や小説の読み方を伝える講師業も。好きなものは、小説と少女漫画と宝塚と女性アイドル。近著に『それを読むたび思い出す』(青土社)が。
川田未穂さん 雑誌『オール讀物』(文藝春秋)編集長。2020年に女性初の編集長に就任。’21年、大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を広めることを目的とした「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」を創設した。
及川貴子さん 日本出版販売ブックディレクター。本と出会うための本屋『文喫 六本木』にて、企画選書や展示イベントの企画を担当するほか、本のある空間のプロデュースを行う。よく読むジャンルは海外短編小説。
※『anan』2022年3月9日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・宮尾仁美 撮影協力・TITLES
(by anan編集部)